ニューヨーク在住のエコノミスト、マイケル・ハドソンは常々、日本の貿易黒字のほとんどが米財務省証券(米国債)の形で米国に還流されていることから、日本と米国は奴隷と主人の関係にあると指摘してきました。
ハドソンの主張を再確認するために、今回は、日本の対世界および対米貿易黒字と外貨準備高(このほとんどが米国に融資されている)の時系列データを用意し、同氏に再度意見を求めました。
貿易黒字と外貨準備高の関係に見る
日本の対米隷属
【 ハドソンへの質問 】
私が集めた1973年以降の日本の貿易黒字の累計(対世界および対米)と外貨準備高の時系列データを分析すると、日本の対世界の累積貿易黒字に占める各年の外貨準備高(外貨建て分)の1973年以降の平均は75%、また対米累積貿易黒字に占める各年の外貨準備高の平均は170%である。これを1978年以降の平均で見ると、対世界の累積貿易黒字に占める外貨準備高の割合は103%、対米累積貿易黒字に占める外貨準備高(外貨建て分)の割合は34%に相当することがわかる。つまり、1978年以降の平均で考えると、日本が世界から稼いだ貿易黒字は、100%以上が外貨準備高に向けられている。
このような統計を集めたのは、ハドソンの主張を数字で確認するためであり、日本は自動車や家電製品を作って貿易黒字を稼いでは、それを米国債購入の形でせっせと米国に貢いでいるようだ。しかし、これだけで日本は米国の奴隷だといえるのだろうか。
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貿 累 貿 累 外貨 累積貿易 累積貿易
易 積 易 積 準備高 黒字に 黒字
黒 貿 黒 貿 外貨 外貨 (対米国)に
字 易 字 易 建て分 準備高 外貨準備高
黒字 が占める が占める
対 対 対 対 割合 割合
(世界) (世界) (米国) (米国)
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1973 -1,384 -1,384 179 179 10,203 -737% 5700%
1974 -6,574 -7,958 117 296 11,347 -143% 3833%
1975 -2,110 -10,068 -459 -163 10,627 -106% -6520%
1976 2,426 -7,642 3,881 3,718 13,88 -182% 373%
1977 9,686 2,044 7,321 11,039 20,126 985% 182%
1978 18,200 0,244 10,125 21,164 28,896 143% 137%
1979 -7,640 12,604 5,972 27,136 16,357 130% 60%
1980 -10,721 1,883 6,959 34,095 21,567 1145% 63%
1981 8,740 10,623 13,312 47,407 24,669 232% 52%
1982 6,900 17,523 12,151 59,558 19,075 109% 32%
1983 20,534 38,057 18,182 77,740 20,249 53% 26%
1984 33,611 71,668 33,075 110,815 22,113 31% 20%
1985 46,099 117,767 39,485 150,300 21,916 19% 15%
1986 82,743 200,510 51,402 201,702 37,198 19% 18%
1987 79,706 280,216 52,090 253,792 75,378 27% 30%
1988 77,564 357,780 47,597 301,389 90,515 25% 30%
1989 64,328 422,108 44,942 346,331 77,993 18% 23%
1990 52,149 474,257 37,953 384,284 69,488 15% 18%
1991 77,788 552,045 38,221 422,505 61,758 11% 15%
1992 106,628 658,673 43,563 466,068 61,889 9% 13%
1993 120,241 778,914 50,168 516,236 88,721 11% 17%
1994 121,078 899,992 55,626 571,862 115,146 13% 20%
1995 107,068 1,007,060 46,154 618,016 172,444 1% 28%
1996 61,734 1,068,794 33,277 651,293 207,335 19% 32%
1997 82,191 1,150,985 41,399 692,692 207,866 18% 30%
1998
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1973年からの平均 75% 170%
1978年からの平均 103% 34%
出所: 『通商白書』、『経済統計月報』
【 ハドソンからの回答 】
まず最初に、奴隷制度で最悪なのは、アリストテレスも述べているように、奴隷がその立場を好んでしまうことである。奴隷がその立場に甘んじ、さらには主人に迎合し始める。これは白人を主人とする黒人奴隷になぞらえてアンクル・トム症候群と呼ばれるが、日本の場合はアンクル・サム(米国)症候群なのであろうか。
マルクス主義の観点から見ると、奴隷制度は生産様式の一つであり、その「生産様式」とは搾取の手段である。つまり古代の生産様式の半分は奴隷制度であり、残る半分は高利貸しであった。
奴隷とは、“法的に自由のない身分”を意味する言葉である。奴隷は財産を所有することもできれば、債権者になることも、自由な人々に対し独占権を持つこともできた。実際、奴隷は自分の自由になる私有財産やお金を所有していた。しかし、死んでしまえばその財産は主人に帰属した。日本が豊かになった今、米国は日本に対して、「米国の援助で育成された産業を米国に返せ」といっているように見える。日本は自国の貯蓄をその主人のために保持しなければならない。日本は好きなだけ稼ぐことはできても、その貯蓄は米国債(財務省証券)、つまり米国政府への融資という形で保持するのである。日本が米国債を売って、それを金に換えたり、重要な米国企業の所有権を買ったりすれば、米国は狼狽するであろう。
日本の外貨準備について最も重要なことは、対米貿易黒字の34%を占めているということだけでなく、全世界との貿易黒字の1973年からの累計に占める各年の外貨準備高(外貨立て)の割合が、1978年以降の平均で100%を超えているということにある。すなわち、日本はただ単に奴隷というだけではなく、「米国の」奴隷なのである。世界のどこで貿易黒字を稼いでも、それは主人である米国に帰属する。日本がいくら巨額の貿易黒字を稼いでも、そのほとんどはドル建てであるため、それを使って自国の財政赤字の解消すらできない。そこに日本のジレンマがあり、その意味で日本は精神的に米国に隷属しているといえる。
日本を奴隷に見立てると色々なことがはっきりしてくる。ギリシャやローマ時代の奴隷も貯蓄を保持することはできたが、奴隷であることには変わりがなかった。社会での立場や投票権もなければ、兵士にもなれず、自分の運命を自分で決めることもできなかった。
日本は国連での発言権は持つものの、国連安保理の常任理事国になることは、米国の発言権を2倍にするだけだと中国に反対されている。日本には本当の意味での軍隊がなく、独自の軍事政策もないことから、法的、軍事的立場は古代の奴隷同然だといえる。確かに政治の世界では「賛成」、「賛成です。お願いします」、「賛成です。ありがとう」といった程度の違いを争点に投票が行われ、政党も政策決定においてどの選択肢を選ぶかで意見を戦わせてはいるが……。
貿易黒字と外貨準備高の関係についてだが、外貨準備の元である国際収支全体が貿易収支の他にも資本収支(融資、投資、利子)や軍事支出、サービス収支などの要因によって左右されるため、例えばxx%以上の貿易黒字が外貨準備になったら異常とするというような関係付けはなされていない。むしろ今の時代、貿易は海外生産向けの部品の輸出など、投資活動と密接に結び付いている。(米国の場合、石油の輸入は米国企業に限定されていたため、石油にかかわるコストは利益でもあり(利益はリベリアやパナマで申告された)、国際収支には影響しないという特異性もあった。)
重要なことは、貿易黒字で稼いだドルを米国に還流せざるを得ない、ということが何を意味するかである。米国は第二次世界大戦以降、日本の社会主義化や共産主義化を阻止したり、右翼を支持したりと、日本の内政に常に干渉してきた(ロッキード事件を思い起こして欲しい)。これは米国が日本に対して法的拘束力を持っているわけではなく、「従属国の少数支配者」が主人である米国の支配を受けているのである。日本の政府与党の立場は、ハーバード大学のハーバード国際開発研究所(HIID)と結託して、米国から資金援助を受けたロシアの改革者に酷似している(このHIIDはロシアでの汚職が露見し閉鎖された)。日本の政府与党もロシアの改革者と同様、最初は米国に対し忠誠心を持っているものの、いずれ自分達に賄賂や便宜を図る個人や団体と結託し、最終的には日米両国に悪い結果をもたらすことになるであろう。