「野田前郵政大臣からの返信」(No. 328)に対する私のコメントを読んだ読者から以下のような書簡をいただきました。最後に私からの返信を加えました。
No.328野田前郵政大臣からの返信を興味深く読ませていただきました。その中で自民党の政治家は米国からの様々な要求に一貫して屈してきたとあなたは批判されていました。こうした日本の譲歩によって米国側は確かに利益を得たと思いますが、我々日本の消費者も利益を得ました。米国が日本政府に圧力をかけなければ、悪名高き日本電信電話公社(以降、電電公社)が民営化されることはなかったでしょうし、我々消費者は今も高い料金を支払わされていたはずです。民営化前の電電公社職員の横柄な態度を私は今でも忘れられません。ユーザーである我々に対する彼らの横柄な態度、さらにはそのサービスには大変苛々させられました。米国からの圧力があったからこそ、我々は米国ではずっと以前から広く利用されてきた近代的なサービスを利用できるのです。技術革新により、電話使用料も安くなりましたが、私は電電公社がなぜ米国が行っていたことを最初からできなかったか不思議に思います。その答えは、電電公社が公共企業で独占的であったがゆえに、誰も電電公社に対抗できなかったからではないかと思います。それに対抗してくれたのが米国です。米国の電話システムは依然として日本より進んでいます。日本ではダイヤル回線などほとんど使われていないのに、未だにプッシュ回線を使うと追加料金が取られているのをご存知でしょうか。またインターネット利用者の回線利用料が高いという問題もあり、我々はそれが米国並みに早く下がって欲しいと願っています。
同様のことが、衛星市場でも起こっています。ご存知のように、国産大型ロケットH2の打上げが失敗しました。我々日本国民の税金が無駄になったのです。私は関係者から事前に、日本の技術レベルはまだそのレベルに達しておらず、そのためH2は失敗するだろうと聞かされていました。NASAから人を呼ぶ話もあったそうですが、立消えになったそうです。米国が関与していれば、我々の税金が無駄になることもなかったでしょう。残念ながらこのことについて誰も政府に苦情をいいませんが、こうしたことこそ納税者は問題視すべきです。
米国からの圧力は必ずしも批判されるべきものではないと私は信じています。日本人に利益をもたらすものもあるのです。日本の接続料算定モデルが理に適ったものでなければ、我々はたとえそれが外国からのものであっても、理に適ったものであれば外部のモデルを採用すべきです。米国からの圧力をすべて悪いものだと捉えるのは、良くないと思います。
回答
電電公社に対する私の見方は、読者とはまったく異なります。私は30年間日本に住み、私の経営する会社の社員760人も電話を多用していますが、読者が指摘したような、電電公社および民営化後のNTTから横柄にあしらわれた経験はありません。さらに、私は日米両国で電話を使った経験がありますが、現在も、また過去30年間も、米国の電話システムが日本より優れていると思ったこともありません。むしろ、以下のような体験から、日本の方が米国よりも優れていると確信しています。
1)
米国より日本のほうが公衆電話が普及している。
2)
日本の公衆電話は使いやすい。長距離電話でも短い通話であればそれほど多くの硬貨を必要としないが、米国で長距離電話をかける場合、最初に3分間分の通話料金が必要になるため、硬貨がたくさんないとかけられない。
3)
日本は米国よりかなり早い時期からテレフォンカードが普及したため、公衆電話を利用しやすい。
4)
日本ではNTT発行のクレジット・カードを利用すれば、4桁のパスワードと電話番号で日本中どこへでもかけられる。しかし、米国では地域電話会社が利益獲得のために熾烈な競争を繰り広げ、各電話会社がそれぞれクレジット・カードを発行している。各地域電話会社所有の公衆電話では、その会社が発行するクレジットカードしか使えず、他の地域電話会社所有の公衆電話で利用しようと思えば、37桁もの数字を打ち込まなければならない。電話会社を呼び出すのに11桁、クレジットカード番号を知らせるのに16桁、そして最後に自分のかけたい電話番号を知らせるのに10桁で、合計37桁である。もし、1つでも番号を押し間違えれば、最初からやり直しである。
5)
携帯電話も米国より日本で急速に普及した。
6)
高速PHSモデム・カードを利用した無線データ通信サービスが日本で普及して随分たつが、私の知る限り米国でそのような無線データ通信が利用できるという話を聞いたことはない。
7)
1960年代には、電電公社のDIPS(Denden Information Processing System:電電公社仕様のデータ通信用の汎用コンピュータ)などのシステムにより、通信やコンピュータの利点が低価格で中小企業に提供された。当時、AT&Tや他の米国電話会社が、同様のサービスを米国ユーザーに提供していたという話は聞いていない。
読者が経験した電電公社職員の横柄な態度、苛々させられたサービスについては具体例を教えていただければと思います。
衛星打上げ用ロケットH2の失敗ですが、私はむしろ、米国からの口出しや干渉なしに、日本が独自にこのプロジェクトを遂行できるよう見守りたいと思います。
米国政府による日本への内政干渉に対して、私は次のような考え方を持っています。
1)
米国および米国民のニーズおよび利害が、日本および日本国民のそれとまったく同じであったり、あるいは密接に関係していることなどほとんどない。したがって、米国政府が日本を内政干渉する場合、米国の納税者を騙し、米国や米国民を犠牲に日本や日本国民を助けるか、または日本を助けるふりをして、実は米国や米国民のニーズや利益のために日本に圧力をかけ、日本とその国民に有害な影響を与えているのである。ニューヨークの私の友人は、この読者からのコメントについてこう述べている。「読者からのコメントおよび返信には、なぜ米国が日本に通信回線の接続料の引下げを求めているのかという視点が欠けている。米国が接続料の引下げを求めているのは、米国人旅行者が日本で簡単に安く電話を利用できるようにするためではない。米国が望んでいるのは、米国人や米国企業が日本に乗り込み、日本企業を解体すると同時に利益をむしり取ることだけである。この問題に関する日本の報道にはすべてこうした本質の伝達が欠けているような気がする」
2)
この読者のように、他の国からの圧力が自国の利益になると称賛する日本人を見るのは非常に残念である。自国の統治に外国の圧力を必要とするのは、自国の未熟さ、幼稚さを認めることである。日本人は米国からの支援がなければ自国を統治できないほど、未熟なのか。自分の力で自国を治めることができない国が、なぜ世界を統治しようとする国連安全保障理事会の常任理事国になることを求めるのだろうか。
3)
かつての電電公社および現在のNTTは、郵政省の管轄にある。郵政省は他の省庁と同様、憲法の規定通り選挙で選ばれた国会議員によって統制されている。そして議員は、読者や他の日本国民によって選挙で民主的に選ばれる。したがって、選挙で選ばれた議員、議員が統制する官僚、官僚が統制する電電公社などの公的機関を日本国民が不満に思うのであれば、まずは選挙の投票率に目を向けるべきである。最近の日本の総選挙の投票率は、全国平均では40%台、大都市にいたっては20%台と惨澹たるものである。投票率が現在の倍以上あった1950年代~1970年代の高度経済成長期には、日本国民は政府に関心を持ち、かつ信頼していた。いわゆる先進国の中で、日本よりも投票率が低い、つまり日本より政府を信頼していないのは米国だけである。他の先進国、特に西ヨーロッパの社会民主主義国では、ほとんどの選挙の投票率が80~90%であり、信頼できる政府を選挙で選んでいる。
4)
多くの日本人が米国による支配や日本への内政干渉を黙認しているのは、日米安保の欺瞞によるところが大きいのではないかと私は思う。私がこれを欺瞞だと思うのは、日本が米軍による占領を認めているのに対し、米国は必ず日本を守るとは一言も約束していないからである。さらに重要なことは、安保によって戦後世代の日本人には雄の機能が育たなくなった。どんな動物や昆虫でも、雌は出産で弱くなり、その時期は戦えなくなるため、防衛機能は必然的に男性の役割となる。イタリアやドイツを含め、日本を除くすべての国が、男性に対し国を守る義務を教えている。この基本的な教育を怠ってきた日本は、戦後二世代にわたって、自国を守ることも、統治することもできない弱々しい男性を育ててしまった。
米国や他の国に日本を植民地として統治させたり、その国の利益のために日本を搾取させる前に、日本国民はまず自分達にとって何が重要な問題かを考え、それに関する知識を深めるという国民としての義務を果たした上で、その知識に基づいて自分達に誠実に仕えてくれる有能な国会議員を選挙で選出すべきです。また、すでに選挙で欠かさず投票している人は、米国に日本を支配させる前に、他の人にも投票を呼びかけるべきだと思います。
(読者からの2度目の返信)
まず始めに、私の意図を誤解して欲しくありません。私は日本に対する米国の圧力すべてを称賛しているのではなく、日本人に利益をもたらす圧力について述べているだけなのです。米国からの圧力の中でも、米国の意図が日本人の利益とたまたま一致しているものだけを評価しています。米国からの圧力の中には、もちろん日本人の利益とはまったく無関係なものもあります。国民の意見が政治に反映される国であるならば、あなたがいうように、自国の政治を変えることができない国民は未熟な幼児かもしれない。しかし、日本はまだ民主主義国家ではなく、簡単に政治を変えることはできません。国政に参画できないことから、日本の国民の大半が政治に興味を失っているのが現状であり、国民の意見を真剣に受け止める政治家が現れてきたのはつい最近のことです。日本に長い間住んでいるのであれば、あなたも日本の政治の欠陥を熟知していると思うのですが、なぜ国民の力で現状を変えられる、問題を解決できると信じているか不思議です。
先頃の東京都知事選挙では、確かに投票した都民は多かったようです。それは石原慎太郎氏が東京を変えるだろうと都民が信じたからでしょう。私もそれを期待し、彼に投票しました。もしあなたが、我々国民の力で物事を変えるべきだと主張するのであれば、憲法も含めた日本の制度を根本的に変更する必要があります。繰り返しますが、私は、日本がいつも米国に助けを求めるべきだといっているのではなく、日本の政治制度が大多数の国民の利益につながらない環境下では、米国からの圧力も時には利益をもたらすということなのです。
2度目の返信
私は米国人として、米国政府が他国の内政干渉に多大な時間やエネルギー、税金を浪費し、その一方で自国内の深刻な問題の解決にはほとんどそれらを費やしていないという現実を見るにつけ嫌悪感を覚えずにはいられません。米国政府は他国の人権問題を批判します。しかし、その国の国民を尊重するのであれば、言語道断ともいうべき内政干渉をするのではなく、彼らが自分達で問題を解決することを信じるべきです。
日本をより民主的にするために、日本の憲法や法律をどのように変えることができるというのでしょうか。
米国を建国した貴族達は、民主主義を軽蔑し恐れてさえいたために、民主主義から富と天分を得た貴族社会を守るため、金権主義的な米国憲法を作りました。米国民が過去200年以上戦ってようやく勝ち得たのが、今我々が目にしているほんのわずかな民主主義なのです。米国史のほとんどを通じ保持していた米国の憲法や法律よりも、日本の憲法や法律の方がはるかに民主的だと私は思います。米国を所有する富裕者や大企業は、過去の公職者の選挙でほとんどいつも2人の候補者を立て、有権者にその中のどちらか1人を選ばせてきました。確かに全体主義の旧ソ連では、指導者は国民に対し1人の候補者しか与えず、それに比べれば2倍に民主的だといえるのかもしれません。
ここのところ米国の新聞には、2000年度の「民主的な」大統領選挙について、6,000万ドルの選挙資金を用意したブッシュ候補対3,000万ドルを用意したゴア候補の戦いだと描写されています。日本の憲法や法律は米国に比べればはるかに民主的で、金権主義の影響が少ないように私には思えます。日本の問題は、大半の国民が自分達に与えられた民主的な政治力に関心を持たず、またそれをどう行使したらよいかを学ぼうとしない点にあると思います。日本の大半の社会、経済問題に対する解決策は、日本国民にその民主的政治力を使うよう説き、またその使い方を教えることにあると私は信じています。