No.536 ばくち型年金「401k」

今週は、ばくち型年金「401k」の実態について、その発祥の地、米国の例をもとに説明したいと思います。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

ばくち型年金「401k」

 

昨年十月、確定拠出年金法が施行され、大企業の中には従来の確定給付型から確定拠出型に移行したところもある。これは加入者自身が掛け金の運用方法を選び、運用実績によって受け取る退職金や年金の金額が変わるというバクチ型年金である。このバクチ型年金の発祥の地はもちろん米国で、日本でも米国にならい「日本版401k」と呼ばれている。

給付額保証されず

二十年以上前に、個人貯蓄を奨励する目的で導入された米国の401kは、長引く景気低迷を打開するために所得控除という税制面の恩恵もつけられていた。日本版401kも掛け金は非課税であり、資産管理と運用は“自己責任”、転職先にも持ち運べる点など、ほとんどアメリカの制度と同じである。
401kでは「確定」しているのは掛け金だけで給付額は保証されていない。確定給付型という従来の年金との大きな違いはそこにある。401kでは株の暴落で長年積み立ててきたお金が大幅に減る可能性がある。年金制度という老後の生活保障の大切な仕組みが、大きなギャンブルになったのである。貯蓄率の低い米国でも、401kはすぐには普及しなかった。株価の高騰とともにギャンブル熱がおあられ、はじめて急増したという。
この五月、アメリカの非営利団体エコノミック・ポリシー・インスティテュートが、ニューヨーク大学のエドワード・ウルフ教授とともに米国民の退職年金についてまとめた実態調査を発表した。
退職を控えた四十七-六十四歳の年齢層が世帯主の世帯でみると、退職後の収入が退職前の半分にも満たないと予想される世帯が一九八九年の29・9%から、九八年には42・5%に増加した。さらに18・5%の世帯が退職後は貧困線以下の収入になると見込まれる。また「中間値」の世帯でみると、退職資金は八三年から九八年に11%も減少した。

勝者は一部富裕層

このバクチ年金制度の勝者は、巨額の確定拠出金を投じることができるごく一部の富裕層だけで、八三年から退職資金が増加したのは百万ドル(約一億二千万円)以上の正味資産を持つ人々だけだったという。
そしてそれ以外の世帯すべてにおいて退職資金が減少しているにもかかわらず、退職資金の「平均」だけは上昇しているということは、米国内における貧富の格差がこれまで以上に広がっていることを示している。この調査が行われた九八年より米国の株価が下落していることを考えると、退職資金の実態はさらに悪化しているはずである。
先月のニューヨークタイムズには、そんな退職者を取材した記事が掲載されていた。ニューヨークダウが一万ドルを超えた二〇〇〇年一月に、退職資金をすべて株式市場につぎ込み引退した夫婦は、その75%を失ったため、家を担保に入れて再び働き始めたという。
この記事によれば、過去数年間に五十五-六十四歳の年齢層はアメリカ人の平均に比べ約二倍の株式投資を行った。投資額が多い分、好景気の時は多くの収益を手にしたものの、暴落のときの彼らの落ち込みは他の年齢層よりもずっと大きい。特に投資利得を手にし、引退近くなったらよりリスクの少ない投資に移行するという基本原則を無視した人はどうすることもできない。
六十八歳のある人は九〇年代に自宅と別荘を売り払い、約百万ドルを株式市場に投資、ハイテク株の急騰で一時は資産も増えた。しかし、暴落によって四百五十万ドルを失っても手を引けず、株券が紙切れになってようやくホームレスになることを恐れ働き始めたという。

日本も二極化社会へ

米国の退職者協会は米労働省の調べとして、五十五歳以上で、二〇〇一年六月から二〇〇二年六月に労働人口に加わった人の数は千六百万人に達したと発表したが、これは過去数年間に比べ際立って高いという。退職資金がない、または足りなければ働くしかないのである。
米国政府を動かしているのは権力とお金を持つ一部の富裕層である。彼らと大企業に選挙資金を提供されているために、政府は彼らの望む政策をとる。例えば、大学への政府援助を打ち切らせる。米国のいわゆる有名大学はますます富裕層の寄付に頼るようになり、富裕層の利益になる教義を説くようになる。
政治にも教育にも、お金が大きな影響力を及ぼしているのである。日本が米国を崇拝し、そのやり方を模倣すれば、日本も富裕層がそれ以外の人々を犠牲にする二極化社会になっていくことは間違いない。そしてその一つの例が、従来の確定給付型の年金を自己責任による確定拠出型の、401kのような年金制度にすることなのである。
日本が社会保障や年金制度に米国の政策や考えを取り入れるようになれば、より多くの日本人が将来、貧しい惨めな老後を迎えることになるのは避けられないだろう。