今回は、米国の長距離電話の請求に対して利用者から寄せられた苦情についての記事をお送りします。この記事によれば、電話会社は一般利用者を混乱させることで収益を上げているといいます。日本でも、米国の要求に屈してNTTの接続料引き下げなどにより電話会社間の競争が激化しようとしていますが、完全な規制撤廃および自由化の行き着く先がこの記事にあげられている状況ではないかと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
不明瞭な通話料請求で増える苦情
『ワシントン・ポスト』紙 2000年7月28日
キャロライン・E・マイヤー
バーバラ・グッドマンの苦情は、1分5セントのはずだったクエスト社の長距離電話が、コーリングカードを使ったために1分42セントになったことに対してだった。フランク・マルテルの苦情は、地元のベル・アトランティック社からの6月分の請求書に、「先月請求分の調整」として意味不明な42.44ドルが上乗せされていたことだった。メガン・カーベリーの苦情は、クレジットカードを使って公衆電話からかけた3分間の長距離電話に21.74ドルも請求されたことに対してである。統計学者のカール・ピアチャラの苦情は、長距離電話に実際には毎分いくら払っているのかまったくわからないことだった。
【 通話料の請求 】
近年、長距離通話料は大幅に値下げされているが、電話の請求書に対する利用者の不満が日毎に募っている。多くの電話利用者にとって、料金明細を解読したり、さまざまな選択肢の中から料金プランを選んだり、見馴れぬ名前の付いた余分な請求を理解することは至難の業である。請求書の内容を理解できたらできたで、予想よりも請求額が高かったり、または単純な間違いを発見して苛立つことになる。
統計学者のビアチャラでさえ、計算式を3つ使ってみたが請求書の内容を理解できなかったという。そして「電話会社は明らかに、加入者を混乱させようとしている」と結論付けた。1分7ドルも請求されたカーベリーは、「これはぼったくりだ」と語った。
大手電話会社は、何十億ドルも費やしてニューエコノミーの最先端技術である無線、ケーブル、広帯域技術などを開発する一方で、その開発資金を一般の電話利用者に負担させていると感じる利用者、規制当局が増えている。
例えば、ワシントンD.C.都市部の商業改善協会に寄せられる苦情の中で最も多いのが電話会社に関するものであり、これまで消費者の怒りを多く買っていた自動車ディーラーや住宅改装業者をも上回っている。また28州の公益事業委員会の調査では、米二大長距離電話会社のAT&Tとワールドコムに対する苦情がこの2年間で3倍に増えている。
7月末、州の規制当局を代表する全米協会は、電話会社に請求書を簡略化させて顧客がより簡単に請求の間違いを発見できるようにする規制の雛形を各州に採用するよう提示した。顧客の混乱に対する苦情が広がっているのは、電話会社の広告が原因だという者もいるが、州の検事総長8人は、電話会社の言動は顧客を混乱させるというよりも、詐欺も同然だという。
7月末、検事総長8人はAT&T、ワールドコム、スプリントを相手取り、料金の安さを強調しながら追加料金を見落としがちな小さな字で記すのは、消費者を意図的に欺くものだとして訴えを起こした。電話会社側は、一般利用者を大切にしているとして、この訴えを否定している。
電話会社が一般顧客をどう位置付けているかは、AT&T会長のC・マイケル・アームストロングが同社の四半期収益を発表した時のコメントに明らかである。彼は同社の無線およびケーブル部門の収益増を強調し、最も収益率の高い一般顧客向け長距離電話分野はさらに利幅が増えるであろうと予測した。
そして実際、AT&Tは同社の一般利用者6,000万人の約半数に適用されている「基本料」(通話プランの中で最高料金である)を値上げしている。AT&Tはこれを「調整」と呼ぶ。
『長距離電話をもっと安く:米国長距離電話サービスの公式ガイド』の著者、ロバート・セルフは単純に、「電話会社はばかではない。第一の目標は利用者に節約させることではなく彼らから金をとることだ。だから、これらの通話プランのほとんどは、結局予想以上に支払わされることになるのだ」と説明する。
「顧客の混乱が真の問題だ。顧客に必要な情報を公開していないことも問題だが、電話会社の中には顧客の混乱を意図的に狙っているところもあると確信する」と連邦通信委員会の会長、ウィリアム・E・ケナードはインタビューに答えて語った。
8ヵ月前、連邦通信委員会と連邦取引委員会はめずらしく共同会議を開き、追加料金と制約を利用者に明確に知らせるべきだと電話会社に通告した。しかし、連邦取引委員会の広告部門の上級弁護士レスリー・フェアは「詐欺的な慣行が続いているのは間違いない。長距離電話広告について調査を継続している」と語った。これに対してAT&Tの広報担当のマーク・シーゲルは「広告が消費者を騙しているとは思わない。消費者は頭がよく知識が豊富であるため、自分に与えられた選択肢を熟知している」という。
ワールドコムのマーケティング担当上席副社長のテリー・マッコは、どの業界にも苦情はつきものであり、同社の顧客で苦情をいうのはごく一部だという。さらに、競争があるため、「もし顧客が期待通りのものを得られなければ、翌月には別の電話会社に替えるだろう。そうなれば、我が社は儲からないし、損失になるのだ」とマッコはいう。また、混乱は競争の副産物だとし、「市場にこれだけ多くの選択肢があるのだから混乱するのも仕方がない。しかし、選択肢がこれほど豊富に用意されている今、消費者にとっては最高の時だ」と続けた。
しかし、米国退職者協会が7月に発表した調査では、大部分の顧客にとって豊富な選択肢は重要ではないという結果が出ている。調査対象の2,353人のうち最も安いプランを探すために様々な長距離電話プランを比較検討したと答えた人は、47%に過ぎなかった。あれこれ比較検討した人の割合は若い人の方が高く、18~49歳では50%であるのに対し、65~74歳では37%と、はるかに低い。
「基本料金」より安い長距離電話の通話プランに加入していると答えた人は、調査対象者全体のうちわずか34%、65歳以上にいたっては23%しかいなかった。基本料金が最も高い通話プランだということを知らなかった人の割合は、全体で37%、65歳以上では60%近くもいた。
「この調査の意義は、多くの米国人、特に高齢者が長距離電話サービスに料金を払いすぎており、電話業界は彼らがより良い選択をする手助けをしていないことが明らかになったことである」と米国退職者協会の上級政策アドバイザーのクリストファー・ベイカーはいう。「電話もビジネスだということはわかっている。しかし、顧客の誤解を利用して売上を維持しようというのは公平ではない」
一般利用者からの売上が重要であることを電話会社は否定しない。AT&Tのシーゲルがいうように、それが電話会社の主な収益源になっている。2000年度上半期において、AT&Tの一般消費者部門は同社売上の3分の1、収益(無利子、税引き前)の2分の1以上を占めた。
その理由は単純である。金融アナリストによると、実際に長距離電話サービスを提供するコスト、つまり利用者を回線につなげるのは極めて低コストで1分2セント以下である。それに請求処理と広告費が加わると1分5セントになる。しかし、業界データによると、消費者が払っている平均料金は1分16セントだという。
6月、AT&Tは基本料金プランの顧客に、毎月3ドルの最低通話料金の徴収をやめる代わりに、料金の「調整」を行うと発表した。顧客宛の手紙ではその調整が何であるのか明確にされないまま、通話料は平日昼間は1分26セントから29.5セントに、平日夜間は16セントから22.5セントに、週末は11.5セントから14.5セントにそれぞれ値上げされた。「料金を上げたからといって、消費者の支払い金額が増えるとは限らない。実際、少なくなることもあり得る」とシーゲルはいう。その理由は同社が基本料金プランの利用者に別の選択肢も提供しているからだという。例えば、平日は同じ料金でも、土曜か日曜のいずれかを1分10セントに、もう一方の日は1分18セントにすることができる。またはどんな通話も常時1分16セントで、毎月の基本料または最低料金なしというものもある。
AT&Tはこれらの選択肢がわかりにくいとは思わないという。「選択の自由ということだ。選択肢の多さに圧倒されるだろうが利用者はそれを好んでいるのだ。我々は顧客のニーズだけでなく、株主のニーズに見合った経営をしなければならない。両方ともうまくいっていると思う」とシーゲルは述べる。
【 結論:請求書の話 】
クエストの長距離電話サービスに1分約5セント払っている、ワシントンDCに住むバーバラ・グッドマンは、コーリングカードを使うと料金設定が高くなるという厳しい現実を知らされた。51分間の長距離通話料を2.5ドルくらいだと思っていたところ21.39ドルの請求がきたのである。カードだと料金設定が高額になるとクエストからいわれたことは一度もなかったという。クエストの広報担当のジェーン・モリッセイは、コーリングカードを発行する時に料金情報を書かないのは一般的なやり方だという。その理由は料金が頻繁に変わるためで、顧客はその情報をWebサイトで簡単に入手できるという。Webを見ると1分49セント、さらに1通話ごとに99セントの追加料金とある(だがこの料金をもとに計算するとグッドマンの通話料は25.88ドルと、さらに高額になる)。
元弁護士のフランク・マルテルは電話の請求書に「先月請求分の調整」という名目で42.44ドルが課金されていることを不審に思い、ベル・アトランティック(現在はベライゾン・コミュニケーション)に電話をかけた。しかし、応対した社員もそれが何であるのか明らかにできなかった。結局、ベライゾンはこの請求分の減額を申し出たが、マルテルが正式な説明を文書で要求したにもかかわらず、なぜそのようなミスが起きたかの説明はまだなされていないという。
ボルチモア近郊に住むメガン・カーベリーは、クレジットカードを使って公衆電話からかけた3分間の長距離電話代に21.74ドルとられたことに抗議した時、公衆電話業界の経済学をいやというほど思い知らされた。その電話を処理したインディアナにあるオプティコム社の広報担当トム・ヒロンスは、料金は高いように見えても全米に公衆電話を提供する必要性を考えれば妥当な金額だとし、公衆電話は利便性のためにあるのであって低料金を提供するためではないといった。ヒロンスいわく、通話料自体は4.29ドル(3分以上1分1.43ドル)だが他の料金がかかる。オプティコムに7.9ドル、公衆電話の設置場所の不動産所有者に3.9ドル、公衆電話の所有者に3.5ドル(この所有者はオプティコムからもコミッションを得る)、全米に公衆電話サービスを提供する経費として2.15ドルが加算される。カーベリーが抗議した後、オプティコムは他の公衆電話会社の請求料金に近づけるために、4.02ドル減額することにしたという。