今回は、銀行の預金を盗む「預金泥棒」と、預金者から集めたお金を盗む銀行、すなわち「泥棒同然の銀行」との違いを考えてみたいと思います。もしあなたが被害者になるとしたら、どちらの被害者がまだましかを考えながら読んでいただきたいと思います。
「預金泥棒」と「泥棒同然の銀行」
◇ 預金泥棒: 銀行の預金口座から、預金者の許可なく「違法に」金を盗み出す者。その金は株や債券、外貨や物品、デリバティブなどの博打に投じられる。
◇ 泥棒同然の銀行: 銀行の預金口座から、預金者の許可なく「合法的に」金を盗み出す者。その金は株や債券、外貨や物品、デリバティブなどの博打に投じられる。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 盗んだ預金で行った博打の儲けはすべて預金泥棒の懐に入る。盗まれた預金者には儲けの分け前は与えられず、違法流用した元の預金が口座に戻されるだけである。
◇ 泥棒同然の銀行: 盗んだ預金で行った博打の儲けはすべて預金泥棒の懐に入る。盗まれた預金者には儲けの分け前は与えられず、違法流用した元の預金が口座に戻されるだけである。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 銀行の内部監査で盗みが発覚することを恐れている。
◇ 泥棒同然の銀行: 銀行自身が内部監査員を雇い、管理している。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 大蔵省の銀行監査員によって盗みが発覚することを恐れている。預金泥棒が、収賄を恐れる大蔵官僚を違法に買収することはできない。
◇ 泥棒同然の銀行: 「天下り」という合法的な方法で、大蔵官僚を買収することができる。買収された大蔵官僚は銀行が行っている盗みを助け、それを隠蔽する。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 捕まった場合、厳しい訴追や刑罰が待っている。なぜなら、政治家が、違法である収賄を恐れるため、自分の身を守ってくれるに十分な政治家を買収できるチャンスはほとんどないからである。
◇ 泥棒同然の銀行: 発覚しても告訴も刑罰も恐くはない。なぜなら保身のために、政治献金などを通じて政治家を合法的に買収できるチャンスがたくさんあるからである。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 違法に盗んだ預金を使って儲けた分で、盗用した口座にその預金を返済できる限り、いつまでもそれを続けることができる。
◇ 泥棒同然の銀行: 合法的に流用した預金を使って儲けた分で、流用した口座にその預金を返済できる限り、いつまでもそれを続けることができる。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 運に見放され、違法に盗んだ預金を返済できなくなった時、盗みが発覚する。
◇ 泥棒同然の銀行: 運に見放され、合法的に流用した預金を返済できなくなり、かつ大蔵官僚がその損失を隠蔽できなくなった時、盗みが発覚する。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 逮捕され、起訴されて刑務所行き。
◇ 泥棒同然の銀行: 過失のあった経営者でさえ、その地位に居座り続け、何事もなかったかのように高額な給料や手当てを受け取り続ける。あるいは合法的な窃盗に対する褒美であるかのように法外な退職金を手に、退職する。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 違法に盗用された預金が返済されなければ、預金者から預かっている預金の保証責任を持つ銀行が預金者にお金を返済しなければならない。銀行が返済できない場合、または、銀行が天下り先の提供や政治献金などで官僚や政治家をうまく買収し無罪になれば、政府が保証した分の損失は税金で返済され、それを超えた分は預金者が損失を被る。
◇ 泥棒同然の銀行: 合法的に預金者から流用し、預金者に返済できない、または返済したくない分については、いくつかの選択肢がある。
(1) 大蔵官僚に天下り先を提供して、合法的に流用した預金を博打ですってしまったことを、預金者や国民に隠すように説得する(実際、検察や新聞の発表でこのような隠蔽工作があったことが報道されている)。
(2) 大蔵官僚に天下り先を提供して、様々な優遇措置により課税所得額を低くさせることで、税金を支払わずにその分損失を補填できるようにする。腐敗した大蔵官僚に天下り先を提供できない普通の会社や一般国民は、もちろんこのような優遇措置を受けることはできない。大蔵省はこの方法で、銀行に対して過去数年間にわたり、博打での損失分を穴埋めさせてきた。
(3) 官僚や政治家に天下り先や政治献金を提供することによって、納税者に知らせることも、許可を得ることもなく、税金で博打による損失分を補填するように説得する。事実、日本政府は1991年以降、公的資金70兆円をこれに充ててきた。この金額は日本の莫大な公的負債の12.5% にも及ぶ。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 軽犯罪であり、この犯罪による損失を補填するために政府が税金を使用したことはかつてない。
◇ 泥棒同然の銀行: 重犯罪である。この犯罪による損失を補填するために、政府は巨額の税金を何度も投じた。
————————————————————
◇ 預金泥棒: 頻繁には起こらない。
◇ 泥棒同然の銀行: 日常茶飯事になっている。
————————————————————
【 結論 】
「預金泥棒」と「泥棒同然の銀行」は、その行動にほとんど違いはない。しかし、そのわずかな違いを見た時、預金泥棒による被害よりも、泥棒同然の銀行によって被る損害の方がわれわれ国民にとっては、はるかに深刻だということがわかっていただけたと思う。