No.491 世界から遠ざかる米国

米国がついにアフガンへの空爆を開始しました。米国がなぜ今回同時テロを受けたのか、その1つには、米国が他の国には国際基準や国際法を押し付けておきながら、自国は例外であり、それを守らないという態度をとってきたことにあるのではないかと私は分析します。以下、『シカゴ・トリビューン』紙より、同時テロ直前までにブッシュ政権が行った政策決定の分析です。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

『シカゴ・トリビューン』紙 2001年8月12日
アデル・シモンズ

 最近では友好国の首都においてさえ、米国を「ならず者国家」と呼ぶ声をよく耳にする。こうした見方が生まれたのは、過去3代の米国大統領によるところが大きい。国際法を破ってニカラグアを攻撃、パナマを侵攻、リビヤ、スーダンを爆撃など、他にもたくさんある。

 しかし、こうした評判を不動にしたのはブッシュ政権である。米国は特別だから国際基準にはあてはまらない、米国は自国に当てはまる規則にだけ従うが、他の国はすべての規則に従うべきだ、といった主張は、まさにガキ大将そのものである。ブッシュ大統領は就任後わずか200日間の一連の政策決定で、他の大統領とは一線を画した。例えば2001年3月、京都議定書から離脱した。この議定書は当初、米国を含む全世界の国々によって署名され、地球温暖化の原因と考えられる二酸化炭素などの強制削減に合意していた。

 米国は以前、議定書の特定条項に反対していたものの、妥協点は見えつつあった。それにもかかわらず、ブッシュ大統領はこの春、米国経済への負担があまりに大きいとの理由から拒否し、合意はあり得ないと宣言した。7月の終わりにボンで、178ヵ国が合意する中、米国の代表は退場させられた。

 それから間もなくブッシュ政権は、1975年の「生物兵器禁止条約」履行のための検証議定書草案からもうまく離脱した。ブッシュ政権がそれに反対したのは、施設の査察により、米国企業の機密漏洩の可能性があると、バイオ技術および薬品業界が主張したためである。(同じ分野に先端企業を持つ他の諸国には、これを恐れるところはなかった。)

 210ページから成る「生物兵器禁止条約」検証議定書草案は、過去6年間のたゆまぬ交渉により生まれたものであり、ジュネーブに集まった56ヵ国のうち反対したのは米国だけであった。加えて参加者が驚いたのは、その反対理由であった。なぜなら米国は長年にわたり、施設の査察の必要性を説いてきたからである。

 さらに米議会は上院に、包括的核実験禁止条約も批准させなかった。この秋には、核実験禁止条約制定を促進する戦略策定のための国連会議が開催されるが、米国は代表さえ送らないであろう。シャリカシュビリ元統合参謀本部議長は、核実験を行わずに政府が核弾頭の安全性を維持するための方法を提案し、検証許可手順さえ示唆した。

 しかし、ブッシュ政権はこれにまったく関心を示していない。地雷禁止条約についても同じである。かつての戦地に残されたままの地雷によって多くの人が手足や命を失っていることから、140ヵ国以上がこの条約を批准した。

 ほぼ半世紀にわたり、米国は率先して、戦争犯罪、大量虐殺、非人道的犯罪を糾弾してきた。しかし、今の米国は戦争犯罪者の糾弾を好むものの、その罪人が米国人ではないことを条件としている。ブッシュは政権に就く前から、国際刑事裁判所設立につながった1998年のローマ規程の上院での批准に反対した。

 国際刑事裁判所の規則から米国を除外させることに失敗すると、米下院は5月に、米軍人保護法を可決した。この法律の主な目的は、米兵が国際組織の前で裁かれることがないようにすることである。

 さらに、米国はこの法律によって、戦争犯罪者の訴追を目的とした、いかなる国際組織にも参加し得なくなる。これが上院を通過すれば、米国は、どんな方法においても国際刑事裁判所に協力することが禁止される。

【 死刑 】

 米国の死刑を好む傾向も、他の同盟国と一線を画する点であり、国際基準や国際条約をあえて無視する姿勢の表れでもある。子供の生活、自由、教育、健康の権利を保証するための「子供の権利条約」の批准を拒否したのは、ソマリアと米国だけである。

 米国がこの条約に反対するのは、少年犯罪者の死刑撲滅への努力が署名国に期待されるからである。

 同様に、外国人が逮捕された場合、領事館に連絡を取る権利をすぐに知らせる、とする「領事関係に関するウィーン条約」(通称:ウィーン領事関係条約)を破り続けているため、そのことが諸外国の首都でニュースに取り上げられている。もちろん米国人は海外でこの権利を主張するが、相互に守る必要はないと考えている。過去8年間に、この条約にある権利を与えられることなく、15人の外国人が米国で処刑された。

 メキシコ国民のジェラード・ヴァルディーズが、裁判所指名の弁護士の未熟さゆえ死刑囚棟に入れられることになったことに対してメキシコ大統領フォックスが7月、オクラホマのキーティング州知事に寛大な措置を求めたが、受け入れられなかった。

 1990年にヴァルディーズが逮捕されてから、2001年の死刑執行日の2ヵ月前まで、メキシコは彼の逮捕についてまったく知らされなかった。メキシコ政府は、死刑裁判の経験豊富な弁護士を雇い、たくさんの証拠をすぐさま集めさせた結果、オクラホマ州の「恩赦及び仮釈放」評議会は「寛大な措置」を求めるよう勧告した。しかし、キーティング州知事は、死刑執行を実施すると発表し、それは8月30日に予定されている。国民1人の逮捕について領事に報告することも米国の国益を脅かすことになるのである。

【 例外政策 】

 米議会によれば、国際基準や選択肢に関心を示さないのは、条約に反対、あるいは孤立主義を望む政府だからではないという。むしろ例外政策を反映してのことである。ブッシュ政権は、米国は世界の超大国であるために、米国にはより多くのことが要求され、米国と他の諸国の立場は同じではない、したがって、米国は同じ規則に縛られるべきではないと考えている。

 国際条約や基準を軽く扱うことは、極めて近視眼的である。世界が作る条約や機関によって、我々の日常生活の最も基本的なことが遂行されている。例えば、海外郵便、船舶や飛行機の安全な運行、天然痘の絶滅などはすべて国際条約によって成し遂げられたことである。

【 考えられる影響 】

 米国はこうした行動から交渉力を失うことになってもよいのだろうか。

 メキシコ人の人権を無視し死刑にしておきながら、メキシコで行われる法手続きを取らない処刑、拷問、刑務所の状況に反対を唱えることができるだろうか。自国に都合のよい時だけ国際条約に従いながら、中国に人権政策を改革するよう要求することができるだろうか。

 「子供の権利条約」を批准していない国は世界で米国を含む2ヵ国しかないというのに、子供の問題に関する発言にいかに道義的力を持たせることができるだろう。自国が査察を受け入れないにもかかわらず、イラクに対して査察を要求することがどうしてできるだろう。

 米国が国際基準に従おうとせず、自分たちの決めたことを無視し、無効にしようとすれば、他国は米国の行動を模倣するのではないだろうか。

 こうした悪い手本を世界に示していることは最悪である。イラクのサダム・フセインが国際条約を守らないのは、米国を真似ているからである。

 米国はかつて、法の支配に関して模範と考えられていた。しかし、今や「ならず者国家」は米国を見てほっとしているに違いない。