No.371 電子スパイの恐怖が欧州を襲う

太平洋戦争中、日本軍の暗号無線交信が連合軍に傍受/解読されていたことは周知の事実ですが、以前Our Worldメモでも取り上げたエシュロン・システムが今年2月、欧州議会において再び議題に取り上げられました。日本では、意図的かどうかはわかりませんが、このエシュロンが新聞やテレビで報道されることはほとんどありません。青森県の米軍三沢基地にもエシュロンの一部の通信傍受システムがあるとのことですから、日本国内の通信が傍受されている可能性はかなり高いと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

電子スパイの恐怖が欧州を襲う

『ニューヨーク・タイムズ』紙 2000年2月24日
スーザン・デイリー

 米国、イギリスを始めとする英語圏の国が、冷戦時代の盗聴ネットワークを使って経済で優位に立とうとしていることに対して、米英両政府が必死に否定しているにもかかわらず、欧州全域にそれに対する懸念が高まっている。

 この話題は、ブリュッセルの欧州議会で数時間にわたり討論されると同時に、欧州大陸全域で新聞のトップ記事となった。ある政治漫画は、イギリスが欧州連合への加入を決めながら、米国と浮気していると描いた。騒ぎが大きくなったのは、欧州議会のために用意された報告書が、エシュロンと呼ばれるネットワークが傍受した情報によって米国企業が欧州企業を制して有利な立場に立ったケースが少なくとも2件はあったと報じたからである。

 今回の追求の真偽は別としても、商業スパイの疑いはここ数年、定期的に浮上している。冷戦時代に軍事システムが開発されたと認めることにはやぶさかではないヨーロッパ人も、それが英語圏のビジネスを助けるために使われているという事実には憤慨している。

 ワシントンで最近公開された機密文書によると、エシュロンは1970年代、米国の国家安全保障局(NSA)が、オーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランドと共同で開発した、各国の監視局を結ぶネットワークである。

 英米両政府は、自国の経済を支援するために秘密情報を使っているとの今回の指摘を即座に否定した。イギリスのブレア首相は「答えはノーだ。このシステムはきわめて厳格なルールに基づいて管理されており、そのルールが曲げられることはない」とロンドンで語った。ワシントンでは、国務省報道官のジェームズ・P・ルービンが、「米国諜報機関は、米国企業を支援するために産業スパイ活動の支援や企業秘密の傍受を行うようにとの指令はいっさい受けていない。報告書の中身についてはコメントできないが、NSAが民間企業に機密情報を提供する権限はないと断言する」と述べた。

 しかし、この否定はヨーロッパの怒りを鎮めるまでには到底至らず、米国のスパイ活動による傍受を防ぐために重要な情報は暗号化するよう奨励しているフランスでは、特に激しい怒りをかった。フランスの法務大臣は、エシュロンは冷戦期にソ連とその同盟国を盗聴する軍事システムとして1948年に作られたものだが、「そのネットワークは今日、経済スパイとなって競争相手を監視し続けている」と述べた。

 最初に商業スパイ行為の疑いが出た後、今からちょうど1年半前、欧州議会はフリーのジャーナリスト、ダンカン・キャンベルにその調査を依頼した。その18ページからなる報告書が2月23日に発表され、今回の騒動になったものである。新聞記事を情報源に書かれたこの報告書によれば、米国政府がエシュロンによる盗聴で得た情報を自国企業に流した結果、米国企業は少なくとも2件の受注競争で欧州企業を打ち負かしたという。

 キャンベルの説明によれば、エシュロンは、衛星システムと、全世界で電話、電子メール、ファクスを傍受する最低10の盗聴拠点を結ぶ広大な共同システムであるという。保守派の議員の中には十分な証拠に欠けるとして報告書に懐疑的な者もいるが、キャンベルは1995年の「詳細情報に基づく」新聞記事を引用し、エシュロンを通して入手した情報がボーイング社と当時のマクダネル・ダグラス社にわたったと記している。両社が、サウジアラビア政府から60億ドルの契約を受注しようとしていた当時、エシュロンはヨーロッパの共同企業体、エアバス社と、サウジ航空およびサウジアラビア政府高官との会話を傍受したという。

 またスパイ情報は米国企業、レイセオン社をも助け、アマゾンの森林監視システム13億ドルの契約がフランス企業のトムソン-CSF社から同社に移ったという。しかし、米国企業にその情報がどう役立ったかがわかるような詳しい資料等はほとんど見つかっておらず、それぞれについて短く記されているだけであった。欧州連合の役員会は、証拠不十分として、この種の産業スパイを厳重に取り締まるべきだとの要求を退けた。「それは噂に過ぎず、噂は取り合わない」。欧州連合の単一市場化に責任を持つ委員長、フリッツ・ボルケスティンは、データ保護に関する議会公聴会においてこう語ったという(ロイター電)。

 ここ数年、エシュロンだけではなく、米国や同盟国の通信に対する過度のプライバシー侵害について、米国内でも批判が高まっている。諜報機関によって冷戦期に開発されたこのエシュロン・システムは、正当な理由もなく国民を監視するために誕生したものだとする評論家もいる。