No.528 偽りの高齢化問題

今回は、少子・高齢化問題、年金危機といった、最近よく目にする報道について、本当にこれが日本にとって「問題」なのか、「危機」なのか、という観点から論じてみました。 No.330 「財政破綻は高齢化が原因ではない」も合わせてお読みください。

偽りの高齢化問題

最近、少子・高齢化問題、年金危機といった報道をよく目にする。そこで政府発表のさまざまな統計を調べてみた。確かに、労働年齢といわれる15歳から64歳までの人口の割合は1989年から2000年の間、全体の68%でほぼ一定だが、65歳以上の割合は同期間、10%から17%に増えている。
しかし、それだけで高齢化が問題だといえるだろうか。なぜなら、労働者の生産性をとらえるのに私が最適だと考える「国民一人当たりのGDP」を見ると、この期間に生産性は二倍に増えているからである。

増加する生産性

将来予測はどうか。00年から20年に、労働年齢人口は全体の68%から60%に減少するという予測に対し、高齢者の総人口比は17%から27%に増加するという。しかし、今後も技術や機械の進歩によって過去半世紀の発展と同じ速度で生産性が向上し続ければ、生産性はその間に三倍になるだろう。
そうなれば、労働者の負担は増えるどころか減少するはずである。問題は、その増えた生産性を高齢で働けなくなった人々が安心して老後を過ごせるように使おうという気持ちがあるかどうかだと思う。
高齢化による労働者の負担増を上回る生産性の向上が、技術進歩によって将来も続くという予測が楽観的すぎるというのなら、飛躍的に発展してきた技術進歩がこれからは衰えるというのであろうか。私にはもちろん考えられない。それゆえ、少子・高齢化によって年金危機が起きるという主張は、もう一度よく精査してみる必要があると思うのである。
日本経済が現在直面している問題は、技術進歩によって生産性が格段に向上し、消費を大幅に上回る生産が可能になった結果である。過剰な製品やサービスがデフレを引き起こし、失業や倒産をもたらした。増加する自殺や犯罪、麻薬その他の社会問題は経済問題が原因だといっても過言ではない。
日本の労働年齢人口が総人口に占める割合はこれからも減少し続けるだろう。しかし、これは高齢化や少子化のためだけではない。技術が人間に取って代わり、生産性が向上した結果、仕事自体も減少しているからである。

高齢化は「恵み」

こうなると、選択肢は二つ考えられる。人間の代わりに機械が作った富の大部分をその機械の所有者に独り占めさせるか、それとも機械がもたらした富を税金として徴収し、それを一般国民、すなわち労働者やその子供、両親に分配するかの二つである。今の日本はひたすら前者の選択肢を進んでいる。
「年金制度の危機」を声高に叫ぶ人たちは、機械がもたらした富をできるだけ機械の所有者の取り分にしておきたい人々なのである。そして富の創造に携わった多くの労働者の取り分をさらに減らそうとしている。その証拠に、高額所得税や法人税、相続税などの税率はここ10年で驚くほど引き下げられた。
その一方で、消費税の増税や課税最低額の引き上げ、年金保険料を引き上げて支給額を引き下げるなど、一般国民に対してさまざまな福祉の切り捨てを行っている。それを推し進めるために、富裕層はその資金力にものを言わせ、メディアやエコノミストを巧みに利用して世論を形成し、また政治家に選挙資金を提供してきた。
高齢化は災いではなく、恵みである。日本は人口密度が高く、米国やG7諸国平均の13倍、OECD諸国の11倍である。人口が減れば住環境もずっと改善する。国土が狭いとはいえ、1872年には他国と比べわずか3.7倍だった人口密度が、ここまで増えたのは政府の政策である。明治、昭和初期の軍事政権のスローガンは「産めよ殖やせよ」で、これは兵士や武器工場で働く労働者を数多く必要としたためだ。

国民の利益保護を

平成の大富豪たちは、永田町や霞ケ関の部下を使って再び日本国民にこのスローガンを使い出した。彼らに必要なのは兵士ではなく、生産したものを買ってくれる消費者である。
しかし、繰り返すが高齢化は災いではなく、恵みである。高齢者は雇用市場で若者と職を奪い合うこともなく、消費するだけであって、現在の消費不足によるデフレも失業問題も、高齢化がそれに拍車をかけることはないのである。
平成時代になって、政府は福祉の切り捨てや公的債務の増加、失業者の増加をもたらす政策を数多くとってきた。そのため将来に不安を抱く人々はますます消費を控え、貯蓄に励むようになっている。高額所得者や巨額の利益を上げている企業に対して増税し、それを社会のセーフティネット構築に使い、国民が安心して消費できるようになれば、経済問題は解決していく。
国民が信頼できる正直な政府が、少数の富裕者ではなく大多数の国民の利益を保護する政策をとれば、消費も増えて経済も循環する。正直な政府であれば年金危機が起きることはない。日本を苦しめているのは、スポンサーである大企業のための政策を行う、腐った政治家たちなのである。