今回は、『日本経済新聞』より、NTT改革与党プロジェクトチームが検討したNTT改革案に関する記事をお送りします。記事の後に、私のコメントも加えましたので、併せてお読み下さい。
与党、NTT東西に雇用調整を要求
『日本経済新聞』 2000年11月29日夕刊
日本電信電話(NTT)の改革案を検討している第二次NTT改革与党プロジェクトチーム(座長、亀井久興自民党衆院議員)は、11月29日、NTT東西地域会社の過剰雇用を早急に解消するよう求める報告案をまとめた。雇用調整の原資としてNTTが保有するNTTドコモ株の売却益を充てるべきだとしている。NTTグループ各社の独立を促すとともに、地域網を独占するNTT東西の高コスト構造を解消するのが狙い。高速インターネットを安く提供できる環境づくりを目指す。報告案は11月29日午後に正式に公表する。
報告案では高速ネット普及が日本の国際競争力維持のため急務になっていることを踏まえ、公正競争ルールを確立するよう郵政省や公正取引委員会、NTTに要請している。NTTや電力会社が保有する光ファイバー網の通信事業者への開放などを求めているほか、ネット時代に対応したNTTの経営構造改革が欠かせないとしている。
特にNTT東西に関しては、40歳以上の社員が3分の1以上を占めている高コスト構造を問題視。ドコモ株の売却益を割り増し退職金などの原資に充て、人員削減を進めるよう求めている。持ち株会社NTTのドコモとNTTコミュニケーションズの持ち株比率引き下げに伴い、現在禁じられているネット接続事業への進出なども認めるとしている。また新規事業として放送分野などへの進出を念頭におき、グループ経営の抜本的見直しを視野に入れた新たな経営計画を作成するよう働きかけている。
〔NTT東西の雇用調整に際しては、「個別企業の経営の中身にまで立ち入るべきではない」(亀井座長)との理由から報告書への明記は見送られた。〕
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◆◇◆ コメント ◆◇◆
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この記事は、倒産件数、倒産による負債額、経済苦による自殺、麻薬中毒、犯罪率など、どの指標をとっても戦後最悪の記録を打ち立てた現日本政府のさらなる愚行を紹介するものです。何度も主張してきたように、国家の目標は国民を幸福にすることであり、企業の役割は、国民の幸福に寄与する製品やサービス、雇用を提供することであると私は確信しています。そして企業がそれを確実に行うよう導くことが政府の役割であるとも述べてきました。
わずか一世代前には、通信、交通、教育、医療といった社会基盤を提供するサービスのほとんどが国営企業を通じて提供され、民間企業で提供される場合も、その民間企業を政府が厳しく規制していました。しかし、今の日本では、米国の圧力や誘惑に負けた政治家や官僚が、我々の祖先が提供していた公共サービスの内容をよく知りもせず、またもっと悪いことには、なぜそれが公共サービスだったのかを理解しようともせず、米国が薦めるままのイメージに社会を作り変えようと民営化を推し進め、競争の原理を躍起になって採用しています。
昔の人々は、社会の基盤となるサービスを国民の誰もが等しく利用できるようにすべきだと信じていました。そのために、税金を財源として基盤を作り、公共サービスとして提供してきたのです。一方で今の米国人は、電話や通信、医療、交通、教育などの社会の基本的なサービスも、国民の支払い能力に応じて個々に購入すべきであると考えています。そして、こうした米国の考え方に影響を受けた日本の政治家や官僚は、すべての国民に等しくサービスを提供するというこれまでの社会的、民主的なやり方を捨て、米国同様、市場万能主義や金権主義のやり方を採用しているのです。
この記事に説明されている、与党3党からなるNTT改革プロジェクトチームが当初報告書に盛り込むはずだった改革案は、人員削減によって人件費を減らし、その分浮いた資金を使って、高速かつ低コストのインターネット接続サービスを提供すべきだというものです。ここで指摘されている高コスト構造の原因である40歳以上の社員は、NTTに入社する際に終身雇用を約束されていたにもかかわらず(明文化された約束ではなかったにしろ、それが会社と社員との暗黙の了解だったはずです)、人員削減によって彼らが犠牲になるということです。またこのことは職を失うNTTの社員とその家族だけでなく、日本経済全体にも悪影響を及ぼすでしょう。なぜなら日本経済の86%は個人消費に依存しており、失業が増えれば個人消費はさらに落ち込むからです。こうしたマイナス要因が生まれるのが明らかであっても、日本には高速で低コストのネット接続サービスが必要だというのでしょうか。ネットの高速化と低コスト化は、人員削減や個人消費の落ち込みを上回る利点を生むのでしょうか。私の知る限り、日本の通信サービス(音声、ファクス、インターネット)は米国やヨーロッパ諸国よりも優れています。日本の接続料金は米国の8倍だと米国は主張していますが、それは米国のごく一部の都市における、最も安い接続料金との比較でしかないことはこれまでにも指摘してきたとおりです。今回のNTTの例に限らず、政府や官僚、専門家や企業が人員削減を推奨する際には、それによって雇用の確保を上回るいかなる利点が国民に与えられるのかということについて説明を求めるべきです。