今回はコンピュータやインターネットによる現代の技術革命を、蒸気機関や電球などの過去の産業革命と比較するロイター通信からの記事をお送りします。
コンピュータが人類に与える影響は電球に匹敵するか
ロイター通信 2000年10月24日
サラ・エドモンド
1920 年代、スイッチ一つで点く電球と電動モーターの音によって生産性向上の黄金時代が幕を開けた。それは米国人の生活を大きく変え、その後50年間、その勢いが減退することはなかった。
今の問題は、一連の進歩で経済全体の形を変えるまでになったコンピュータのハード・ドライブの回転音が新たな大革命を告げるものなのか、それとも過去数年間の生産性向上は束の間の成功に終わるのか、ということである。
米国が過去最長の10年目の景気拡大期に突入し、かつ失業率が過去30年間で最低を維持しているにもかかわらず、インフレが抑制されているのは生産性向上、すなわち時間当たりの労働生産高の増加という魔法の杖に助けられてきたからである。
労働生産高の増加で、企業は人件費を増やさずにより多くの財やサービスを提供することができる。その結果、米国の株価急騰は一応終息しているものの、史上最長の上げ相場が続いた。
経済の歴史家ポール・デイビッドは、このところ経済欄の見出しをよく飾る「ニュー・エコノミー」という言葉は、ニュー・エコノミーが、あたかも従来の「オールド・エコノミー」とは一線を画するような間違った印象を与え得ると指摘する。しかしその実態は、デジタル・コンピュータや高速電子ネットワークが汎用の技術を作り出すために融合され、その影響が経済全体に及んでいるに過ぎない。
スタンフォードおよびオックスフォードの両大学で教鞭をとるデイビッドは、ハイテク革命は、業界を大変革し経済に広範な影響を与えたという意味で、電力の役割に似ていると指摘する。電力は当初、照明にしか利用されていなかったが、個々の電力モーターが機械や道具に組み込まれるようになると工場全体の構造が変わり、費用が大幅に削減された。電動モーターのお蔭で、複数階に分散していた工場生産がすべて同じ階で行えるようになり、高速かつ高性能の組立てラインが実現し、自動車会社の巨人フォードを筆頭に、無数の製造会社にそれが採用されていったのである。
【 インターネットは期待に応えることができるか 】
しかし、最新の技術に疑念を持つ人々もいる。中でも最も著名なのはノースウエスタン大学の経済学者ロバート・ゴードンであり、彼によれば、生産性の増加は景気循環によるものであり、人類の状況を改善する上で、インターネットは電球や水洗トイレにも及ばないという。「経済の12%に相当する耐久財の製造分野以外では、ニューエコノミーが生産性に与える影響は驚くほど皆無である」と、ニューエコノミーに関する論文(2000年5月草稿)でゴードンは指摘する。
それでも、インターネットからゲノムプロジェクトまで、マイクロプロセッサー関連のすべての発明が証明するように、情報技術の猛襲は革命と呼ぶに相応しいと信じる思想家も増えている。
サービス部門の労働生産性の増加率が上昇していることは、特に米国経済が景気拡大期の末期にあることを考えると、景気循環による需要増だけでは説明できないと前述のデイビッドは述べる。
「我々は偉大な技術革命の真っ只中にいると私は確信する。技術革命によって新しい資本が次々にもたらされなかったら、目にすることのなかった革命である」と、クリーブランド連邦準備銀行総裁、ジェリー・ジョーダンは、10月初め、オハイオ航空宇宙科学研究所で豪語した。
蒸気機関が牽引した最初の産業革命では、生産性増加率は革命前の3倍になった。「生活水準が175年毎に倍増する時代から、60年毎に倍増する時代に突入した」とジョーダンはいう。また電力による第二次産業革命では、生活水準は25年間毎に倍増し始めた。
現在、米国は最新の技術革命からその成果を手にしようとしている。しかし、これはいつ終わるのだろうか。技術の習熟曲線の中で、米国が今、どこに位置しているのかをエコノミストがわかっていれば、いつ生産性増加がストップするかをいい当てることができる。しかし、彼らは、それを把握できていない。
生産性増加が弱まったかと思ったら急増し、政府は巨額の財政赤字を抱え、労働者の能力は向上し、騰貴経済が技術の普及を後押し、といった現代の状況は1920年代を彷彿とさせる。
【 歴史は水晶球にはなり得ない 】
確かに、1920年代との類似性から示唆は得られるものの、歴史から将来をいい当てるのは不可能だとエコノミストたちはいう。
重要な新しい発明が構想段階を過ぎれば、それが経済全体にどのような影響を及ぼすかを予測することは十分可能である。例えば、1900年の電話普及台数は100人当たり2台だったが1916年には5倍増の10台となった。しかし、企業内どこにでも電話が遍在するようになると、電話の増加はそこで頭打ちとなった。これはちょうど今、コンピュータが置かれた状況と同じである。
通信の激増といった相互に関連した革新の波を見極めることはより困難である。新しい技術の使用方法を考えるのは利用者であるため、どのような革新が起きるかは誰にもわからないからであると、マクロエコノミック・アドバイザーズの会長、ジョエル・プラケンはいう。
デイビッドは正しく予測するために第二次産業革命のパターンから類推し、技術が経済に浸透する時間を考慮すると、1970年代から1990年代初頭まで続いていた沈滞期間を生産性の増加が吹き飛ばすことになるという。しかし、過去の経験をもとに、生産性増加がいつ止まるかを予測するのは難しいと、彼は指摘する。「この再編成がどこまで到達しているかを完全にいい当てることは非常に困難である。実際、技術の浸透は一様ではなく、かなり深く浸透しているところもあれば、まったく浸透していないところもある。そして、ある時点で飽和状態、すなわち好機が減少の一途を辿り始める時期に達するであろう。我々はまだそこには到達しておらず、技術の潜在能力はまだ底をついてはいない」とデイビッドは述べる。
デイビッドによれば、現在まだ幼年期にある三つの分野で、新たな生産性の増加が期待できるという。第一は、特化された情報の適用であり、業種別コンピュータ・アプリケーションなど、低水準技術の産業の作業を緩和させるものである。例えば、制服のクリーニング会社が各制服にチップを組み込むことで、伝票処理をしていた時よりも、スキャナーを使ってより迅速に制服の仕分けができるようになった。第二の分野は、買い手と売り手がインターネットを介して結合する企業対企業(B2B)の商取引であり、この分野の潜在性は大きい。最後はテレコミューティングで、労働者がモバイル通信装置や広帯域の接続を利用して、遠隔地からオフィスのネットワークに接続するという分野である。企業の中には、こうしたテレワーキングを一部実験的に取り入れているところもあり、混雑した都市部での事務所の維持費や通勤時間を節約すると同時に、求職数が多く、賃金の安い地域の労働者を採用することが可能となる。
しかし、技術革命に対して最も楽観的な人々でさえ、米国経済に景気後退があり得ないなどとは考えていないと、マクロエコノミック・アドバイザーズのプラケンは述べる。1930年代の大恐慌は、奇跡的な高度成長が9年間も続いた後に到来したことを忘れてはならない。