No.348 最貧国への借金は帳消しにすべき

今回は『Nation』誌より、巨額の債務を抱える世界の最貧国に対して「道徳的危機」を懸念する米国の対応は、自国内の借金帳消しを認める政策とは矛盾すると指摘する記事をお送りします。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

最貧国への借金は帳消しにすべき

『Nation』誌 1999年11月22日
ジェフ・フォー

 過去20年間にわたりIMFとその得意先である米財務省は、世界の最貧国へ融資を行う際に、民営化、社会保障関係費の引き締め、規制緩和を条件としてきた。その目的の1つは、最貧国の経済を米国流の資本主義に変え、経済成長を促すことで債務返済を可能にすることであった。

 しかし実際には、国民一人当たりの経済成長率は鈍化し、債務は累積し、最貧国は貧困と社会の分裂とが重なり合った下降スパイラルの罠に陥っている。サハラ以南のアフリカ諸国を例にとれば、債務の年間返済額は教育費と医療費の合計を上回っている。また、最貧国には属さないジンバブエでも、実質所得が 1991年以降37%減少し、25%の国民がHIV感染者またはAIDS患者であり、国民所得の4分の1が債務返済に向けられている。

 いわゆる第一世界と呼ばれる西側先進諸国の宗教、労働、人道団体からの国際的圧力が高まったため、IMFは不承不承ながら約40の重債務貧困国に対して、債務返済を免除することにした。クリントン大統領や、下院金融委員会議長を務める共和党議員ジム・リーチも、米国政府に対する債務の帳消しを提案したが、その提案は「健全な経済政策」の名の下に、債務返済のための外貨を輸出で十分に稼げるよう人件費を削減するなど、債務国にさらなる耐乏政策を迫るものであった。しかし、人件費はすでにかなり低く抑えられ、加えて下部構造が未発達、かつ公衆衛生が劣悪であるなど、IMFの公式をこれらの債務国に当てはめても、自力で財政的な蟻地獄から抜け出せる見込みはない。

 債務のほとんどが返済不可能だとすれば、債権国側はなぜこのような貧困国を搾取し続けるのか。銀行家にこう尋ねれば、「経済の間違いを犯してもその結果から逃れることが許されれば、人はその間違いを繰り返す」という道徳的危機の原理について講釈するだろう。こうした人間心理の観察は、単純化されすぎる嫌いはあるものの、道理には適っている。しかし、この概念を貧困で苦しむ社会に当てはめると危険な道徳による悪い経済状態を招く。債務の返済を求められているのは融資を受けた人々ではない。債務のほとんどが冷戦時代の腐敗した独裁者やその仲間に支払われた賄賂の名残であり、当の独裁者たちは賄賂を手に消えてしまってからすでに久しい。米国の作家・政治指導者であるマイケル・ハリントンはかつて対外援助について、「対外援助は富裕国の貧困者から、貧困国の富裕者への資源の移動である」と皮肉った。

 道徳的危機に対してなされる過剰な懸念は、現在世界で最も成功している米国経済の経験に真っ向から反する。米国こそ、道徳的危機の国である。世界最大の債務国であり、国連分担金さえ支払っていない。米国民の貯蓄率はゼロであり、消費者の負債は過去最高である。さらに重要なことは、米国は世界で最も簡単に破産宣言をし、その責務から逃れることができる国であり、破産宣言を行う個人や企業が年間150万件にも上る。破産審査裁判所から帰宅してテレビをつければ、信用履歴の悪い人々にさらに積極的に融資を行う企業の広告であふれている。

 これは、一見無謀なことのようだが筋道が通っている。第一に、現代の経済では、供給が財やサービスに対する実質需要を上回る傾向にあるため、乏しい収入を融資で補う必要がある。さらに信用拡張は米国経済を活気づけるだけではなく、低迷するアジア市場の中でアジア製品に対する需要が維持されており、米国消費者の負債に対する無頓着な態度が世界経済を恐慌から救っている。

 第二に、債務者に逃避手段を提供することは健全な経済秩序に根差している。債務者が本当に返済できないで、すでに価値の下がっている資産購入時の借金の返済に一生その価値以上の努力を強いられることは、社会にとっても利益にはならない。そのため、破産法の下で債務者は資産を売却し、不良債権を作った共犯者である債権者と損失を共有することにより、負債を清算することが認められている。

 こうした状況の米国と、破産保護が十分でない日本のような国との状況を比べて欲しい。日本では、何百万人もの国民が、もはや担保価値の半分しかない家屋や不動産に対する融資の返済に苦しみ、その結果、消費者支出や投資が麻痺している。米国では、銀行に家の鍵を渡し借金の清算を任せ、隣の州へ移って、また初めからやり直すことが可能である。実際、米国では富裕者が経済道徳を危険に晒すことでさらに裕福になっている。今では悪名高きロング・ターム・キャピタル・マネジメント・ファンドに投資した99人の百万長者が、ロシアルーブルの為替相場の動きを見誤って投資した時、連邦準備制度理事会と財務省は同ファンドに対する融資銀行に圧力をかけ、さらに融資を継続させることで、投資家に同じことを繰り返させた。

 世界の債権者達が、米国の資本主義を貧困国に輸出したいと本当に考えているのであれば、倹約を奨励するようなことはやめ、彼らにも米国繁栄の真の秘訣である債務救済を教えるべきである。