No.344 記録的な愚行を重ねる日本のための「続・控えめな提案」

ロイター通信(1999年12月30日)は、1999年に日本は円高是正のために過去最高の資金を投じたと報じました。その記事によると、日本は円高によって戦後最悪の不況からやっと抜け出そうとする日本経済に新たなブレーキがかかることを恐れ、1999年だけで、過去最高の693億3,000万ドル(約6兆8,000億円)を為替介入に投じたといいます。また、同記事は、日本がよく単独で円高是正策としてドル買いによる為替介入を行うのは、円高になって日本の輸出企業の海外での収益が減るのを防ぐためだと説明されています。この見方は、前回のOWメモ「円高懸念に対する疑問」(No.343)で私が示した円高懸念の理由を裏付けるものです。いったい日本は、世界の1日の為替取引高が3兆円を超える現在、年間わずか6兆8,000億円の資金で為替レートに影響を与えられると考えているのでしょうか。それこそ過去最高の為替介入というよりは、記録的な愚行であると思います。

 今回のOWでは、ニューヨーク在住のエコノミスト、マイケル・ハドソンに、日本がこの円高と為替差損の悪循環から脱却するための提案を示してくれるよう依頼しました。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

記録的な愚行を重ねる日本のための「続・控えめな提案」

マイケル・ハドソン

 私はこのOur World「日本のための控えめな提案」(No.96)で、為替差損で失った外貨準備高を取り戻すために、日本が保有する財務証券を空売りし、それを金に換える提案を行った。今回はその続編として、海外からの資本流入によって起こる円高を抑制する新たな方策を提案したい。

 始めに明らかにしておきたいことは、現在の円高傾向は日本の貿易黒字の増加によるものではなく、自民党主導で進められてきたビッグバン政策によって、日本の株式市場や不動産市場に海外からの資金流入がもたらされたために起こっているということである。日本政府はこのビッグバンで日本の金融市場を開放し、海外から日本に資本を呼び込むことでバブルを再燃させ、それによって金融機関の救済を狙った。消費者や産業界、そして労働者の犠牲の上にこれは行われる。しかしこの政策が効を奏し、海外から資金が流入して株価を押し上げ、その結果、現在の円高となっている。

 こうした円高傾向を是正するのは非常に簡単であり、日本で誰も思いつかないのは驚きである。それは、日本の株と不動産の価格をスペインのエスクードかユーロ、あるいはロシアのルーブル建て、もしくは単純に金建てにするのである。通貨の単位を変えるだけで海外の買い手は円以外の通貨で日本の資産を買わなければならず、資本の流入が円の価値を押し上げることもないため、日本の輸出競争力を危険に晒すことはない。その代わりに、日本が価格を置き換えたユーロとかルーブルといった外貨の価値が上昇することになるのである。これによって、円を借りて公的債務を膨らませてドル買い介入を行い、米国の財務省証券に投資することで外貨準備高を増やすしかない日本を、その悪循環から救うことができるであろう。そして、この提案を日本政府が採用しないとしても、このようなことが日本で広く議論されるようになれば、日本国民が、資本勘定(株、債券、不動産)を、貿易勘定や直接投資と混同するようなことはなくなるであろう。日本では、貿易、もっと限定すると輸出にばかり固執し、こうした国際収支の分類が国民の間できちんと理解されていない。だから日本の経済政策が麻痺し、ひいては海外からの略奪的な資本の投機から日本を守ることができないのである。

 さらに、日本にはもう1つの選択肢がある。遠隔地にある日本の島の1つに新しい通貨を設定し、その新通貨を使って株や債券の取引を行うのである。その通貨は日本の為替市場に流入する分を含めた外貨の流入を反映して、円に対する価値を変動させるであろうが、輸出入価格には影響を与えない。つまり、円ともう1つの新しい通貨による二重通貨制度を確立するのである。これは資本勘定と貿易勘定でそれぞれ別々の為替相場を適用する二重為替相場制度とは異なるため、それを禁じるIMFの規則に違反することもない。ドルを基軸通貨とする世界的な為替変動に対抗する手段として、検討してみてはどうであろうか。