No.36~440で、「IT革命は本物か」と題する私の小論をお送りしました。今回はお寄せいただいたご意見やご質問に対する私の回答をお送りします。
「IT革命は本物か」に関するご意見と私のコメント
【 IT革命は本物か 】
* IT革命はインチキであるという主張が、その業界にいる企業のトップから出てくるとは思ってもみませんでした。多分、氏が理想と思われている方向とは違う方向に進んでいるからだと思います。
回答: ITそのものがインチキだとは思っていません。最近、見られるITに関する誇大広告が偽物であり、有害だと考えているだけです。ITは価値あるものですが、革命ではありません。ITはビジネスに役立ちますが、ITがビジネスの中心であるかのような考え方は間違っているということです。
* ITによって環境が大きく変わるのではないでしょうか。特に流通環境など。それを革命とはいわないのでしょうか。
回答: 電話やジェット機が与えた影響に比べれば、ITが環境に与える影響は小さく、革命とは呼べないと思います。
* 現段階のインフラでIT「革命」という言葉を使うのは、いわれる通り「大げさ」だと思います。しかし、日本あるいは世界のネットワークがつながり、高速で安価に利用できたら? 例えば、将来100G bpsの速度で常時接続、無料というインフラになったら? これは現在の「道」と同様の役割を果たすと思う。「道路革命」という言葉もないが、「道」の果たす役割は大きいと思う。
回答: 日本あるいは世界中のネットワークがつながることは、大部分の人にとってそれほど重要なことだとは思いません。人々が興味を持っているのは、自分たちに直接関係がある身近な情報だからです。フィンランドのレストラン情報は、フィンランドに行くことがなければ私にとっては何の役にも立ちません。また私は株をやりませんので、株価の即時情報にも興味がありません。同じことは道路にもいえるのではないでしょうか。世界中の道路が相互につながっていても、一般の人々はそのうちのほんの一部の道路しか通らないからです。
* IT革命を「革命」にするか「バブル」にするかは政府のやり方、頭脳にかかっている。森首相では心配ですね。先のインフラが実現したら、受発注/請求はもとより、仕事のやり方が大きく変わる。生産性向上も目的だが、工数をカットし、人々の休暇時間が増えれば・・・。在宅で時間に追われず仕事ができたらどうだろう。世の中のためにITが役立ったといえるのではないでしょうか。
回答: なぜ森首相では心配なのでしょうか。自民党から首相が選出されるように、選挙で最も多くの票を自民党に投じているのはあなた方有権者です。いうなれば、日本の国民が森氏や宇野氏といった人物を総理に選んでいるのです。森首相のせいにするよりも、これを機に自分たちの投じた一票や、棄権票がどんな結果をもたらしたのかを反省するべきだと思います。世界に日本の代表として森首相を選出したのは日本国民自身なのです。
IT革命についていえば、確かにITは世の中に役立っているかもしれませんが、それを革命と呼ぶかどうかは別問題だと思います。トイレットペーパーやハサミも社会に役立ってはいますが、それらが社会に革命をもたらしたとはいわないし、ハサミと同様にITは単なる道具に過ぎないと思います。
* IT革命ではないという説には同感。ただし技術的にはアナログがデジタル化したことによる様々な進歩は「デジタル革命」と表現できると思います。また私は、ITは手段であるという点では、貴殿と同じ考え方を持っています。ただし、産業革命は1つの技術、1つの発明から起きたものでなく、複合された技術の発見の結果だと思います。現在を革命の時代とするなら、様々なIT(情報をデジタルで扱う機器)を使った情報のデジタル化をまさに革命と考えてもいいような気がします。ただ、この結果が人類の未来にどういった結果をもたらすかはわかりませんが。
回答: 同感です。「革命」という言葉は今盛んにいわれているような情報技術という狭い範囲に対してではなく、「情報の電子的な保存や伝送」全体を指して使った方がずっと適切だと思います。情報のデジタル化によって大量の情報が小さく保管され、しかも高速で送信したり、簡単に活用することが可能になったことで、人々の生産性や他の生活分野に大きな影響が生まれたことは確かだと思います。
【 国際化、競争 】
* 政治的ポリシーあるいは基本的な考え方は同感できる。しかし、過当競争の中にいる個人としてはどう考え行動すればいいのでしょう。
回答: 最も重要なのは、自分がなぜ過当競争の中にいるのかを考えることだと思います。私はその理由を、規制緩和や民営化、グローバル化の推進を政府に許したためであり、さらに政府が、協力や相互依存を強調する日本の伝統的な考え方や習慣を捨て去り、ビッグバンやその他の共食いにつながる弱肉強食の熾烈な競争を重視するアングロサクソンの考え方を優先させたため、過当競争という状況がもたらされたと思っています。このことを認識すれば、国民がすべきことは日本を混乱に導いた政治家を罰すること、つまり次の選挙で落選させればよいということがわかると思います。
* 初めてお話を拝聴させていただきましたが、生産性の向上を求めるのは当たり前と思っていたところに、別の視点で話してもらい、なるほどと考えさせられました。ただ、これからあなたのいうところの海賊民族と戦わなくてはいけない状況では、本当に競争力を考えずによいかは悩むところです。
回答: 10~15年前までやってきたように、日本政府が海賊民族から国民を守るべきだと思います。日本政府のとった規制緩和、民営化、グローバル化政策により、日本の企業や国民が海賊民族との競争に晒されています。今、日本に必要なのは、海賊民族が日本国民から略奪することを支援する政府ではなく、海賊から日本国民を守ってくれる政府です。自国内の商業活動であれば、政府は国内企業が海賊との競争にさらされないよう規制する能力およびその権利を持っています。そして企業は国外の商業活動であれば、いかなる規則であってもその国の規則に従って競争しなければなりません。
熾烈な競争は、供給が過剰であることの表れです。日本企業が日本国内で外国企業からの熾烈な競争に晒されているとすれば、それは日本政府が自国民および日本企業を保護するのに十分な国内市場の規制が行われていないことを示しているのです。また海外で日本企業が熾烈な競争を強いられているとすれば、なぜわざわざ供給が過剰な市場で販売しようとするのかを考えてみるべきです。もしその理由が、利益のあくなき追求にあるとすれば、同情することはできません。
* 国際化/国境の低下等は、やはり進んでいくのでは? 日本という国の中だけで解決できる範囲は少なくなっているのではないでしょうか。
回答: 国際化、国境の低下という危険が拡大することを、日本や他の国が反対しない限り、この流れは促進されるでしょう。国際化や国境の低下が進むのは、それを望んでいる人々が、そのために働きかけるからです。国際化の進展で悪影響を受ける人々は、それに反対を唱え、またそのための行動をとってくれる政府を選ぶようにしなければいけません。
* 経済の国際化のような環境の変化への対応で日本人は悩んでいる。日本人は、欧州のように陸続きの国での民族交流の経験が十分ではないわけであり、この面からの分析が望まれる。
回答: 「民族交流の経験が十分ではないこと」よりも、私はむしろ儒教、仏教、神道などの日本の価値観や伝統、さらには日本の歴史に関する知識が日本人に欠如していることにあると考えます。今日の日本人が、過去1200年間、すばらしくうまく機能してきた日本という国の価値観や慣習をもっと深く理解していたならば、他の民族にいわれるまま、これほど簡単に変化に翻弄されることはなかったのではないでしょうか。
【 企業経営および民主主義 】
* いつも疑問に思いますが、利益を上げないと企業として成り立たなくなるのではないでしょうか。
回答: 私が強調したいのは、利益を上げることを会社の目標にすべきではない、ということです。高度経済成長期の代表的な日本の経営者、松下幸之助氏は、企業の目標は、国民の幸福に寄与する製品やサービス、雇用を提供することであると言明していました。そして、企業存続には研究開発費や設備投資が必要であり、そのための利益は必要だが、それ以上の利益は、製品やサービスの改善、商品価格の引き下げ、雇用条件や給与の改善に充てるべきであると主張されていました。私は松下幸之助氏の考えを全面的に支持しています。松下幸之助以上の成功を収めた経営者が他にいたでしょうか。
* 日本の企業は信用、品質が低下している。どのようにすれば今後、信頼を得ることができるのか提言いただきたい。
回答: 儒教、仏教、神道など、日本の伝統的な価値観を取り戻すべきだと思います。日本企業が、こうした価値観を持つ人々によって経営および運営されていた時代には、日本企業の信用、品質は高い評価を受けていました。低下してきたのは、そうした価値観の教育を受けていない人々が後を継いでからです。
* 一考に値する内容で良かったと思います。ところで御社はその考え方に100%従っているのでしょうか。
回答: 社員全員が私の考え方に100%従っているとすれば、自分では何も考えられない700人の無能集団ということになります。うちの社員は、私の考えを聞き、それについて考えているでしょうが、その他の情報も合わせて、自分の判断に基づいて日々の意思決定を行っているはずです。社長である私の影響は受けているでしょうが、私が社員全員を統制しているわけではありません。また、私も社員から影響を受けています。
* 本音の話なので、心にビシビシと響きました。共感する部分が非常に多かったです。国会議員に立候補して欲しいくらいです。(日本も外国籍の議員が実現するような国にならないかと思います。)
回答: 民主主義社会では、すべての国民が社会の可能性や問題に関心を持たなければいけません。私は経営者であって、政治家ではありません。1人の経営者として、社会の可能性や問題について、今後も講演や執筆活動を続けたいと思っており、議員になる必要性は感じません。強調しておきたいことは、政治家だけが社会について考え行動しても、民主主義は成り立たないということです。