No.547 聞かれぬ戦争反対

1904年に始まった日露戦争から、二度の世界大戦、数々の地域紛争や民族紛争と、20世紀はまさに戦争の世紀でした。そして21世紀、何も変わらないまま、戦火は続いています。たとえそれが3000億ドルを越す軍事費を使うための米国の思惑であったとしても、日本がその片棒をかつぐことがないようにと、心から願うばかりです。

聞かれぬ戦争反対

 確たる証拠もないまま、九月十一日の事件の犯人だとして米国はアルカイダを壊滅すべくアフガニスタンを攻撃し、親米政権を樹立した。

 米メディア報道によれば、米首都ワシントン近郊で起きている無差別狙撃事件について、米情報機関の高官らがアルカイダの仕業である可能性を「五分五分と見ている」と語ったというし、またインドネシア・バリ島のテロ事件に関与した疑いが持たれているイスラム過激派組織のアブバカル・バシル師は、CIAの資料によればアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン氏の援助で爆弾を購入した、という報道もある。

米の論調ばかりが…
 
 米国によれば、地球のあちこちでアルカイダという悪党集団が悪事を働き、それを正義の味方である米国が戦争によって壊滅させようという状況のようだ。

 米国の敵はアルカイダだけではない。悪の枢軸として名指しされたイラクと北朝鮮とイラン。なかでもイラクのフセイン政権の危険性を主張し、生物化学兵器で対米攻撃を行う可能性があると言明、そのためにも証拠が出てくるまで待つことはできないがゆえに先制攻撃戦略をとる必要があるという。

 人口約二千四百万人、その半分以上が反フセイン派のクルド人やシーア派であるにもかかわらず、そして九一年の湾岸戦争以降十二年間におよぶ米国主導の対イラク経済制裁と米英軍による散発的な空爆によって、すでに百万人ともいわれる戦争と病気、飢餓による死者、その多くが子供というイラクの現実にもかかわらず、人口二億八千万人を超す米国が「自衛」ではなく数十万の地上軍と、場合によっては小型戦術核兵器を使用して先制攻撃を行うと公言していることはどう考えても正気ではない。

 さらにここにきて、米朝核合意後も核開発を継続していた北朝鮮について、米高官はイラクよりずっと恐ろしい軍事力を持っており、米国が軍事力を行使しなければならない場合もあり得るとの考えを示している。

 広島と長崎に米国が原爆を投下して戦争が終結してから五十七年がたった。その戦争がどのように始まり、日本国民にどのような結果をもたらしたか、覚えている人々はまだ多くいるはずだ。その日本で、なぜこうも簡単に、戦争を始めようとする米国側の論調ばかりが見出しを飾り、それに対する反論が聞かれないのであろうか。

「でっち上げ」事件
 
 私は平和主義者ではない。ただ心から、戦争に反対なだけである。平和主義者と戦争反対者は同じではない。なぜなら、もし純粋に自分の国を守るための戦争であれば、私は支持するであろうと思うからだ。

 しかし私が生きている間に米国が行った戦争で、真に自国を守るために行った戦争を、私は知らない。第二次世界大戦もそうだ。確かに日本軍は真珠湾を攻撃した。しかしそれ以前に、日本が絶望から米国を攻撃する以外に道がなくなるようにルーズベルト大統領が仕向けたのもまた事実なのである。

 ベトナム戦争では多くの若者が死んだ。米国がその戦争に参戦しなければ、死ぬ必要のなかった若者たちだ。一九六四年、米国防総省は米駆逐艦が北ベトナム沖のトンキン湾で、国籍不明の魚雷艇から攻撃を受けたので応戦したと発表し、その後それは北ベトナム海軍のものと断定された。

 一方、北ベトナム側は、北ベトナム領海を侵した米艦を北ベトナム巡視艇が追い出したにすぎないと反論した。その後再び二度目のトンキン湾事件が起こり、これを理由に米国は「報復」と称して北ベトナム基地に爆撃を実施、米上下両院はトンキン湾決議を可決。

 こうして米国は十年以上に及ぶベトナム戦争に突入していった。後に、二度目のトンキン湾事件は米国による「でっち上げ」事件であったことが明らかになっている。ベトナム戦争を始めるために米国政府がついたうそだったのである。

彼らは消耗品か
 
 現在、米国の軍隊はすべて志願兵からなる。米国の権力者や影響力のある人物の娘や息子たちが志願することはもちろんなく、米兵の多くはマイノリティーか中流以下の階層の若者たちだ。米国のエリート層からみれば、彼らは消耗品にすぎないのかもしれない。

 米国はもはやうそだらけの国になってしまった。企業のCEOもジャーナリストも、政治家も、うそをついて戦争を始め、米国の若者をそして他の国の人々を死に至らしめている。

 米国が仕掛けた愚かな戦争で何百万人もの人々を失った国の国民なら分かっている。戦争を終わらせるための戦争や、民主主義のための戦争など、ありえないということを。なぜなら戦争は、平和や民主主義とは何の関係もないからだ。

 米国がイラクを攻撃すれば、日本は多額の資金協力をし、軍需特需で米国経済は押し上げられるかもしれない。そして次に米国は北朝鮮を攻撃するかもしれない。そのときまた日本は資金を提供するのだろうか。戦争の火の粉が自分の身にふりかかって初めて、日本で反戦の声が大きくなるのであろうか。

 第二次大戦の目標の一つが日本に親米政権を樹立することであったなら、米国はその目標を完ぺきに果たしたといえるだろう