今回は、米原潜グリーンビルに衝突され、沈没した「えひめ丸」の事故に関して書かれた日本政策研究所所長、チャルマーズ・ジョンソン氏の記事をお送りします。今回の事故に限らず、95年の少女暴行事件の例に見る沖縄の米兵の問題ほか、米軍が文民統制の枠をはるかに超えて、平時の世界各国の国民にとって危険な存在になっていることを指摘するものです。ジョンソン氏の最新著『アメリカ帝国への報復』と合わせ、是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
常軌を逸した勝手放題の米軍を日本がどう見るか
『ロサンゼルス・タイムズ』紙 2001年2月19日
チャルマーズ・ジョンソン
去る2月9日、米海軍原潜「グリーンビル」に衝突され沈没した愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」の事故は痛ましく、世界のあらゆるところに米軍が進出するのに伴って必然的に起きた事故、というのが多くの見方である。しかし、今回の事故、および最近の相次ぐ不祥事は、米軍が文民統制の枠を超えて民間人にとって危険な存在になったことを示唆している。
1998年、米海兵隊の電子偵察・電波妨害機EA-6Bプラウラーの乗組員が、イタリア北部のスキー場でロープウェーのケーブルを切断し、スキー客20人の命を奪った。米国の規則によれば最低飛行高度は300m(イタリア政府によると600m)で、激突したケーブルが地上108mであったことから、米国はこの事故の責任を認めた。海兵隊員はイタリアではなく、ノースカロライナ州キャンプ・ルジューンで軍法会議にかけられ、訓練中の事故として全員無罪となった。それから数ヵ月後の1999年5月には、ミズーリーの空軍基地から飛び立ったB-2爆撃機が、NATOによるユーゴ空爆中ベオグラードの中国大使館を爆撃し、数人の中国人職員の命を奪って大きな外交問題となった。
ベトナム戦争中のハノイ爆撃も含め、米国が他国の大使館を爆撃したことはかつてなかった。国務長官は、操縦士が古い地図を使っていたと下手な言い訳をした。そこに来て、今回の原子力潜水艦の衝突事故である。
グリーンビル潜水艦は、パトロール中でも訓練中でもなく、海軍に献金したと思われる16人の裕福な民間人を「体験乗艦」させていただけであった。事故が起こったのは沖合ではなく、ワイキキビーチから南にわずか15キロの近海だった。民間人が操舵ハンドルを握っていたかどうかにかかわらず、指令室に彼らがいたために注意が散漫になっていたことは間違いない。原潜の将校たちが通常の手順にしたがっていたならば、190フィートもの遠洋航海船の存在に気づかなかったとは考えられないからだ。[編集部注:2月22日の新聞報道によれば、緊急浮上の際、司令室には民間人16人が揃い満員状態で、そのため本来作るべき航跡図が作製されなかったという。]
ほとんどの米国人は、米軍が、思いもよらないほど制しきれない存在になったと気づいている。しかし、この問題を日本人の視点から考えてみて欲しい。最近沖縄で起こった一連の事件は、米国のメディアはほとんど取り上げないが、日本では何週間にもわたって新聞をにぎわし、国会では総理大臣が厳しく追及されている。
1995年に2人の海兵隊員と1人の海軍兵士が、沖縄で12歳の小学生の少女を集団暴行して以来、沖縄というその狭い島内に第3海兵師団を駐留させられていることに対する反発が沸き上がった。その後も軍人の酒気帯運転によるひき逃げ死亡事故が相次ぎ、酒場でのけんか、環境汚染、悪質な性暴力などが跡を絶たない。昨年7月の沖縄サミット前夜には、海兵隊員がある民家に侵入し、14歳の少女のベッドに忍び入った。その後、午前零時以降の飲酒、外出が禁止されたが、今年1月にその禁止令が解かれたばかりである。
さらに、1995年に少女暴行事件が起きた金武町のキャンプ・ハンセンでは、今年1月9日、1人の海兵隊員が、16歳の女性のスカートをめくり、デジカメで下着を撮影した。この事件の後、沖縄県議会は、初めて全会一致で、沖縄の海兵隊員数の削減を求める決議を行った。沖縄県知事と県議会の過半数が保守派であることを考えると、この決議は極めて大きな意味を持つ。
米軍基地に強固に反対する大田元知事が悩みの種だとわかって以来、日本政府は、沖縄が米軍を寛容に受け入れることを条件に補助金を与える約束をしてきた。それにもかかわらず、沖縄を治めているのは自分たちだと沖縄の役人たちは考えている。沖縄の総司令官アール・ヘイルストン海兵隊中将が、県知事らを頭の悪い弱虫だと中傷した電子メールを部下に送っていたことが露呈すると、沖縄の役人たちが激怒したのは当然である。
また日本人は、民間人にグリーンビル原潜の体験乗艦を手配したのが、元海軍将官リチャード・C・マッケであったことにも憤慨した。1995年の少女暴行事件のとき、太平洋総司令官であったマッケは、報道陣に対して、犠牲者を誘拐するレンタカー代があるなら、娼婦を買えばよかったのにと語った人物である。マッケは退役し、ハワイで民間の仕事についていたが、これは、たまたまその下士官兵が特別残酷で愚かだったのではなく、問題は、民間人の利害に対して上から下までが無関心なことであり、それが事故を引き起こす原因になったと、多くの日本人や沖縄県民に示唆している。
クリントン政権時代、米軍に問題があったことは間違いない。高級将校たちはクリントン大統領を信じず、国防総省とのやり取りに見られる大統領の政治的な弱みに付け込んだ。問題は、ブッシュ新政権が集めた元国防長官や退役将官たちが、米軍を綱紀粛正できるかにある。グリーンビル原潜の事故はそれを問う重要な事例となるだろう。