No.519 ベネズエラは次のチリとなるか

 南米ベネズエラで、国軍首脳による事実上のクーデターで身柄を拘束されていたウゴ・チャベス大統領は4月14日未明、拘束先から首都カラカスの大統領官邸に戻り、大統領への「復帰」を宣言しました。クーデターは失敗した形となり2日間続いた政変はひとまず収束する見通しとなりました。今回のOWではこれを予測するかのように書かれた、3月11日付のジョン・ピルガーの記事をお送りします。

 4月11日にチャベス政権が倒された時点で、中南米19ヵ国からなるリオ・グループがこれを非難したのとは対照的に、米国政府は「チャベス政権が促した行動が今回の危機を引き起こしたのだ」と同政権を批判し、クーデターを批判しませんでした。そして今回失敗した政権転覆が再び行われることがないことを祈りつつ、今後の情勢と日本の大手メディアの報道を注意深く見守っていただきたいと思います。皆様からのご意見をお待ちしております。

ベネズエラは次のチリとなるか

ジョン・ピルガー
(ニューステーツマン、2002年3月11日)

 チリの改革政権であったサルバドル・アジェンデ大統領が軍のクーデターによって失脚してから30年後、同じことがベネズエラで計画されている。これはイギリスではほとんど報じられてはいない。それどころか、ウゴ・チャベス政権の業績はイギリスではほとんど知られていない。彼は1998年に大統領選挙で当選し、2000年には過去40年間における最大多数の支持を得て再選された。

 チャベス大統領はベネズエラ独立の志士シモン・ボリバルにちなんでボルバリズムと呼ばれる改革に着手した。それは主に石油からもたらされたベネズエラの大きな富を、国民の8割にあたる貧困層に移すことであった。昨年11月にはベネズエラ議会で49の法律が採択され、チャベスは真剣に土地改革に着手し、原住民や女性の権利、無料の医療制度、大学までの教育の提供を約束した。そのチャベスは今、アジェンデなら見覚えがあるだろう敵と直面している。キリスト教社会党と民主行動党という腐敗した二大政党支配下にあった1950年代以降権力を掌握した「一握りのグループ」が、改革派の大統領に宣戦布告を行ったからだ。それを裏で支援したのは、右派が支配するカトリック教会と労働組合、そしてメディアである。遊休地を国家が収用し再分配するというささやかな土地改革、石油生産の制限、そして国営石油企業の民営化を憲法上禁じる法律の強化に、彼らが怒ったのである。

 ベネズエラ国内のチャベスの敵と緊密に結びついているのがブッシュ政権である。チャベスはワシントンを平然と無視し、キューバに石油を販売するとともに、米国が「プラン・コロンビア」として、コロンビアの麻薬組織撲滅のためにコロンビア隣国の残忍な政権を支援しようと、米軍用機がベネズエラの上空を飛ぶことを拒否した。そしてさらにチャベス大統領は、9月11日の攻撃は非難しながらも、米国が「テロに対してテロをもって戦う」権利があるのかと問いかけたのである。

 米国はこれを許さなかった。昨年11月5日~7日、国務省、ペンタゴン、国家安全保障局は2日間の会議を開き「ベネズエラ問題」を話し合った。それ以来国務省はチャベス政権をコロンビア、ボリビア、エクアドルのテロを支援しているとして非難している。しかしベネズエラは、米国が資金提供をしてこれら3ヵ国で行われているテロリズムに反対しているのである。

 これによって「ベネズエラは外交的に孤立する」と米国はいう。コリン・パウエルはチャベスに「民主主義とは何か」その考えを改めるよう警告した。どこかで聞いたことのある出来事が起きつつある。IMFはベネズエラの「移行期の政府」を支援すると述べた。カラカス新聞、エル・ナショナルは、チャベスを大統領の座から引きずりおろす者にIMFは喜んで資金援助すると掲載した。1970年代初めにチリでアジェンデ政権の転覆を研究していたニューヨーク州立大学のジェームス・ペトラス教授は、今IMFと金融機関は同じような危機を捏造しているという。今ベネズエラで使われる戦術は、チリで使われたものと酷似している。大混乱を巻き起こすために国民が利用され、チャベスが独裁者であるかのような誤った構図が作られ、そして軍が「国家のため」にクーデターを扇動する。

 落下傘部隊の隊員だったチャベスには、まだ軍の後ろ盾がある(CIAがアジェンデの忠実な軍事士官を殺害してピノチェトに道を開くまでのアジェンデのように)。しかし何人かの上級士官はチャベスを暴君と呼び、辞任を求めている。これをどう評価してよいかは容易ではない。チリの右派新聞社を思わせる役割を果たしているのが、うわさを売る敵陣のカラカス新聞で、チャベスの健全性を疑問視する、悪意ある記事を書いている。

 もっとも心配な脅威は、反動的な労働組合であるベネズエラ労働者総連盟(CTV)である。これを率いるのは反チャベス派である民主行動党の利権屋、カルロス・オルテガである。CTVは労働組合に不忠実で破壊的な組合員リストを持っていて雇用者に渡している。カラカスの記者、ディック・ニコラスによると、チャベスの最大の失敗は国民投票で国民の大多数がCTVの改革を彼に要求した後、労働組合の古い見張番に抵抗して動けなかったことである。

 ウゴ・チャベスの罪とは、選挙公約を守るために着手し、国家の富を再分配し、公共の慈善の原則よりも個人財産の原則を軽視したことだとされている。彼は敵の力を甘く見ており、まだその逆襲は想像の粋を出ないものの、絶望的だという暗示もある。

 彼は8000ものボルバリアン・サークルと呼ばれるものを作り、全国のコミュニティや仕事場に配置した。これはスペインとの戦いで勝利したシモン・ボリバルの革命の伝統に基づいて国民の意識を高め、コミュニティに個人参加組織の形式で「健康、教育、文化、スポーツ、公共サービス、住宅と環境保全、天然資源とベネズエラの歴史的遺産のプロジェクト」をすすめるものである。これに緊密に結びついているのはチャベス大統領を支援する統一/強化部隊という人気のある司令部だ。

 だが南米の民族闘争の歴史を通していわれている戦いの言葉がある。また南米の国で、その国の国民に貧困と外国支配、すなわち「模範の脅威」に代わるものを提供すれば、大きな不安定と恐怖の時代が起こるというものである。ベネズエラが成し遂げたことは、明らかに、過激な夢や変革はもはや起きないという者への反応である。すべての民主国家がチャベスを支援すべきである。チリの二の舞になるべきではない。