No.457 米国社会があなたを病気にしている

今回は、世界の医療費の半分を米国が占めるにもかかわらず、米国人がいかに不健康であるか、そしてその原因の1つに貧富の差があるとする『ニューズウィーク』誌の記事をお送りします。貧富の差が広がる米国とは対照的に、日本がいかに平等であるか、またそれが世界最長の平均寿命につながっているという指摘もあります。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

米国社会があなたを病気にしている

『ニューズウィーク』誌 2001年2月26日
ステファン・ベズルチカ

 米国人は健康おたくだ。雑誌、テレビ番組、Webサイト、ハウツー物の本、我々の支出内容を見れば、それは明らかだ。米国一国で世界人口の約4%を占めるが、世界の医療費の約半分は米国が使っている。それを考えれば米国人の健康状態はかなりいいはずだ。

 だが私は、他の国と比較して、米国が健康面でいかに低くランクされているかを知り、いつも驚かされる。1970年、私が医学部に入ったとき、ヘルスオリンピックと私が呼ぶ平均寿命あるいは乳児死亡率の順位で、米国は15位だった。それから20年後、米国は20位になり、今ではさらに25位にまで下がって先進国では最低、さらにはいくつかの貧困国にも劣っている。世界で最も富める強い国として、これは実に嘆かわしい。

 人々をいかに健康にするかを考えることが使命の医師として、米国の順位がこれほど低いにもかかわらず、医学界および公衆衛生当局がこのことをそれほど問題視しないことにはあきれる。これらの分野の専門家が、健康を作り出すという医療の役割を疑いたくないからだろうか。それとも、危険因子や治療、特定の予防法など病気にばかり集中するあまり、米国人の健康を維持する方法が考えられていないからであろうか。

 過去10年間の研究から、人の健康はタバコ、運動、食事など個々人の行動、遺伝または加療からは大きな影響を受けないことが明らかになっている。基本的な物資が入手容易な国においては、人々の寿命は、社会の階級構造によって決まるのである。つまり、貧富の差だ。

 階級はどのように健康に影響するのだろうか。階級社会では、階級の上位にいれば権力、支配力、威圧、そして階級の下層部では、あきらめ、怒り、服従という感情がある。では階級がなく、より平等な社会にはどのような特徴があるかというと、支援、友情、協力、社会性などだ。強い階級型の関係を持つケニアのヒヒと捕獲されたマカークザルの研究では、高い階級にあるものは下の階級のものよりも健康だという結果が出た。人間の人口調査からも、中年層の心臓発作による死亡率は、平等社会であるスウェーデンより、リトアニアの方が4倍も高かった。

 ヘルスオリンピックで上位にいる国から学べることもある。1960年、日本は23位だったが、1977年から1位を維持しており、現在、日本の平均寿命は米国より3.5歳も長い。日本人男性は米国人男性の2倍も喫煙者が多いが、喫煙による死亡者数は米国の半分だ。なぜだろう。第二次世界大戦後、日本の階級構造は、すべての国民がより平等に経済を共有できるよう再構築された。現在、日本のCEOと新入社員の給与格差は15~20倍であるが、米国は500倍もの差がある。最近の経済危機で日本のCEOや経営者は、社員をレイオフするよりも自分たちの給料を削減した。このような社会構造こそが健康のカギなのである。海外に移住した日本人を見るといい。彼らの健康は移住先の国民のレベルまで下がっている。

 こうした健康と階級の関係は常にあったのであろうか。つまり、人間の本質なのだろうか。埋葬塚や遺骨に関する考古学の記録によれば、人間は農業の出現以前は比較的健康だったことがわかる。農耕の発達によって大量の食物が作られ、保存されるようになった。つまり他者の働きによって生きる人々が現れたのである。これが階級である。農業が、健康を低下させ、栄養の悪化、労働量の増加をもたらしたのである。

 なぜ医学界やメディアはこうした発見を報道しないのか。理由の1つは、米国人がゆりかごから墓場まで医療業界と深い関係があり、医療業界が米国経済の7分の1を占めることにあると思う。

 もし平等が優れた薬なら、米国人の健康を向上させるために何をすればいいのか。その第一の目標は、今日の金持ちと貧乏人との記録的な格差を縮めることである。そのような「階級を治療する」処方箋には、所得より消費への課税、公共の交通機関や学校、保育所への支援の増加も含まれるだろう。これらはすべて米国民への経済の配分を変えることになるだろう。ヘルスオリンピックという賞にも目を向けるべきだ。健康にとって最高の処方箋は、医師から受ける治療ではないのである。