No. 382(「逆進税」)で、米国の税制が第二次世界大戦後一貫して逆進性を強め、富裕者に軽く貧困層に重くなった傾向をラビ・バトラの著書を引用して説明しました。今回はそれと同じ傾向が日本にも見られることを、税制に関する政府与党の発表から取り上げます。
贈与税、相続税の軽減は富裕層に対する優遇措置
5月19日、自民、公明、保守の3党は、政策責任者会議を開き、次期衆院選に向けた与党3党の共通公約をまとめ、税制面については、年間60万円となっている贈与税の基礎控除額を引き上げ、親から子などへ財産を贈与する場合の税負担を軽減することにした。与党は、高齢者世帯から子や孫への生前贈与が増えれば、子育てなどで出費のかさむ世代の助けになるほか、個人の金融資産が消費に回され、景気刺激効果も期待できるとしている。相続税については、国際的にも高いといわれる最高税率70%の引下げなどの検討がすでに始まっている。さらに、株式の譲渡益課税については、市場への影響、投資家の便益等を考慮しながら今後とも引き続き検討すると発表した。株式の譲渡益課税に言及したのは、株式を売った際、売却額の1.05%だけを納めればいい「源泉分離課税」方式が2001年4月に廃止されることについて、証券業界などから存続を求められているためだ。
(『読売新聞』、2000年5月20日朝刊より抜粋)
耕助: 相続税にしても、贈与税にしても、その軽減は、金融資産を持つ富裕者あるいはその子孫を優遇するものである。さらに、最後に述べられている株式の譲渡益課税は、売却代金の一定割合を利益と見なして課税する「源泉分離課税」が2001年4 月に廃止され、実際の売却益を自ら申告する「申告分離課税」に一本化されることに起因するものである。これについて自民党内には、源泉分離の廃止は売却益の多い投資家には実質的な増税となることから、源泉分離の廃止延期、さらには譲渡益にかかる26%の税率を20%に引き下げることなどが検討されているという。富裕層を念頭においた選挙対策としか思えない与党の政策転換および公約発表は、こうした減税分をどこで補填するのか、その財源については触れていない。ただし、昨年来より、首相の諮問機関である政府税制調査会が行っている発表を見ればNo. 381~383でラビ・バトラの分析をもとに説明したように、米国と同様、貧困層や中流階級を犠牲にしようとしていることは明らかである(以下の記事を参照)。選挙資金を提供してくれる富裕層にその見返りを提供しようとする一方で、一般国民を犠牲にする日本の政策は米国と瓜二つである。
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消費税率5%上げ必要、10兆円減税分補う
◆◇◆ 経済情勢見極めて ◆◇◆
政府税制調査会(首相の諮問機関)の加藤寛会長(千葉商科大学長)は3月7日までに読売新聞社と会見し、消費税の税率について、「(所得税などの)減税がこれまでに10兆円もされている。この減税分だけ消費税を上げるという提案ができる」と述べ、過去の減税分を消費税の税率アップで補うべきだとの見解を明らかにした。あわせて、消費税を10兆円増収するためには、税率を現在の5%から倍の10%に引き上げる必要があるとの考えも示した。
政府税調は、6月に中長期的な税制のあり方を示す「中期答申」をまとめる予定で、加藤会長は、中期答申に消費税率の具体的な上げ幅や時期を明記することには慎重な姿勢を示したが、過去の減税分を消費税収増で「補てん」する考え方は、答申に盛り込みたいとの考えを明らかにした。
加藤会長は、消費税率引き上げの時期について、「日本経済の回復ができるならば2003 年からやっても良い」と述べたが、「経済回復が遅れれば2010年まで遅れる可能性もある」として、経済情勢を慎重に見極めたうえで判断しなければならないとの考えを強調した。
(『読売新聞』、2000年3月8日朝刊より抜粋)
耕助: 日本が米国に見られるような貧富の格差の増大や二極化を避けたいと考えるのであれば、1960年以降、繁栄を崩した米国の失敗を真似ることを止め、1960年代から1980年代初期まで日本を成功に導いた累進的な税制に戻るべきである。