No.468 読者からのご意見と私の回答

今回は読者からいただいたご意見と、それに対する私の回答をお送りします。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

読者からのご意見と私の回答

読者:私は今年3月に経営学を専攻した大学を卒業する予定であり、4年間会計学(主として監査と内部統制)と株式投資について学んできた。先日、貴方の書物を書店で見かけ、あまりの内容の愚かさに興味を魅かれてウェブサイトを覗かせていただいたが、読んでいるうちに貴方に対していいたいことがこれでもかというばかりに沸いてきたので、まとめて書いてメールを書かせていただいた。

回答:  どの本をお読みになったのか、またなぜ愚かだとお考えなのか、教えていただきたい。

読者:聞くところによれば、貴方は母国である米国の社会構造に嫌気をさし、日本で起業して現在に至るというのだが、客観的に今の日本の現状を、経営学・経済学の観点から捉えた立場からいわせていただくと、貴方は単に資本主義社会の本場で成功できずに、この島国に逃げ出してきたに過ぎないと思われる。貴方は「日本を米国の二の舞にするな!」という言葉を口癖のように公の場でいっているが、私から見たら「自分は資本主義に勝てなかった。だから都合のいいところだけ資本主義の原理を導入している社会主義的な居心地のいい日本が変わってしまったら、自分はまた負けてしまう。そうだ、日本人はアメリカ人のいうことなら否応なく信じ込むに違いない! ならば日本企業の米国人社長であるこの自分が、日本の今までの思想を奨励すればいいんだ」という企みが見え隠れしている。(もっと端的にいえば、日本に媚びを売っているだけであり、経営者としてもビジネスマンとしても「媚びる」という行為がいかに最低かをわかっているのか?)

回答:  まず、私は日本に「逃げ出してきた」のではない。28歳の時に初来日した理由は、当時、私の勤めていた米国企業が日本市場の調査のために私を日本に派遣したからである。また、「資本主義社会の本場で成功できずに」とあるが、私はそこで成功したいと思ったことはないし、そのため「負けた」と感じたこともなかった。第一、当時はただのサラリーマンに過ぎなかった。さらに「媚びを売っているだけだ」とのご指摘だが、私の著作をお読みいただければおわかりの通り、私は米国だけではなく、日本や日本人についても悪いと思う点については率直に批判している。最後にいわせていただけば、「経営者としてもビジネスマンとしても媚びるという行為がいかに最低かをわかっているのか」などという前に、経営者あるいはビジネスマンとしての経験を積まれるべきではないのか。

読者:それを踏まえて、貴方のコラムに書かれたメッセージについての批判を入れさせていただいた。一気に全部の記事には返信ができないので、コラムを1つずつ読んでは定期的に送信させていただく。返信をいただければなお光栄だ。貴方はサイトで公表している「読者からの意見」も、自分に有利な意見ばかりを載せているようであるが、時々はこういった人間もいるのだということを、あなたの狂信的なファンにも伝えたらどうかと思う。

【 題名:No.459 「NTT叩きでITは強くならない」に関してのコメント 】

読者:NTTが叩かれている理由を貴方は未だに理解していないようだ。もっと単純にユーザーの視点で考えてみなさい。我々ユーザーは電話をはじめとしたインターネットを含む通信網を少しでも「安く」利用したいということが頭にあるのは当然のことだ。貴方は「多くの人が公平にサービスを」という下りを用いることがあるが、では現状の電話回線を利用するにあたってどのくらいのコストがユーザーに圧し掛かるかを知っているのだろうか?

回答:  ここでこの読者は「少しでも安く利用したいのは当然」といっているが、安くしたいと望むのは、「電話をはじめとしたインターネットを含む通信網」だけなのだろうか。それともあらゆる物、サービスの価格が少しでも安い方が良い、といいたいのだろうか。労働者の賃金や給与は製品やサービスの値段と連動している。すべての製品やサービスの値段を安くすれば、結局、それは国民全体の所得の低下につながる。すべてを安くしたいとは思わない、というのであれば、どの製品やサービスの価格を引き下げたいのだろうか。「電話をはじめとしたインターネットを含む通信網」だけなのか、または他にも安くすべきだと思うものがあるのか。だとすればそれをどうやって決めるのであろうか。

私は自分の家庭、および私の経営する会社では700人の社員の通信費を支払っているが、これまで日本の通信費が高いと感じたことはない。それは私がよく出張する米国と比べても同様だ。日本で売られている他の製品やサービス、さらには日本人の所得と比べても高いとは感じない。日本の通信費が高いことを客観的に示す証拠があれば、是非教えていただきたい。

読者:まず電話回線を利用するには「電話加入権」という「権利」を買わなくてはならない。日本ではこの権利の販売権を持っているのが(原則として)NTTのみで、ユーザーが電話を家庭に引くとなったら、たとえ通話をどのキャリアを利用しようとしても、この権利を買うためのお金をNTTに支払う必要がある。その金額が72,000円である。貴方はこれを高いと感じるだろうか、安いと感じるだろうか? 投資にも外貨取引にも興味を示さない貴方に円の価値がわかるとは思えないので解説しておくと、大学を卒業したてのサラリーマンの初任給の手取りの約40%~50%に当たる価値である。もっとも最近では電話加入権の自由売買が活発になってからは安くなったにしても、それでも40,000円はかかる。初期にこれだけ払っていながらも、規制緩和前のユーザーはさらに市内で3分10円といった金額を払い、市外、県外、そして国際通話と距離が大きくなるにつれてバカ高い金額を払ってきた。もしこれが所得が乏しい人間にしてみれば、電話すら満足に引けない人間もいる現状にとって、果たして「公平なサービス」といえるのだろうか?

回答:  一生に1度しか支払わない初期コスト「電話加入権」の費用を、月給、それも初任給と比較するのは不適切ではないだろうか。「電話加入権」が一生使えること、また一生かけて減価償却されることを考えれば、生涯収入と比較すべきではないのだろうか。そうすれば、この電話加入権の費用が高いと不満を感じる必要はそれほどないはずである。

また規制緩和前の市内通話料金3分=10円が高いと思うなら、利用者を無作為抽出して調査を行ってみたらどうか。3分=10円が高い、あるいは負担と感じる利用者はそれほど多くないはずだ。また電話加入権を購入できない人を何人ご存知だろうか。規制前にはそういった人が何人いただろうか。

読者:こういう書き方をすると、貴方は決まって「規制緩和による競争が貧富の差を生んだことに原因がある」とでも反論をしそうだが、もっと根本的に電話料金に対する価格破壊が必要な面を見出してみたらどうか? ちなみに貴方の奨励するiモードが普及したのは携帯電話がレンタルから自由販売に規制緩和したことで携帯電話そのものが普及したことにあるのをお忘れなく(ちなみに、携帯電話には一般回線のようなバカ高い初期費用も要らず、携帯電話同士の通話であれば距離に関係なく通話料金は同じである)。貴方の規制緩和反対論が正しいとすればiモードを奨励することは矛盾の倫理を歌っていることを認めるものになると思ってよい。

回答:  なぜiモードが規制緩和によって普及したと考えるのか。規制緩和がなければiモードは普及しなかったといえるだろうか。携帯電話がレンタルから自由販売になったのは、技術の進歩により携帯電話1台当たりの単価が安くなったためであり、規制緩和を行わなくても携帯電話の自由販売は自然の流れだったはずだ。

———————————————————
No.459からの抜粋

———————————————————
後藤: 確かに要素技術に限っていえば、NTTの研究開発力は世界のトップレベルを維持している。だが、どんな技術にも代替技術が必ず存在し、NTTといえども、その選択を絶対に間違えないなどということはあり得ない。
回答: NTTが選択を間違えるかもしれないというのは仮説であり、それがNTTの完全分割を進める理由にはなり得ない。株主の利益拡大に必死な企業でも、同じように選択を間違える可能性があるし、消費者よりも株主に最善なことを選ぶ可能性もある。

———————————————————-

読者:いつも貴方の文章を読んでいて思うのが、「株主重視」を平気で批判しているところが不思議を通り越して呆れるばかりである。「企業が誰のものか?」。答えは簡単だ。法的にも倫理的にも「株主のもの」である。

回答:  株主が会社の株を所有しているという理由だけで、企業を株主のために経営すべきだというのは間違っている。製品を作る社員よりも、売上を提供する顧客よりも、また企業に存在を許す社会よりも、株主を重視すべきだというのか。社会は、ユーザーへの通信サービスよりも、通信サービス提供企業の株主の利益増大を重視すべきだというのか。

—————————————-
NO.459からの抜粋

—————————————-
後藤: 要素技術を持っていても、NTTには、それをタイムリーに実用化したり、コストダウンしていく動機に乏しい。例えば、光ファイバーへの固執から、NTTは長い間デジタル加入者線(DSL)サービスを遠ざけてきた。その結果、日本の通信のブロードバンド(広帯域)化は大きく後れをとった。石黒氏の指摘通り、米国のDSL業者の株価は低迷しているが、DSLという適材が適所に使われることで全体として高速インターネット通信のコスト引き下げに貢献した事実までは否定できないはずだ。
回答: DSLと光ファイバーのどちらが優れているかは私にはわからないが、素人考えでいえることは、人口密度が米国の13倍ある日本では、光ファイバーの敷設が米国よりも現実的ではないかということだ。単に米国を模倣するのではなく、日本の状況に最も適した解決策を探すことも可能なのではないだろうか。

———————————————————-

読者:どちらが優れているという問題ではなく、ユーザーは電話代のかからない、完全定額&常時接続のインターネットを望んでいるのである。アナログやISDNは特定の時間(テレホーダイタイム)や特定のサービス(フレッツ)以外はすべて電話会社に「通話料」を支払わなければならない。こういったユーザーの救世主となっているのがADSLやCATVといった、光ファイバーよりは劣るかもしれないが、通話料がかからずにISDNの何倍もの速度で利用できるインターネット・インフラなのである。光ファイバーを普及させるのにあと何年かかるか目処がたたないのに、それまで「電話回線を使え!」ということではNTTのエゴ以外の何ものでもない。NTTは技術力はあるが、一人勝ち企業のエゴイズムを涼しい顔をしてまかりとおしてきた存在である。貴方は経済学者や投資家のエゴイズムをよく批判するが、NTTのエゴイズムは許すというのか? 貴方の意見を書いていただきたい。そして私の意見とともにホームページに載せるがいいだろう。

回答:  ユーザーは、電話代のかからない、完全定額かつ常時接続のインターネットを本当に望んでいるのだろうか。それは本当にそれほど重要なのだろうか。本当に多くの人がそれを望んでいるのだろうか。私には、インターネットの高速化や常時接続の必要性が訴えられているのは、NTTのビジネスのもっともおいしい部分を狙う企業や、愚かなメディアによる影響と思えて仕方がない。