今回は日本経済が抱える、デフレと使い道のない預金という二つの問題に対する解決策を提案します。
解決策は税制改革だ
日本経済はいま、二つの問題を抱えている。一つはよく話題になるデフレで、もう一つはめったにいわれないが、銀行に預けている預金が使われずに腐っていくという事実だ。デフレは物価が広範囲にわたって持続的に下落することで、実際、消費者物価と卸売物価指数は4年連続下落している。
消費需要以上に物が製造され、製品やサービスの供給が需要を上回れば、価格の下落は当然だ。デフレと、預金が使われずに腐っていく原因とその解決策は、二つの簡単な事実を認識すれば簡単に見つかる。
【 「蓄え」と「無駄」 】
その事実とは、一つはその国で作られる製品や提供されるサービスの総額は、その国の国民総生産に等しいということだ。すべての製品やサービスは、それを生み出すのに携わった人へ賃金や賃貸料、金利といった報酬として支払われることになる。
二つ目の事実は、預金とは、生産物のうち消費されなかったものであり、それはまた「無駄なもの」だといえる。所得の一部を将来のためによけておくことを「蓄え」という。しかし、消費されない所得の一部を捨てたり、とばくで負けてしまえば、それは後で使うことができないので「蓄え」ではなく「無駄」である。
「蓄え」だと思っている預金を、銀行が株やデリバティブなどで失えば「不良債権」、すなわち無駄となる。また海外に貸し出したとしても、国内消費に使われないため、「無駄」になることに変わりはない。
では解決策は何か。一つは生産を減らすことである。これ以上消費も輸出も増やすことができず、また預金の生産的な投資先もないのならば、日本は生産を減らすしかない。
生産に携わる時間を減らし、精神や肉体の向上のために使う。子育てや介護、または家族や友人と過ごす時間を増やす。やりたかった研究や学問に充てるのもよいだろう。生産を減らせばエネルギー消費も減り、環境保全にも役立つだろう。
【 昭和の税制に戻せ 】
しかし、生産を減らすという単純な方法が、実際にはなかなか実行できない。なぜか。それはもはや日本が、単に「ニーズ」を満たすための生産ではなく、「利益」を出すための生産を行っているからである。
昭和時代、松下幸之助のような日本の経営者は、社会の目的はそこに住む人々の幸福だといった。そして企業の役割は製品やサービス、そして雇用を提供して国民の幸福に貢献することであり、企業はその存続や投資のために必要以上の利益を追い求めるべきではない、と。
聖徳太子の十七条憲法の時代から1990年ごろまで、日本は「和」の社会だった。しかし、社会のニーズよりも自分の利益を優先すれば「和」は壊れる。なぜなら利益は相対的な意味しかもたないからだ。
もし私が年収100万円でも他の人が10万円なら、10倍の購買力がある私は皆よりも金持ちだが、年収が1,000万円になっても、周りが1億円に増えれば貧しく感じるという具合だ。
利益追求にふけっている状況から、生産を消費レベルまで押し下げるのは難しいことである。「和」を大切にする昔の価値観を取り戻すことができれば一番よいが、人の価値観を変えるには少なくとも二世代はかかるだろう。今の日本にそんなに長い間問題を放置しておく余裕はない。そこで私は税制を昭和時代に戻すことを提案したい。
まず消費税は撤廃する。そして個人所得税の累進税率を昭和のレベルまで上げる。巨額の所得を得ても税金で持っていかれるとなれば、過剰な富の追求は弱まるだろう。また法人税も同様に当時の税率に上げる。いくら利益を上げても税金でとられると経営者が理解すれば、利益追求は弱まるだろう。また相続税を下げる動きも止める。
【 不安が預金させる 】
デフレと使い道のない預金という問題を解決するもう一つの方法は、こうして増えた税収で社会福祉を充実させ、人々の不安を取り除くことである。日本国民の中には、たとえ所得がそれほど高くなくても、将来に対する不安から多くを預金に回す人も多い。住宅や子供の教育費、老後や失業時の備え、病気になったときの医療費として。
その理由の一つは、誰もが安心して幸福な生活を送りたいと願っているにもかかわらず、政府がそれらを保証してくれないと人々が思っているためである。だから不安になればなるほど、人々は消費を控え、預金をする。そしてさらにデフレが進むという悪循環になる。
ならば余分な所得を税として徴収し、政府が国民の福祉、つまり住宅や医療、教育などの充実に充てれば、人々が将来に抱く不安も軽減され、預金を腐らせる前に消費することが可能になる。
米国と日本の大きな違いは、日本には米国のように大きな貧富の差がないことだ。米国流の価値観を取り入れれば取り入れるほど、いずれ米国のように雲の上で暮らす一部の人と貧しい庶民という国になっていく。
事実、昭和時代から平成に移り、その傾向は強まっている。昭和時代の税制に戻して、日本を繁栄に導いたその道へ、今こそ戻るべきではないだろうか。