No.475 小泉新総理が試される日本の恐ろしい債務力学

今回は日本の巨額の公的債務に関するアメリカン・エンタープライズ・インスティテュートの日本政策プロジェクト理事、デイビッド・アシャーの記事をお送りします。日本の債務残高や利払い費の税収比が各国の記録を上回ることを示しており、それがいかに深刻なものか理解できると思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

小泉新総理が試される日本の恐ろしい債務力学

『ロイター通信』 2001年5月7日
アラン・ウィートリー

 債務の冷酷な力学とは、新総理となった小泉純一郎が日本の乱れた財政を調整するという、前代未聞の挑戦に直面しているということである。

 日本は先進国で最大の公的債務を抱えることで知られている。しかし、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートの日本政策プロジェクト理事を務めるデイビッド・アシャーがなにより懸念するのは、日本が利払いを含む債務返済額においても史上最高の記録を持っていることである。それは、10年におよぶ不景気の後で、日本経済が突然好景気に転じることでもない限り、超人的な緊縮政策が必要になることを意味している。

 「世界記録は破られるためにある。そして日本は、私が調べたあらゆる国家債務の世界記録を破っている。特に、キャッシュフローに基づく数字がひどい」とし、アシャーは日本の負債は爆発寸前の富士山のようだという。最近訪日した際、アシャーは特に問題だという3つの比率を指摘した。

・ 長期債務残高は、国家税収から地方への交付金を除いたものの1548%である(2000年)。これは1947年に最高だったイギリスの2倍である。
・ 税収に対する正味資金調達額は121%で、これは1981年のメキシコの47%という記録を軽く超える。
・ 保留税収に対する債務利払いの比率は33.45%で、1993年のカナダの32.75%という記録を破っている。

 「歳入に対して劇的に高いこの債務返済比率を懸念すべきだ。今日、日本政府が財政措置をとれる余裕はほとんどない」。日本の財務改革についての会議でアシャーはこう述べた。

【 膨らむ債務 】

 このままいけば日本の総債務はGDP比で2000年度の141%から、2005年度末には200%、2011年度には300%になるとアシャーは予測する。ただし、国際投資家はそれ以前にストライキに入っていることだろう。

 「そこまでいくとは思わない。大きな変更をしない限り、財政危機に陥るということだ」と彼はいう。OECDからのメッセージは表現はもっと外交的だが、似たようなものである。

 小泉新総理は所信表明で、経済があまりにも停滞しているため、今年または来年に財政赤字を減らすことはしないと述べたが、OECDは2002年4月の会計年度から緊縮財政を始めなければならないと主張した。

 「政府の債務が膨らむのを防ぐためには、それ以降も継続した引き締めが必要である」。OECDは5月3日にこのような経済見通しを発表した。

 2010年までに極めて高いレベルで債務を安定させるためには、GDPの10%程度の歳出削減か増税といった財政改革が必要だとOECDはいう。

 アシャーは、より厳しい緊縮政策が必要になるという。近代史上、どの先進国が行った財政改革よりも大きなものになることはいうまでもない。

【 二重の警告 】

 債務を計算すると、経済学者がなぜ、日本がこれ以上深みにはまるのを阻止したいのかが理解できる。国家のインフレと名目GDPが高くなればなるほど、政府は債務残高のGDP比を変えずに、借金を増やすことができる。なぜなら、すでにある債務の実質価値が早く目減りするからである。

 しかし、もし金利上昇率が名目GDPの増加率を上回り、そして政府が財政赤字(ここでは利払い費以外の政府の歳出から税収を引いたもの)に陥れば、債務のGDP比は無限に増えていく。残念ながらそれが今の日本の状況である。名目GDPは予測通り4年連続で減少し、その一方で財政赤字はGDPの7.35%にも膨れている。元財務大臣の宮澤喜一は、4月26日にこう述べた。「日本が巨額の債務を抱えていることは懸念している。成長率がもっと高くならない限り、これらの債務を償還するのは容易ではないだろう」

 容易でないことはアシャーも同意する。しかし不可能ではない。アシャーは、2005年までに財政黒字に転じる厳格な計画を提案している。しかしこの計画は、7月に予定される参院選を恐れる自民党の党首、小泉はもとより、世界でもっとも安定した指導者でさえ青くなるものである。

 アシャーの計画とは、不要な公共事業を一時停止することに加え、満期になる債務を大幅に割り引いたゼロクーポン債にすることと、税収を上げるために税制改革を行うことである。

 さらにもっと実行が難しいのが、給付金削減や資産調査を含む広範な福祉改革の断行である。日本の社会保障費が増大していることから、これも必要なことであろう。

 債務の比率が示すのと同様、日本の人口統計学は、政府が社会保障と予算の両面ですぐに実行に移さなければならないことを示している。2005年までに労働人口は年間1%ずつ減少していく。「税収における社会保障費の割合を考えると、今後10年間でさらにこの負担が大幅に増加すると予測され、財政改革の遅れは日本経済の心臓部にとって二重の警告となる」とアシャーはいう。

 以下は、各国が財政危機に陥ったときの債務残高、正味資金調達額、利払い費を、それぞれの税収と比べたものである。(単位:%)
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          債務残高  正味資金調達額 利払い費
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 日本2000年     1548.45    120.83    33.45
 イギリス1947年   707.50     15.71    13.85
 イタリア1991年   290.05     31.94    29.02
 メキシコ1981年   204.82     46.80    20.11
 カナダ1993年    438.17     36.22    32.75
 アイルランド1984年 273.47     29.67    27.74
 ニュージーランド1983年 209.44     30.65    19.25
 スウェーデン1981年 115.57     27.93    12.88
 イギリス1975年   162.81     23.81    10.60
 オーストラリア1983年  90.53     11.05     8.25
 ドイツ1921年    216.00     57.00    10.00

出所: デイビッド・アシャー、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート