No.409 公的支出は非生産的である

今回のOur Worldでは、『ジャパン・タイムズ』紙に紹介された、金子勝氏の視点をご紹介します。金子氏は、政府与党は、金融機関やゼネコンなどの主な政治献金提供者は手厚く支援するものの、規制緩和など弱者に対して冷淡な政策をとっていると指摘しています。これはまさに私と同じ考え方であり、解決策として金子氏が強調する国民の政治への影響力増大も、私がこのOur Worldで繰り返し強調し、呼びかけてきたものと同じです。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

公的支出は非生産的である

『ジャパン・タイムズ』紙2000年6月3日
 

 法政大学経済学部教授、金子勝は、自民党が公共事業や大手銀行の救済に税金を注ぎ込んでいることを痛烈に批判する。特に6月25日の総選挙では、景気が有権者の最大の懸案事項であり、与党自民党政府は景気回復のためならいかなることも行うとまで公約に掲げられた。

 しかし、金子は、自民党主導の政府与党が行ってきたような景気回復を名目にした無節操な公的支出は、財政赤字を増やし大手建設会社や銀行を救済するだけで、生産的な結果にはつながらないと主張する。

 日本の金融業界の問題が深刻な政策課題となった1990年代半ば以降、銀行は自民党への献金を控えているものの、自民党にとって建設会社と銀行は伝統的に政治献金と組織票の主な供給元であった。

 1997年末に日本が金融危機に直面してから、日本政府は公共事業に巨額の資金を注ぎ込み国債残高を106兆円増加させたが、その国債乗数効果はマイナスとなり、ほとんどが建設会社の効果的な救済に終わった。「連立与党がこの循環を断ち切ることは不可能であろう」と彼はいう。

 主にゼネコンを潤す大規模な公共事業ではなく、環境や社会福祉の向上につながる、地域に根差した小規模な事業を金子は提唱する。また、このような政策転換には、地方政府への大幅な権限委譲と、そのプロジェクトに対する厳しい監視が必要であるともいう。

 また金子は、大手銀行15行に対して1999年だけで7兆5,000億円を投じた銀行救済政策にも、それを招いた銀行の最高経営責任者にその責任をとらせなかったという欠陥があるという。莫大な公共事業支出は、銀行から巨額の融資を受けた建設会社を救った点においても銀行を助けている。

 銀行や建設会社に対するこのように寛容な政府支援は、政治的弱者に対する冷淡かつ非効果的な規制緩和政策と対照的である。例えば、政府はタクシー事業に対する規制を緩和した。しかし景気停滞時における規制緩和による競争の激化は、タクシー運転手の収入の減少、サービスレベルの低下を招いたと金子は指摘し、「規制緩和そのものに反対なのではない。市場に委ねればすべてうまくいくという概念に基づいた規制緩和の考え方に反対なのだ」と述べる。

 『反グローバリズム』(岩波書店)など多数の著書で、主流派経済学者とは反対の立場をとる金子は、彼が市場ファンダメンタリズムと呼ぶ、市場メカニズムを全能の神とする信念の危険性を強調する。「市場が機能するには、正義と道徳が必要である。市場自らそれを作り出すことことは不可能である」と金子はいう。

 他の経済学者同様、彼は、雇用の安定と年金に対する懸念が、GDPの60%を占める個人消費の冷え込みにつながっていると確信する。したがって経済の活性化のためには、規制緩和以前に、社会の安全網の早急な見直しが必要だと金子はいう。政府は、雇用市場の急激な規制緩和を中止するとともに、労働者が受け取る年金手当てが転職で減ったりしないよう年金制度を統合すべきだと提案する。しかし、金子が提唱するような、地方分権や社会の安全網という考えを掲げる主要政党は存在しない。「政党が政党としての機能を果たしていない」と指摘する金子は、当選が望ましくない候補者名を公表するなどして、国民が政治にもっと影響力を持つべきだと語る。