No.353(2/22)、354(2/24)で、私の経営理念として「日本人を幸せにする企業経営とは」をお送りしました。今回も前回に引き続き寄せられたご意見やご質問に対する私の回答をお送りします。
「日本人を幸せにする企業経営とは」
に対するご意見と私のコメント(4)
* 米国は、日本にいろいろな面でアンフェアな要求を突き付け支配しようとしていますが、これに正論で対抗することはできるでしょうが、結果的には日本は負かされるのではないでしょうか。ここからは、私の想像ですが、その理由は、戦勝国と敗戦国の立場の違いからスタートしていることで、日本は米国という親に育てられたことによる非公式にいいなりにならざる得ない密約的な足かせに縛られているように思います。それでないと、日本の弱腰が説明できません。それほど日本の政治家も馬鹿ではないと思っているのですが。したがって、これは実力で日本を認めさせ、過去の密約をひとつずつ取り払って日本の正論が認められるようにしていくより仕方ないのではないかと考えています。
回答: 日本は米国からの不当な要求のほとんどを簡単にはねつけることができます。唯一懸念されるのは、制裁措置として米国政府が日本の大企業からの輸入を制限するのではないかということだけです。ただし、輸出に依存する企業は政治献金や天下り先の提供により政府を支配し、メディアの売上の大半を占める広告費を提供することにより、世論をも操作しています。したがって、日本政府は米国との密約を自ら暴露し、それを取り消していくことは簡単にできるかもしれませんが、輸出に依存する大企業との癒着関係から逃れることは難しいでしょう。そのためには、日本国民が選挙でその意思を表明する以外にありません。
* 修正資本主義の必要性、企業の成功は個人の努力、能力だけでなく社会からの恩恵によるものが大であるとの意見に賛成である。しかし、その社会をリードすべき政治に対する圧力の方法が数年に一回しかなく選挙しか思い当たらない。他の方法をも模索すべきであるが、いまだに答えが見つからない。社員を守らない経営者はおかしい、そうした経営者(企業)を評価する社会はもっとおかしい。
回答: 政治家に影響を与えるためには選挙で投票するだけで十分だと私は考えます。政治家が世論を気にかけなくなったのは、ここ数年、投票率が極めて低くなったためです。政治家に圧力を与えるには、投票率を100%に近づける必要があります。民主主義国家の中で、過去半世紀にわたり1党支配が続いたのは日本だけであり、また米国では民主党も共和党もともに富裕者や大企業の利益を代表しており、同じ政党の2つの派閥にすぎないという状況です。世界の民主主義国家の中で日米の投票率が極めて低いのも、単なる偶然ではないと思います。
* かなり多数の日本人が投票にいかなくなったのは、無知や怠情ではなく、ひとつの意思表示だということです。現行の選挙制度のもとで、あなたのいう戦後アメリカ流の教育を受けた立候補者をどう選んでみても、大した変化のないことは、この数年間にあった政権交替(細川政権、村山政権)を見てもわかる。ある意味では、民主主義という制度の限界といってもよい。衆愚政治に陥りつつあるということかもしれない。
回答: 様々な民主主義国家を比較してみると、投票率が高い国の政府は国民の声に敏感なのに対し、投票率が低い国では政府が国民の要求に耳を傾けていません。政治家は他の国民同様、職を失いたくないため、選挙で落選することを最も怖れています。国民の意志を無視すれば議員の職を奪われると知っている政治家は、国民の意志を無視しません。逆に国民の意志を無視しても当選できると考える政治家だけが、それを無視するのです。選挙で棄権するのは現職議員に投票するのと同じことです。なぜならば、投票率が低ければ現職が最大の得票率を得る傾向があるからです。日本の国民は、例えば教育制度を変えたいと思っても、自分達では変えられないということを思い起こすべきです。教育制度は文部省の管轄であり、国民は文部省に直接的な影響力を持っていません。国民が直接的な影響力を持つのは政治家に対してだけであり、したがって教育制度を変えようと思えば、自分が支持する教育制度を目指す議員に自分が投票するのはもちろん、投票率を上げるために他の人にも投票を呼びかけるしかありません。私は1945年以前に見られた日本人固有の価値観、文化、教育制度というものが、今は存在しなくなったと見ています。日本の価値観に基づいて国家を統治する政治家が現れるまで、米国の圧力に屈し、米国のプロパガンダを鵜呑みにするような政治家や政党は次々に落選させていくべきです。
【 日本社会の変化 】
* アングロサクソン全面否定、日本の旧体制全面肯定のような感じを受けます。また、今、日本で起こっている問題がすべて、アメリカを真似たからといった感じです。本当にそうでしょうか。第二次大戦敗戦に至るまでの、明治の教育を受けた人たちのひどい不始末があったから日本国民がマッカーサーを受け入れたと思いませんか。
回答: 確かにそうだと思います。マッカーサーの初期の政策は、日本のほとんどの国民にとって極めて理想的であり、有益なものでした。GHQは最初、日本国民のために民主主義国家を築きたいと本当に考えていました。日本国民がそれを受け入れたのは、本当に日本国民のためを考えた政策だったからだと思います。しかし、朝鮮戦争の勃発を機に、米国の当初の友好的対日政策は一変しました。以来、米国の対日政策は、日本を米国の利益のために従属させ、搾取することを狙っています。
* 最近でも、明治の教育を受けた官僚や政治家たちのあまりの不祥事や、あまりにも不合理な行政/規制に愛想をつかし、銀行経営者のあまりにもひどいモラルの低さ(これは今も変わらない)にも嫌気を感じ、自由化論に傾斜したとは考えられませんか。
回答: 日本人は、1945年以降日本の教育から消えてしまった儒教の教えを受けた官僚や政治家を信頼していたと思います。1945年以前に儒教の教えを受けた政治家や官僚は、1985年頃まで日本の指導的地位に就いていました。しかし1985年以降の日本の指導者は、基本的に正式な道徳教育や倫理教育をまったく受けていません。官僚や政治家の不祥事が急増し、国民の政府に対する信頼が失墜したのも、そうした道徳教育を受けていない人々が権力を握ってからだと私は考えています。
* あなたが日本に来られた「30年前の日本」があなたのメモリーに強烈なフラッシュとして残っていて、今の日本の姿が見えていないのではないかと思う。日本は日本なりに進歩し変わってきているのに、あなたの中の日本は30年前に焼きついた残像のままのような気がする。今の日本の若い経営者の多くは、あなたのイメージとは大分違うような気がします。
回答: 今の日本の若い経営者によってもたらされた変化が、過去最高の失業率、最多の倒産件数、最大の公的債務、最多の犯罪や麻薬中毒、最低の結婚および出生率なのではないかと思います。
* 日本の道徳教育、倫理の復活をどのように実践していったらいいとお考えですか。特定宗派ではなく宗教教育が必要と考えますが、どうお考えですか。神と仏の「日本教」の再教育が必要と思いますが、どうお考えですか。
回答: 仏教、神道、儒教、そしてそれらが融合した武士道は1200年もの間、日本にとって極めて重要な役割を果たしてきました。米国の征服者たちが第二次大戦後、日本を植民地化するためにそれらをすべて取り除こうとした理由がよくわかります。私が理解できないのは、なぜ日本人がそれらを今復活させないのかということです。
* 昭和20年までの日本が戦後のそれよりも国民にとり良かったとする意見には賛成できない。戦前の大半の国民の生活は「幸せ」というものからはほど遠く、教えられず、知らされず、戦争にまで引っ張られ、大勢が死んでいる。軍部や一部の資本家の欲求のまま、近隣への侵略を続けており、その侵略をいまだに認めない傾向すら見える。マッカーサーにより、変革は多々あったが、多くの国民にとっては良い結果をもたらしている。
回答: 昭和20年までの日本が、戦後のそれよりも国民にとって良かったといったつもりはありません。私がいいたかったのは、仏教や神道、武士道など1200年にわたり日本に強い影響を与えてきた価値観に基づく教育の方が、1945年以降日本の植民地化のためにGHQに押し付けられた教育制度よりもはるかに良いということです。1945年までの数十年間日本を支配した軍部が、それまでの日本の基本的な教育制度を悪用したことは確かだと思います。しかしそれだけで、1945年以降日本人がしてきたように、それを完全に捨て去るという理由にはなりません。歴史を通してキリスト教は何度も悪用されてきましたが、西欧諸国はキリスト教を維持し、それから恩恵を受けています。
【 経営理念 】
* 今の税制の許では、税金を払うために適切な利益を上げてもらわないと困ります。税金を払ってもらわないと、社会の目標である国民の幸福が達成できません。利益を従業員にすべて還元するのは、一種の企業エゴともいえます。それとも、個人の所得税、住民税で支払っているという考え方でしょうか。
回答: 企業収益に課せられる法人税の税収が日本の歳入に占める割合は、1999年度は歳入の12.7%でした。現在の日本の税制は、非常に不公平で企業の規模が大きければ大きいほど、支払っている税率は低くなっています。例えば、日本企業全体では売上の5%が法人税として支払われているに対し、日本の全輸出の52%を占める大企業30社は、売上がGDPの12%でありながら、法人税の支払額は売上の1%でしかありません。売上に占める法人税の割合が、大企業が日本企業全体の5分の1であるという状態が公平だといえるでしょうか。これは大企業が、政治献金や天下り先の提供によって政府を買収したり、さらには莫大な広告費によって影響力を持った結果ではないでしょうか。私個人としては、日本政府から個人的に得る利益に応じて、累進税で税金を納めたいと考えていますし、私の経営する会社についても同様に、日本の政府から得る利益に対して応分の税金を、累進税で納めるべきだと考えています。ここでいう「累進税」とは政府から享受する利益に応じてそれが大きければ大きいほど、税率を高くすることであり、政府のサービスを多く受ける人や企業が、それが少ない人や企業よりも高い税率を課されることを意味します。日本の税制はますます不公平になっていると私は思います。権力者や富裕者が、政府を買収して税負担を弱者や貧困者に転嫁しているからです。
* 製品やサービスの提供、70才までの雇用提供、社員の採用育成計画など、大変立派なお考えで30年一貫して実践されてきたことに、まったく頭の下がる思いです。大企業の多くの場合、そのプライドが高い社員(しかも高齢になるほど)が多く肩書きが外れた時の実力と精神面での発達が遊離していることに気づいていない。したがって、個人としての真の実力(会社に対して上げられる利益)で雇用を考えていくことが必要と考えております。それを本人に自覚してもらうことも本人のためであると思います。
回答: 私もそう思います。しかし、実力に応じて、あるいはどれだけ企業に利益をもたらしてくれるかによって社員を雇用したり、社員にそれを理解させるというのは、どの企業もやろうとしていることだと思います。さらに、社員の実力、労働意欲、貢献度といったものは、その人の生涯のそれぞれの過程で変化するものだということも認識しなければなりません。重要なことは、社員を甘やかしたり搾取することなく、長期にわたって会社に貢献する社員に対して、長期間賃金を払い続けることができるような安定した終身雇用を提供する方法を見つけることだと思います。最悪の資本主義では、資本家や管理者を富ませるために、労働者が過剰に搾取されます。最悪の共産主義では、貢献度にかかわらず労働者に報酬が提供されるために、労働者が甘やかされ、働く意欲を損なわれます。
* いわれる通り、企業の役割は国民(顧客)の幸福になる製品/サービスの提供だと思いますが、提供した製品/サービスを永続させる役割もあると思います。そのための適切な利益は追求すべきではないかと思います。
回答: 企業は存続するために研究開発費および設備投資が必要です。しかし、株主や経営者の利益を増やすための利益追求はすべきではないと私は考えます。経営者や社員のために株やストックオプションを発行する企業は、企業存続に必要な分以上の利益のための利益追求を奨励することになります。
* 今回初めて講演を聴かせて頂いたが、「日本びいきの外国人」というイメージとはまったく違って、これほどに日本人をバカにした外国人もいないという感想を持った。彼の根底にあるものは、日本が何も考えず、何の進歩もなく、彼の捨てたアメリカの考え方や仕組みをただサルマネしている(させられている)というようにこの日本を見ていると思う。とんでもない! 資本主義経済を否定し、企業の利益追及を否定する発想は極論かもしれないが、まったく詭弁にしか聞こえない。あなたがそう考えるのであれば御社は株式会社で営利企業として組織するよりNPOとして活動した方が良いのでは?(利益を求めず必要経費と企業存続に必要な投資を賄う分だけの収益を求めるのなら。)
回答: 私の考えについては、これまでのコメントで十分述べてきたつもりで、あらためて繰り返しません。わが社についていえば、株主は全社員であり、株主配当という形ではなく給与として報酬が支払われています。経営者も社員と同じように給与報酬を得ています。ですから企業の存続に必要な研究開発費や設備投資費を賄うために必要な利益を出すための努力はしていますが、それは株主や経営者の利益や報酬を増やすためではありません。
* タバコ産業を例に挙げて、企業そのものを否定すると、将来御社は顧客を選択せざるを得なくなって困るのでは。例えば兵器を製造している企業もありますよね。個別産業、企業の存続は、国民の合意と企業自身が決めるべきでしょう。
回答: 私の発言や弊社の禁煙方針にもかかわらず、タバコ会社が弊社の商品を買ってくださるというのでしたら、もちろんお売りします。ただし、弊社の商品を売るために私の主張や会社方針を変更するつもりはありません。
* 顧客にサービスを行い満足感を与えるには、自社の生産性向上が不可欠ではないでしょうか。人が人でしかできないところへ仕事をシフトしていって生産性を上げたいと思っています。
回答: 他の物と同様、それをどう使うかによって生産性はよくも、悪くもなります。ほとんどの成人は自分や家族が生活するために、働いて収入を得る必要があります。そうした人々に恩恵を与えるための生産性向上は確かに良いものですが、生産性が上がったために雇用や賃金が削減され、それによって多くの国民に不利益がもたらされるのであれば、それは良くないことだといえます。
* 経営理念を会社全体で決めるやり方については驚きました。社長が全部決めるものだと思っていました。その中でひとつ気になりましたのが、社員の方々からの意見が本音で出たのかということです。実際反発したら辞職しなければいけないということにはなりませんか。
回答: 社員の自己管理に頼っている企業では、全社員が同じ価値観を共有する必要があります。しかしそのためには社長だけではなく、全社員がその価値観の決定に関与しなければ公平ではありません。そのために最初の提案は私が行いますが、すべての社員がそれについて考え、話し合い、必要であれば修正を加え、みんなで一緒に会社の価値観を決定し、その上で、全社員がその価値観に従うことを要求します。全社員で考えた会社としての価値観に従えないのであれば辞職もやむを得ないと私は思っています。
* 広い視野で物事を考え、理念を設定しようとしていることに感銘を受けた。ただし、これを社員一人一人の意識とし、行動規範にまで具体化するには、日々の努力と教育に相当力を入れて行う必要がある。そのエネルギーをどう持続するか、経営者の熱意が試されるところだろう。
回答: すでに試されています。しかし、経営者である私が永遠に生き続けられるわけではありません。弊社が今後も成功し続けるためには、私の仲間たちが日々努力し、教育に力を入れていく必要があるのです。
* 善人であること、善人になろうとすることは誰もが願うことです。しかし善人であればすべて経営者たり得るかが問題ですよね。善人であり、かつ経営者としても両立し得る秘訣を是非お聞きしたいものです。
回答: 長きにわたり事業を成功させる唯一の方法は、地域の住民の幸せのために、すなわち顧客と社員の幸福のために企業を運営することだと思います。顧客か社員かどちらか一方にでも利益の代わりに不利益を与えることがあれば、その企業は発展しないし、ましてや長期的に存続することはできません。顧客および社員の両方に最も仕える企業が最も繁栄し、かつ長く存続すると思います。長期にわたって良い経営者であるためには、それを実行できるような善人になるしかないと私は考えています。