No.415 チェイニーの天下り

 今回は、共和党のブッシュ大統領候補から副大統領候補に指名されたディック・チェイニー氏が、国防長官時代に軍の民営化政策を行い、引退後の天下り先で自分が任期中に行った政策から個人的利益を手にしていたという記事をお送りします。天下りは日本の特異性としてしばしば指摘され、政府と民間部門の癒着の原因だとして米国に批判されますが、その米国にも天下りが存在することをこの記事は指摘しています。

 米国で天下りは「回転ドア」と呼ばれ、民間から政府役人に、そしてまた民間へと転じる様を表しています。その代表例がルービン前財務長官で、彼はゴールドマン・サックス社上席パートナーシップ兼共同会長からクリントン政権経済政策担当大統領補佐官、そして財務長官を歴任し、引退後は、金融サービス会社、シティグループの取締役に就任しています。ブッシュ政権時代のワインバーガー国防長官も引退後はフォーブズ社会長に転じました。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

チェイニーの天下り

『マザージョーンズ』誌 2000年8月2日号
ロバート・ブライス

 元ブッシュ政権で国防長官(1989~93年)を務めたディック・チェイニー氏(1975~77年にフォード大統領の首席補佐官を務め、1978年の連邦下院議員に初当選。共和党)は、何百万ドルもの政府の仕事を民間軍事関連企業に請け負わせ、引退後その親会社に天下りし、高給を得ていた。

 ジョージ・W・ブッシュ大統領候補がディック・チェイニーを副大統領候補に指名して以来、チェイニーは喜色満面だが、それも当然だ。チェイニーは不死身である。政府、議会、国防省で政治家としての経験を積んだ後、民間に転じて巨額の富を手にしている。

 しかし、チェイニーがどうやってその富を手にしたかは、閲する必要がある。チェイニーは国防長官時代、国防総省史上もっとも大きな民営化政策の1つを指揮し、何百万ドルもの軍の予算を民間部門に投じた。そして引退から2年半後、在任中に自分で起案した民間企業への発注契約から現金を手にし始めたのである。

 チェイニーが長官に在任中の1992年、国防総省はテキサスにある民間企業、ブラウン&ルート・サービス社(BRS:発電所・製油所・石油化学プラントなどの設計・建設を行う)に、世界中の潜在的な戦争地域で、BRS社のような民間企業がどのように米軍の兵站を支援できるかを詳しく調べさせ、その極秘報告書の費用として390万ドルを支払った。BRS社は軍の兵站支援を事業の1つとしており、例えば1962~72年には旧南ベトナムで道路や仮設滑走路、港、軍事基地の建設を行っている。1992年後半に国防総省はBRS社にさらに500万ドルで極秘報告書の更新を依頼した。同年、BRS社は、ザイール、ハイチ、ソマリア、コソボ、バルカン諸国、サウジアラビアなどで米軍支援を行う陸軍工兵隊(米国陸軍の技術戦闘部隊。港湾、水路、飛行場、ミサイル基地など、軍および民間施設の建設・維持にあたり、戦時には戦闘・補給の支援作戦を担当する)から兵站作業に関する5年間の契約を取り付けた。

 ビル・クリントンが大統領に就任すると、チェイニーは政府の職を解任され、1995年にダラスにある石油サービスの大会社、ハリバートン社(米国の油田開発・サービス会社;産業用海洋構造物建設、特殊産業装置の製造、保険にも進出)のCEOに就任した。ハリバートン社はBRS社の親会社である。以来、チェイニーは同社から給与および株の配当で1,000万ドル以上を手にしている。加えて、彼は現在同社の最大株主であり、株式およびオプションを4,000万ドル所有している。チェイニーとハリバートン社との契約条件は、BRS社がより魅力的な契約を国防総省から取り付けるたびに、より好条件になっていったことは間違いない。

 1992~99年に国防総省は、世界中の問題地域での作業に対し、BRS社に12億ドル以上を支払っている。また1999年5月、米国の陸軍工兵隊はバルカン諸国の作業を再度、同社に発注して7億3,100万ドルの5年契約を新たに結んだ。

 評論家は、これをいわゆる典型的な天下り政治と結論付けている。チェイニーはハリバートン社に雇われることによって、国防長官在任中に自分が行った仕事や契約から不当な利益を得たからである。[訳者注:ハリバートン社が1995年に雇い入れるまで、チェイニーに民間企業での経験はまったくなかった。同社の役員は、チェイニーは同社の事業の大半を占める、諸外国市場の門戸開放に貢献したと述べている。]

 「我々は、意思決定者すなわち政治家が、任期中に行った決定から個人的な利益を得ることがないよう、天下りを抑制すべく長年努力してきた。チェイニーが誰の利益を求めたのか、つまり、民営化によって得をしたのは国防省なのか契約をとったBRS社なのかということを疑ってみる必要がある」と、消費者団体「パブリック・シチズン」のテキサス州局長、トム・スミスは語る。

 米軍は長い間様々なサービスを外部の業者に委託してきたが、チェイニーは私利を図るために政府内の知人を利用した可能性があると指摘する者もいる。「問題は最高の地位にある政府役人が縁故びいきをし、納税者を犠牲にして不当利益を獲得することである」と、ハリバートン社を数年間にわたり追跡してきたラジオ・ジャーナリスト、プラタプ・チャタルジーは述べる。

 BRS社は通常、兵站業務の契約で1%の利益を保証されているが、ソマリアの場合は契約に含まれる報奨条項をすべて満たせば8%の追加利益が約束されていたとチャタルジーは指摘する。また、一般企業の利益率約3%と比べてみて欲しいとも述べている。

 さらに、民間企業に軍の仕事を請け負わせることに利点はあるものの、BRS社の仕事のやり方自体にも批判が集まっている。

 BRS社のおかげでより多くの米軍兵士がM16ライフルを持てるようになったという点では、BRS社は賞賛を受けた。陸軍資材担当司令官のスポークスマン、ジャン・フィネガンは、「BRS社が陸軍のために行っていることを兵士にやらせる必要はない」と述べるとともに、米軍の戦地勤務兵の割合は過去10年間に約25%減少したと指摘する。ゴミ処理、洗濯、食事担当を民間企業が請け負えば、兵士を本業に専念させられるというのである。

 BRS社はまた、できる限り現地人を雇うことで資金を節約している。しかし、必ずしもそれが良い結果をもたらすとは限らない。ソマリアの内乱鎮圧を目的としたソマリア派兵撤退時の1994年、BRS社は同社が雇ったソマリア人労働者を解雇した。落胆した労働者はモガディシュに駐在する国連駐留軍に対し、棍棒と催涙ガスで追い払われるまで抗議を続けた。この乱闘で3人が負傷したと報じられた。

 1996年、旧ユーゴスラビアに駐留する米軍支援のための修理工場を置いたハンガリーでは、BRS社はさらに多くの問題を引き起こした。米軍のユーゴ介入直後、ハンガリーの政府役人は、BRS社は他の民間企業と同様ハンガリー政府に対し消費税、およびその従業員は所得税を支払わなければならないと決定した。しかし、国防総省は、BRS社は米軍の一部であるため税金を免除されると主張した。結局、BRS社はハンガリー政府に1,800万ドルの税金を支払ったが、米国政府はそれをBRS社に払い戻している。

 こうした問題を引き起こしているにもかかわらず、全世界に2万人の従業員を持つBRS社は、その後も米国政府から仕事を請け続けている。国務省からは大使館の警備増強のために1億ドルに近い契約をとっている。さらに英軍からは、デヴォンポート英国王立海軍工廠にある原子力戦水艦の唯一の修理・燃料補給場所の運営について、長期の契約を取り付けた。

 チェイニー氏は9年前、湾岸戦争で米軍を指揮した人物である。その後、同じ米軍の仕事を請け負う民間企業に雇われることで何百万ドルも手に入れている。その同じ企業が偶然にも、今回の大統領選にあたり共和党に25万ドルもの政治献金を行っている(2000年7月末)。現在チェイニーとブッシュ陣営が政権に就く可能性は五分五分と見られている。

 チェイニーの例は政治界ではいつものやり方なのだろうか。それとも純粋なビジネスと考えればよいのか。チェイニーの天下りは2つの世界をうまく利用したものといえる。