今回は、私が講演で受けた質問に対する回答をお送りします。質問の内容は原爆投下から低金利政策まで多岐にわたっています。これまでのものと重複するものもありますが、是非お読みいただきたいと思います。
講演で受けた質問に対する私からの回答
◆ 広島、長崎に対する原爆投下は本当はどのような意味があったと思いますか。
回答: 広島、長崎への原爆投下、および1945年3月9日から終戦まで実に60都市以上に対して行われた空襲は、明らかに戦争犯罪であり、日本国家あるいは日本国民が告発された犯罪とは比べものにならないほどの悪行だと、私は思います(詳しくは No. 119、 1997年8月6日、「奇妙な年表」をご参照下さい)。原爆投下だけではなく、朝鮮戦争における民間人の殺戮、ベトナム戦争や湾岸戦争、昨年のコソボ/セルビア戦争の時の民間人への無差別爆撃を見れば、戦争における米国の行為が20世紀最悪の犯罪であることは明らかです。これだけの悪辣さに匹敵するのはナチだけだと思います。また他の国に対し国際法違反だと非難しながら、その一方でまったく同じ法律に違反する米国は、世界で最も偽善的な国だと私は考えます。
◆ 不況で売上が10%減ったら、社員を10%リストラするより給料を10%下げた方が良いと思いますがどうでしょう。
回答: 私もこの意見に賛成です。特に、給与が最も高く、権限の大きい経営者や管理者の給与の削減幅を最大にすべきです。高給取りの経営者や管理者の方が、賃金の低い一般社員に比べて、給与削減に対して適応が容易なはずであり、さらにその会社の売上減少に最も責任があるのは彼らの経営および意思決定だからです。
◆ 米国への「おもいやり予算」について、どう思われますか。
回答: なぜ日本が米軍の日本駐留を資金的に補助するのか、私にはその理由がまったく理解できません。米軍が日本に駐留するのは、自国の利益のためだけです。また米国は、他の国の攻撃や侵略から日本を保護する、防衛するとはいっさい約束していません。米国は米国民や他の諸国に対して日本駐留の理由を、日本が再軍国化することにより独自の力を持つのを阻止するためだと説明しています。すなわち日本を保護するよりも抑圧すること、日本を他国から守るよりも他国を日本から守ることが、米軍の日本駐留の目的なのです。
米軍による日本「占領」から恩恵を受けているのは、自民党と日本の大企業だけです。民主主義国家といわれる国の中で、半世紀もの長きにわたり、自民党ほど完全な一党支配を継続できた政権は他にありません。そして米国は自民党に、傀儡政権として日本国民のためではなく米国の国益のために統治するよう、政権を維持させているのです。
また日本の大企業が米国の味方をするのは、米国が米国市場に対する特権的アクセスを日本企業に与え、米国市場からの売上に依存させることで、日本企業が日本に対するいかなる要求も(日本企業の米国での収益に影響が出ない限り)拒めないようにするためです。日本の対世界輸出額の約50%を占める大企業30社にとっては、米国は最大の市場です。また、これらの大企業は、経団連や日経連の主要メンバーであると同時に、マスメディアにとっても大広告主です。また米国の金融市場には、元大蔵官僚に天下り先を提供する約20の金融機関も依存しています。
米国政府、自民党、大蔵省、日本の大企業、マスメディアの利害が互いに一致している一方で、日本国民の利害はそれとは正反対のところにあります。日本の大企業は、マスメディアの広告主であり、自民党の政治献金提供者であり、かつ大蔵官僚にとっては天下り先なので、それに報いるためにマスメディアは大企業や自民党、大蔵省寄りのプロパガンダを流し、日本国民にその支持を訴えます。また自民党は、米国政府からの政権支持に恩義を感じており、日本の大企業もまた米国市場に依存していることから米国政府に対し同様の恩義を感じています。その結果が、米軍の日本占領に対する自民党からの「思いやり予算」なのだと思います。自民党はそればかりか、日本を米国の植民地として管理し、大手金融機関の博打の負債を公的資金で賄い、その一方で日本国民に対する福祉を削減しています。また大企業や富裕者に対する減税を行う一方で、労働者や消費者に増税を行っています。
◆ グローバル・スタンダードについてどう思われますか。
回答: まずグローバル・スタンダードといわれるもの自体ほとんど実体がないため、重要ではないと考えています。グローバル・スタンダードが存在していないという理由は、英米という最も力の強い2ヵ国が、他のほとんどの国が支持するスタンダードを採用せず、それに従おうとしないからです。原爆投下に関する質問で述べた通り、米国は戦争犯罪に関する国際法や条約に、最も多く違反してきました。世界のほとんどの国が、戦争や破壊、武器輸出の制限、環境破壊の抑制、さらには最貧国債務の救済などに関する条約を批准しているにもかかわらず、米国は、そのほとんどを批准していません。さらにいえば、世界で米国とイギリスだけがまだ十進法を採用せず、メートルの代わりにフィート、グラムの代わりにポンドという単位を使用しています。
日本が「グローバル・スタンダード」と呼ぶものは、世界の標準ではなく米国の標準です。日本の若い女性が売春行為を「援助交際」と呼ぶように、また若い男性が暴力行為を「オヤジ狩り」と呼ぶように、その親の世代は、米国からの要求に服従することや米国流儀の猿真似を「グローバル・スタンダード」への支持と捉えているとしか思えません。
◆ 経済はやはり平和でなくてはなりません。安保にも日本独自の軍隊を持つことにも、お金を使いたくありません。日本の戦争が好きな人は、靖国神社や日の丸をありがたがります。米国が貧しくなったのは朝鮮戦争とベトナムに戦争を仕掛けたからです。今は大戦争をしていないから、景気が良いのです。やはり経済は「平和」な方が良くなると思います。
回答: 安保にも軍隊にもお金を使いたくないのであれば、日本を軍事攻撃や侵略からどうやって守るつもりですか。自国を防衛できない国は例外なく、過去に軍事攻撃や侵略を受けてきました。また現実に日本の軍事費は世界第3位と突出しています。それにもかかわらず、自力で軍事攻撃や侵略から自国を防衛できる能力を有してはいないのです。なぜならば、その日本の軍事予算のかなりの部分が米軍の日本駐留費に充てられているからです。
1999年の各国軍事予算
(単位:億ドル)
1. 米国 $3,054
2. ロシア* $550
3. 日本 $411
4. 中国* $375
5. イギリス $346
6. フランス $295
7. ドイツ $247
8. サウジアラビア $184
9. イタリア $162
10. 韓国 $116
出典: 『Center for Defense Information』
(表中の*は1998年の軍事予算)
また、大戦争をしていないから米国の景気が良いとのご指摘ですが、講演でも述べた通り、また私のニューズレターで統計数値をもとに何度も指摘しているように、米国経済は決して好調ではありません。例えばOur World No.381(2000年6月1日、「醜い秘密:米国人労働者の実質賃金は25%低下」)で紹介した通り、1973年以降、米国の大半の労働者の実質賃金は25%も低下しています。それにもかかわらず、冷戦後も米国の軍事費は世界第1位であり続け、現在も2位のロシアを5倍以上さらに上回っています。また経済は平和な方が良くなるといわれましたが、米国は、コソボ、ユーゴスラビア、イラク、ソマリアでの例に見るように常に戦争を行っています。これは、Our World No.301(1999年8月10日、「バルカン戦争で潤う武器商人」)で紹介したように、米国にとって戦争が一番儲かるビジネスだからです。
◆ 日本人の「誇り」は、いい意味で、努力、勤勉、根性、忍耐だと思います。最近、こうした言葉を耳にしなくなりました。この言葉についてどう思われますか。
回答: 私はこうした日本人の「誇り」こそが、日本を過去1200年間の大部分を通して、大半の国民にとり最も幸福で繁栄した国にしてきたものだと信じています。また、日本がここ十数年間で、突然衰退し始めたのは、まさにこうした言葉が聞かれなくなった、すなわち日本人がそうした特質を失ったからだと考えています。十数年前までは、戦前の教育を受け、こうした日本人の誇りを大切にする人々が日本の指導者でした。しかし、それ以降、戦後の教育を受けた、日本人の誇りを失った人々が指導者となってから、日本が衰退し始めたのです。
◆ 男の雌化になりつつある現代の日本男児についてですが、その一例としてここしばらくの17歳男子のバスジャック、殺人、恐喝、また3年前の神戸の少年殺人事件などに触れておられました。それに対して文部省をはじめ教育関係者が対応策を考えているようですが、どのような対応がいいと考えられますか。
回答: 日本人はまず、軍事攻撃や侵略に対して自分たちで国を守らなければならないということを認識しなければなりません。防衛の術を持たない農耕民族の社会は、好戦的な狩猟民族の攻撃を受け、侵略、征服されることは必至です。例外はありません。日本人が軍事攻撃や侵略から自ら国を守らなければならないと認識すれば、そのためには弱々しい男ではなく、男らしい強い男が必要だということに気づくはずです。それに気づけば、家庭でも学校でも子供を甘やかし弱々しい男にするのではなく、武士道の精神を持った力強い男を育てるようになるはずです。
◆ 過去に日本のある大臣が、安保条約をはじめ日本は米国のいいなりで米国の妾である日本と言って問題発言となりましたが、まさに日本全体がそのときより自力で国を守れない日本であり妾、まさに雌化の象徴としての発言であったように思いますが、今の若者だけでなく、戦後から日本社会全体は雌化しているように思えますがいかがでしょうか。
回答: 私は1945年以前の教育を受けた日本人が女々しかったとは思いません。彼らが弱腰になったとすれば、終戦間際の1年間に国際法に反した米国の爆撃で250万人もの民間日本人が殺されるという、米国の残虐行為に衝撃を受けたためだと考えます。当時の日本の指導者が選択した道が、国民にとってこれだけ残酷な結末をもたらしたのですから、人々が戦後自信を喪失したのも無理のないことだと思います。
◆ 内橋克人さんの『消費なき成長』の中でゼロ金利政策により、192兆円もの利子が国民から銀行に移転されてしまったとあります。日本はゼロ金利政策をやめるべきだと思います。日本が金利を上げた場合、米国はどうなるのか、その影響を教えて下さい。
回答: 確かに低金利は次の2つの点で、日本国民を犠牲にしていると思います。まずご指摘の通り貯蓄者への利払いが削られること、そしてもう一つは、日本の銀行が国内に貸し渋る代わりに金利の高い海外には積極的に融資することです。この低金利を望んでいるのが米国で、その融資先のほとんどが貯蓄率0%の米国に向かっています。米国政府が、金融ビッグバンで日本の金融市場を開放するように当時の橋本首相に要求したのは、このように日本の貯蓄が米国に流れるようにすることが狙いでした。その結果、日本企業は貸し渋りに遭い資金難に苦しんでいます。日本の金利を引き上げれば、この日本国民が受ける2つの悪影響は緩和されることになるでしょう。日本から米国への資金流出が止まり、米国の株式バブルがはじけ、過去最高の好景気と騒がれている米国経済は日本の貯蓄に支えられたバブル経済にすぎないという事実が暴露されると同時に、米国の対日依存が明らかになるでしょう。
◆ 日本は昔から規制が多すぎて、自由に物を考える態度が育っていません。規制緩和により、自分の責任で物事を処理できるようになれば、と考えていました。しかし、現在行われている規制緩和は、必要以上に競争をあおって、中小企業が次々と倒れていき、大企業ばかりがぬくぬくと太っています。また企業の統合により、大型化することで生き延びようとしているのも、大変気がかりな問題です。企業の合併をどう考えておられますか。
回答: 海外でも合併がうまくいった例は少ないことから、日本でもうまくいかないだろうと思います。企業は生物と同じように、自然に成長している時が最も成長率が高いと同時に、最も健全です。企業で働く人々は、顧客への製品やサービスの提供を通じて、その失敗や成功から教訓を学びます。その教訓が多ければ多いほど、その企業は良くなり、評判も高まります。そうすることで初めて、企業は成長していくのです。合併がうまくいく場合もありますが、その確率は臓器移植の成功率と同様、かなり低いと思います。
◆ 日本人は米国にマインド・コントロールされているといっておられましたが、どのようなマインド・コントロールなのでしょうか。そこからどう目覚めればいいのでしょう。男が守る、ということではなく、人間として男も女も強くなるべきだと思いますが。
回答: マインド・コントロールについてはすでに述べた通りです。そのマインド・コントロールから目覚めるには、知性と情報が必要です。知性とは、物事を分析し、それについて意思決定を行う能力を指し、その中にはその分析や意思決定に必要な情報を探す能力も含まれます。残念ながら現在の日本の教育制度は、知性よりも、権力への順応性および服従能力の養成を目的にしているように見えます。日本のような豊かな文化遺産を持つ社会では、最善かつ最も重要な情報のほとんどは、読書、特に古典を読むことで得られると思います。それにもかかわらず、今日、大半の日本人はあまり読書をしないようで、特に古典は読まないように見受けられます。さらに、マインド・コントロールから抜け出すためには、米国の国益や日本の大企業の利益のために日本国民を支配しようとする政治家ではなく、日本国民のために日本を治める政治家を選挙で選ばなければなりません。そうした政治家が選挙で選ばれれば、日本の教育制度も、読書を重視し知性を養う制度へと変えてくれるはずです。また各個人も、読書の習慣を身に付けることがマインド・コントロールから逃れる最善のアプローチであり、読書で知性が養われると確信しています。