前回に引き続き、今回も「えひめ丸」事件に関する論評をお送りします。今回は、国際金融アナリストおよび時事評論家の増田俊男氏のニューズレター『時事直言』No. 121 (2月26日号)からの抜粋です。今回の「えひめ丸」事件が、もし自衛隊の潜水艦がアメリカの高校生の練習船を沈没させた事故であったらどうだっただろうかという想定に基づいた増田氏の日米政府の比較は、まさにその通りだと私も思います。日本が米国に従属していることを改めて認識させられるのではないでしょうか。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
練習船「えひめ丸」事件
『時事直言』(No.121) 2001年2月26日号より
時事評論家 増田俊男
この事件を通してわかったことはプロとアマチュア政治家の違いだ。もし日本の自衛隊の潜水艦がアメリカの高校生の練習船を沈没させたらどうなっただろうかということである。まだ私がアメリカにいた頃の事件であるが、シンガポールに観光旅行に来ていたアメリカの高校生(17歳)がスーパーマーケットの駐車場で止まっている複数の車に釘で傷をつけているところを現行犯で捕まり、裁判の結果有罪となり、同国の刑法によって確かお尻を60回たたかれることになった。これを知ったクリントン大統領はシンガポールの当時の首相リー・カンユーにアメリカ人の人権を盾に厳重に抗議し、結果イタズラボーイの刑は軽減された。たった一人のいたずら少年のために大統領が立ち上がる国、アメリカ。アメリカ国民はこの事件を知ってどんなに安心しただろうか。我々の大統領はどこの国へ行っても我々を助けてくれると。それに引き換え日本は?
ブッシュ大統領は「えひめ丸」事件を知るや、間髪入れずにホワイトハウスへヘリコプターで飛んだ。あの緊張に満ちた顔、そしてあわただしい大統領の行動はマスコミを通じて全世界に流れた。最重要同盟国日本への大統領の思いをまざまざと見せつけたのである。
実は先手を打ったのである。こうすることによって日本がアメリカに日本独自の検査官による直接捜査や、国連に調査団派遣を要請するのを未然に防いだのである(実は日本にはそんな発想などまるでなかったのだが)。ブッシュ自身アメリカ側にどんな過失が潜んでいるかわからなかったからだ。もし逆だったらどうだろう。駐留米軍の調査官が自衛隊の潜水艦の立ち入り検査を半ば強制的に要求し、拒否でもしようものなら全世界にアピールし、結果的には必ずアメリカ主導で調査するだろう。そこで民間人が舵を握っていただの、計器が故障していたことなどがわかったら、日本の自衛隊を殺人者扱いにし、全世界の耳目をかき立て、日本のずさんな防衛機能をたたくことになるだろう。そして日本の内閣は総辞職。
その後日本は最新型潜水艦を数隻アメリカから買わされることになるだろう。フォーリー駐日大使は、記者会見で謝罪の後「事件の起きた真珠湾には今なお(日本の真珠湾奇襲によって殺された)アメリカ人が沈んでいる」と捨て台詞を吐いて帰った。もっとも、逆でなくてもわが国内閣の総辞職は起る。日本にプロの政治家を期待するのは100年早い。
その前に災いを一瞬にして福に変える能力を養うことが先決である。
[著者の許可を得て転載]