No.387 「日本人を幸せにする企業経営とは」に対するご意見と私のコメント(3)

No.353(2/22)、354(2/24)で、私の経営理念として「日本人を幸せにする企業経営とは」をお送りしました。今回は、寄せられたご意見やご質問に対する私の回答をお送りします。

「日本人を幸せにする企業経営とは」
に対するご意見と私のコメント(3)

* 「スケールメリットの利点がなくなりつつあると確信」とのことですが、世界の自動車会社や携帯電話の会社がスケールメリットを求めて世界再編成を行っていることは自明のことです。我々もその大きな潮流に押し流されまいともがいているところです。

回答: 私はこの意見に同意しかねます。自動車会社が再編成を強いられているのは、これまで生産能力や流通規模を拡大しすぎた結果であり、過去の行きすぎを調整しているにすぎません。過去の過剰な拡大、スケールメリットの行きすぎた追求によって、世界では今や年間2,000万台の車が余剰生産されているといわれています。銀行も大規模な小売業者も同様の問題を抱えています。また、携帯電話についていえば、民営化された国営電話会社が、国家の通信基盤の重要な部分を民営化するという政府の愚かな決定になんとか対処しようとしているにすぎず、また新規参入の通信会社は、その政府決定に乗じて最も利益率の高い事業分野をせしめようとしているだけです。

* かつては日本が世界市場を当てに色々な商品を輸出してきましたが、今は世界の資本が日本をも巻き込んだ世界再編成を行いつつあると感じています。自国の幸せだけを考えたナショナリズムは通用しなくなっていると感じています。本当にどうしたらいいのでしょうか。

回答: 日本政府が、日本国民と日本企業を保護するという本来の義務を果たしているのであれば、世界資本に日本を再編成するだけの力はありません。問題は、日本政府がもはやその義務を果たしていないという点にあります。日本政府は米国発のプロパガンダを鵜呑みにし、その命令に従っています。米国では自由貿易が原因で生活水準が低下し、貧困が増加し、失業やその他の社会悪も増えています。その傾向は、関税や貿易障壁を引き下げたすべての先進国にも見られます。日本経済は、国内の製造業を保護するために保護貿易主義政策をとっていた時代には健全でした。しかし市場を開放しグローバル化を目指し始めてからは、米国や他の先進国と同様の問題が日本にも生じています。自由貿易は、日本の製造業の空洞化を招き、日本ではすでに過去最悪の失業率や倒産件数、倒産による負債額、自殺件数、麻薬中毒や犯罪、さらには最低の結婚および出産件数が記録されています。日本は他の国を模倣する前に、手本とするその国が繁栄しているのか、衰退しているのかをまず調べてみるべきです。米国のような急速に衰退している国を真似るべきだという理由はまったく見つかりません。この10年間、米国のプロパガンダを鵜呑みにし、その圧力に屈することで衰退を招いてきた日本は、この辺で、米国への隷属を客観的に検討し始めるべきではないでしょうか。米国を模倣したり米国からの要求に屈し始める前までは、日本はなぜあれほど繁栄していたのか、またそれ以降はなぜ急速に衰退し始めたのかを考えてみるべきです。

* 日本の高度成長期がそんなに立派だったとも思えません。当時の状況が、他との摩擦や矛盾をあまり生まなかった経済段階だっただけで、現在の問題の多くは、この時期に播かれた種の結果という面もあります。「リーダーが変わり、考え方が変わって日本が悪くなった」という主張のようですが、「状況が悪くなり、考え方、やり方を変えざるを得なくなり、より問題のある悪い方向を選択しようとした」とも考えられます。

回答: 私は日本が高度成長期に最も繁栄したのは、国内消費向けに国内で生産していたからだと思っています(日本国内で販売する製品を国内製造する)。当時、日本にない必要不可欠な天然資源などの輸入に必要なだけの外貨を、輸出によって稼いでいました。海外との競争から国内市場を保護することができたのも、必要不可欠なものを輸入するのに十分な量しか輸出していなかったためです。その後、少数の大企業が主に自社の利益追求のために輸出を増やし始めました。日本の全輸出の52%は、わずか30社の大企業によって占められており、それらの売上合計はGDPの12%を占めているにもかかわらず、法人税は売上の1%しか納税されておらず(企業全体では売上の5%が法人税として納税されている)、それら企業が雇用する従業員数は労働人口全体の1%未満にすぎません。輸出に依存するこれらの大企業は政治献金で政治家を買収し、天下り先の提供で官僚を手なずけ、広告費でメディアまでを味方につけて、大企業の目先の助けにはなるかもしれないが、長期的には大企業はおろか日本国民すべてに不利益となる「自由貿易」政策を日本が採用するよう操作しているのです。これが私の考える日本の主な変容です。今日、日本政府は大企業の世界市場での利益追求を後押しするために、海外でそれが受入れられるように他国からの内政干渉さえ認め、大企業寄りの政策を進めています。

* 日本は鎖国する訳にはいかない。日本企業は米国のルールの中でも勝てなければ(守れなければ)ならない。確かにバーチャルな商売(為替による儲け)は変だと思うが。

回答: 徳川時代のように再び鎖国する必要はありませんが、ここ10~15年のように広く開放するべきではありません。日本のGDPの98~99%は国内経済によるものであり、98~99%の経済を犠牲にして、わずか1~2%に関与する輸出企業を利するグローバル化を採用するのは馬鹿げています。米国が作った、あるいは作ろうとしているルールは米国の利己的な国益に基づくものであり、日本や他の国がその一方的なルールに則って行動するのは、あまりにも愚かなことです。

* 寄生虫とはおそらく規制のことだと思う。色々な規制のためにやりたいことを自由にやらせないことが問題なのだろう。だれか一部の人間が既得権益を維持しようとしている。ベンチャー企業がどんどん生まれてくる世の中であれば、資本主義でも良いと思う。ただその時、資本家=従業員 であることが必要である。最近、ストックオプションの導入が計られているが、これは、資本家=従業員の構図に近いものと思う。

回答: 社会において、個人が自由に好き勝手な行動をとることは許されません。そうした自由が欲しければ、社会からの恩恵を受けることもやめて隠者として山奥ででも暮らすべきです。交通機関、通信、教育、治安、その他社会が提供する利点を享受したいのであれば、社会としての機能を実現させるために必要な規制に従わなければなりません。日本で1200年以上にわたりうまく機能してきた規制は、2400年前のギリシャでプラトンが提唱したものと同じであり、2000年の歴史を持つ中国でも同様の規制が敷かれてきました。しかし、規制を作る者が寄生虫にならないようにするためには儒教のような道徳教育が必要です。日本でもそうした1945年以前の道徳教育を受けた人たちが官僚だった頃はうまく機能していました。その人たちが引退した1985年以降は、そうした道徳教育を正式に受けていない人達が官僚になり、日本の規制制度がうまくいかなくなったのです。またストックオプションですが、ストックオプションの所有者は株価が上昇しなければ利益を得ることはできません。したがってストックオプションは所有者に短期的な収益を求めるよう奨励するだけであり、顧客や社員、企業の長期的な健全性を犠牲にし、株価の短期的な上昇を求めさせることにつながります。

* 日本的「和」もって尊しとする考えと、個性を良しとする西欧の子供時代からの価値観が違うことが、国家間の交渉などではハンデになるのではないかと思っています。でも、世界は狭くなり、自国の中だけでは生きていくことができない時代になってきたこと、そして人間の欲のある限りどこかで必ず不幸な人が出てくると考えます。極論をいえば、個人の他人に対する支配欲は、全国民に対して満足させることは絶対に不可能なのですから。

回答: 実際には、世界が狭くなるはずなどなく、その大きさは1万年前と変わっていません。問題は、日本を含めあまりに多くの国が、グローバル化に関する米国の圧力やプロパガンダに負けていることにあります。グローバル化は、巨大企業が他の人々を搾取するのを助けるだけです。なぜならば、生産には世界最低賃金の労働者を使い、消費者が最も豊かな国を販売市場として選ぶというようなことは、最も大規模な企業でなければできないからです。グローバル化は、そうした大企業以外すべてに損失をもたらします。日本政府は米国からの圧力に負け、またグローバル化に関するプロパガンダに騙されることで、グローバル化の主役である国内外の大企業による飽くなき搾取から日本国民や企業を保護する力を失い、結果として日本国民を見捨てているのです。

* 「労働」の価値のみを強調するのはいかがなものかと考えます。理想論的には、「労働」のみに価値を見い出す共産主義が最も優れた制度であると思われますが、この制度が実社会ではうまく機能しないことは、歴史が証明したと思います。資本主義が最良の制度ではないことは多くの先人が指摘している所でありますが、最も危険の少ない制度であることも証明されているのではないかと考えます(「情報公開」、「ディベート」などの工夫により、改善は可能)。「お金」(資本)が富を再配分するための必要悪であることも、同様かと考えます。

回答: 資本主義が成功した主因は、イギリスと米国の支配者階級が、自国の国民に対しては警察や刑務所、他の諸国には戦争や帝国主義、植民地化政策という手荒な方法を用いて無理やり受け入れさせたからだと私は信じています。米国がソ連や中国の共産主義を倒したのも、何十年間にもわたる武力攻撃や威嚇を行った後であり、また日本で共存共栄の考え方がすたれたのも、米国が数十年間にわたりマインドコントロールを続けた結果です。加えて、共産主義政府を樹立したのは、カール・マルクスやフレデリック・エンゲルスの警告を無視した帝政ロシア、蒋介石の中国、バプティスタ政権のキューバなどでした。逆に、イギリス、米国、その他の西欧諸国が共産政権を回避したのは、資本主義は規制しなければいけないというマルクスやエンゲルスの警告に耳を傾けたからです。日本人が共産とは呼ばずに、共存共栄と呼んでいる日本の高度経済成長期は、資本主義よりも共産主義の考え方の方が優れていたことを示す良い例だと私は信じています。