今回は、民営化と規制緩和に関する記事を2つご紹介します。パリ在住のコラムニストであるウィリアム・パフによる記事に引き続き、イギリスの日曜紙『オブザーバー』編集長、ウィル・ハットンによる記事をお届けします。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。
公益事業の民営化は悲劇につながる
『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙
2001年2月22日
ウィリアム・パフ
カリフォルニアの電力自由化、およびイギリスの鉄道の民営化がもたらした惨事は、権力を握る人々がいかに簡単にイデオロギーの虜になってしまうかという基本的な問題に対する批判を巻き起こすまでには至らなかった。
民営化は、公益事業の欠陥や問題に対する流行の解決策になってしまった。公益事業はごく最近まで一般に、独占は当然と考えられており、米国では、電話会社や電力会社が1980年代までそうであったように、規制された民間企業が適切に管理するか、米国以外のほとんどの国でそうであったように国営企業によって運営されてきた。
しかし、1980年代になると、それら民間あるいは国営の独占企業は、多くの場合、官僚的な非効率性、過剰人員、さらには消費者利益に対する鈍感さといった問題点を露呈し始めた。これが、サッチャー政権下のイギリス、レーガン政権下の米国で主張された市場原理の解決策を強力に推進したのである。
そして、公益事業の国家所有を終わらせるべきだという、説得力のある主張がなされた。しかしこれは、知識人による主張に批判がほとんどなされなかった好例である。また、特定の状況において民営化が実際どのように機能するかという、現実的な分析がいかに不足しているかを示している。ロシアにおける国有財産の民営化などはまさに言語道断であった例である。
西側でも同様に、常識で考えて民営化が適切かどうか疑わしいところに民営化のイデオロギーが適用された。政府にとって民営化の魅力は、ロシアや西側諸国などが行ったように、公益事業すなわち国有財産を売却することによる歳入の増加である。イギリスのマクミラン元首相は、これを家宝の銀の売却になぞらえた。そして政府は国有財産の売却益を再選のために利用できたのである。
このイデオロギーの行き過ぎたものが、現在の悪名高いカリフォルニアの電力事業とイギリスの鉄道である。その破滅的影響があまりにひどいことから民営化支持者でさえも、この2つの失敗例は、民営化のやり方に問題があった、あるいは、部分的な民営化だったから、官僚がそれを覆したから、といった主張しかできなくなっている。民営化自体が間違った方法だった可能性を、彼らは未だに受け入れられない。
カリフォルニアの場合、民営化議論では社会主義気質の官僚と揶揄された州の役人が、電力の卸売市場を自由化したものの、愚かあるいは強情にも、小売市場価格を2002年度まで据え置きにしたと彼らは主張する。
『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたポール・クルーグマンの記事によれば、電力の小売価格が自由化されなかったのは、民営化された新しい電力会社からの要求によるものであり、民営化イデオロギーの想定通り卸売価格が下落した場合に電力会社の収入を守る、または増やすためだったという。
しかし予想に反して卸売価格は高騰し、カリフォルニア州に供給する州外の電力会社は莫大な利益を上げ、中には前年度比700%の利益増を記録した会社もあった。その結果、カリフォルニア州では電力不足という大混乱が発生し、他の地域にも混乱が及び、米国の経済成長率が最高で1%減少することもあるという。
イギリスの鉄道の場合は、すでに困窮していた国有鉄道がいかに無責任、かつ政治的理由から性急に規制緩和されたかを示すものであり、すでに周知の事実になっている。
民営化後の分断されたイギリスの鉄道は、今でも年間約20億ドルの補助金を受けているが(2005年には少なくとも60億ドルに増加すると見られる)、昨年10月には、死者4名、負傷者30名以上の事故を起こし、クリスマス前にはほとんど崩壊寸前であった。
この大事故を含む一連の事故で、25の鉄道運営会社がそれぞれ統合されていない状況にあることが明らかになり、さらに鉄道インフラの保守および改善を担当するレイルトラック社との関係も混乱していることがわかっている。事故の原因は、これらの関係会社が行う保守のまずさや投資不足にもあった。それにもかかわらず、このイギリスにおいてさえ、民営化支持の主張が全面的に疑問視されているわけではない。ブレア首相率いる労働党政権は依然として、衰退する一方のロンドンの地下鉄を一部民営化する計画を支持している。
戦後の労働党政権が国営化し、その後長年にわたり資金不足のまま放置されてきた鉄道を売却するという考えの裏には、利益を追求する民間企業であれば新たな投資を行い、より多くの顧客を引き付けられるよう鉄道システムを刷新してくれるだろうという期待がある。
しかし、現実に起きたことは簡単に予見できることだった。民間企業は短期的利益を追求し、四半期毎の株主への利益の還元こそが経営者の最優先事項だというのが現在の企業のコンセンサスであり、それを強いられている。長期的投資は何十年にもわたり利益の使用が限定される。国家のインフラ・プロジェクトに政府資金の投入が不可欠なのはこのためである。
イギリスの新しい鉄道運営会社がその経営チームとして選んだのは、エンジニアリング企業での経験が豊富で鉄道会社の根本的な問題を理解し、その修正能力を持つ本当に必要とされている人々ではなく、主に財務の専門家たちであった。
鉄道会社の成功を左右するのは、財務の専門家ではないという現実がここでは軽視された。陸軍や海軍を含め、国営企業にも優れた管理者がいる。また民間企業にもひどい管理者が存在し得る。その企業が国営か民営かは二の次の問題なのである。
もう1つ見過ごされている事実は、利益が要求されていないときに効率的に機能できない企業であれば、利益追求が目標に加わったときに改革は簡単になるどころかむしろ困難になるという点である。利益追求によって管理者はより必死に働くようになるかもしれないが、それによって経営がより明敏に、あるいは有能になることはないからである。
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世界的な携帯電話の動きから読み取るべき警告
『オブザーバー』紙、2001年4月22日
ウィル・ハットン
国有企業の詐欺や不正、壮大な誤算といった醜聞が溢れ、またその損害によって世界が景気後退に脅かされる中、複数の国有企業が何兆円も無駄にしたと聞けば、批判の嵐になることは想像に難くない。保守派メディアの攻撃的なコラムニストは、公的部門に関係するものすべてをこれまで以上に激しく批判し、さらなる民営化および規制緩和を訴えている。しかし、民間部門の世界で同じことが起きたとき、彼らは口をつぐむ。
世界の通信業界、とりわけブリティッシュ・テレコムで起こったことは、公的部門が悪で民間部門を善とする単純な主張を信じるすべての人々にとって有意義な教訓である。過去5年間、米国、ヨーロッパ、アジアの通信会社は、通信分野での新しい動きに出遅れてはならないと、7,000億ドル以上の負債を積み上げた。ドットコム企業のバブルが破裂し、今やこの業界は借金で麻痺状態にある。少なく見積もっても、7,000億ドルのうち1,000億ドルは返済不可能とされ、世界の金融制度の保全上の大きな脅威となっている。世界の通信業界は過去10週間で10万人の職が削減され、4月27日にはエリクソン社がさらに1万2,000人の従業員を削減すると発表したことからもわかるように、雇用削減は加速化している。
ガス、電気、水道網を重複して敷設する必要がないのと同様に、携帯電話や需要増が予測される広帯域網(ブロードバンド・ネットワーク)を同じところに複数建設する必要はまったくなかった。今後、吸収合併が多数行われ、最終的には国民に説明責任を持つ国有化された通信網ではなく、強力な民間部門所有の独占網に集約されることになるだろう。しかし、その移行期に起こる荒廃によって、企業は通信やIT投資を削減し、銀行は不良債権処理に追われ、景気後退は避けられないものとなるだろう。この種の資本主義ほど愚かなことはない。
企業の無責任さ貪欲さこそが、統制のない、規制緩和された市場がうまく機能しない理由である。通信会社は、第三世代携帯電話の無線周波スペクトルのライセンスを自社だけが取得できずに孤立状態になってはならないと、ライセンス取得に巨額の資金をつぎ込んだ。米国の大手電話会社がそれぞれ、一般の消費財を扱っているかのように、国内外で競合する電話網を重複して構築しようとし、収益率を半減させ、同時に負債を4倍に押し上げたのは実にばかげていた。また、部分的に民営化されたドイツおよびフランスの電話会社、さらにイギリスのブリティッシュ・テレコムが、情報通信革命であらゆることを同時に行おうとしたのも不合理であった。この3社は現在、それぞれ莫大な負債を抱えている。
しかし、こうした通信会社、さらには同じく負債を抱える米国やアジアの通信会社が支出を削減しているため、通信機器メーカーも連鎖反応を起こしている。米国では、シスコ、ノーテル、ルーセントがその影響を受けている。ルーセント側は否定したものの、倒産寸前だという推測もある。こうした失敗が起きるのも、次世代商品で継続的な消費者支出を刺激して負債から抜け出そうと、通信機器メーカーが技術革新ペースの維持に必死になるためである。4月に行われた記者会見で、ブリティッシュ・テレコムは、インターネットに接続できる受話器の新製品デモを行ったが失敗した。これはあまりに性急に開発された機器が予定通りに機能しないことを象徴した例である。さらに、売上も減少している。
これらはすべてドットコム・バブルの崩壊に関係している。というのも、ドットコム企業が新しいネットワークの使用量を急激に押し上げると見込んでいたからである。ドットコム企業の失敗で、ネットワーク構築費の経済性が成り立たなくなる可能性が高くなった。通信会社のCEOがばかげた拡張計画で法外なストックオプションを手にしたいと考えているとしたら、一般投資家をだまして詐欺まがいのことを行う米国やイギリスの投資金融業界と同じである。過去2年間で、1,262社のハイテク企業がニューヨーク株式市場に上場した。うち152社の株は、現在、1ドル未満で取引され、残りのほとんどの企業の株価は3分の2以上下落している。しかしそんなことは、手数料として両社で6億ドル以上を稼いだメリルリンチやゴールドマン・サックスの知ったことではない。これは一般貯蓄家の年金基金から、過剰な報酬を受ける銀行家への、前例のない規模での富の移動である。
しかし、これですべてではない。いわゆる企業家が、ブームに乗じて儲けようと、また自社の弱点を隠そうと、真実を作り出す能力をさらに高めていることが明らかになる中、詐欺に関する懸念すべき報道が増加している。米国では、音声認識のメーカーであるレモー&ホスピーは、粉飾決算のかどで調べを受けている。またルーセントは、すでに行き詰まった詐欺師と関係があった。またドイツ・テレコムでさえ、資産価値の50%水増し報告について調べを受けている。イギリスでは、携帯電話の売上が約25%、実際よりも高く発表されていたことが明らかになりつつある。
これらすべてを擁護しようとする人々は、より重要なのは技術革新であり、資本主義はその末端である程度の詐欺が伴うにしても、社会主義の代替案よりはましだと主張するだろう。しかし、こうした大規模な無駄、重複、詐欺、貪欲さに反対することは、旧ソ連やイギリスの国有産業を支持するのと同じではない。
むしろここでいいたいのは、政府が市場の限界をきちんと認識すべきだという点にある。電話網は当然の独占であり、公共財である。その目標は、手ごろな価格ですべての人にアクセスを提供することでなければならない。ネットワークを重複させることは経済的にばかげている。すべてが網羅され、1種類のネットワーク用マスト(支柱)で構築された1つの携帯電話ネットワークの方が、潜在的な放射能危機が増す多数のマストで構築された、4種類の不完全なネットワークよりも良いはずだ。
同様に、独占ネットワークを民営化しても、民間の所有者に資金管理を手渡すだけであり、世界の動きからわかるように、愚かな買収のために負債の山が築かれるのがせいぜいである。問題は、今や全能の米国が提唱する自由市場のイデオロギーがその逆を示していることであり、ネットワークは国が所有し、国が建設する方が理にかなっているし、経済的にも効率的だと誰も提案しないことにある。レミング(タビネズミ)の集団自殺のように、米国にならってイギリスも同様の失敗を犯した。しかし、なおも政府が信じていることは間違っていると「裸の王様」に進言する者はいないのである。