日本政府が出している月例経済報告。竹中平蔵経済財政・金融担当相が18日に発表した報告では基調判断を2ヶ月連続で下方修正した。日本政府が取っている政策はデフレ解消にむけたものでないのだから、それも当然である。税制においては、あるべき税制として最低税率のブラケット幅を縮小することをねらいつつ、相続税・贈与税については最高税率の引下げを求めている。富める者がますます富を貯め込む、貧富の差の激しい社会を日本政府は作ろうとしているのである。
デフレの要因と解決策
失業率が再び6%に悪化し、世界第二位の米航空会社が破たんするなど厳しい状況にある米国で、ブッシュ大統領は財務長官を更迭し、米大手鉄道会社のCEO、ジョン・スノー氏を指名した。日本の「天下り」はよく非難の的になるが、この米国の人事こそまさに米国式天下り、「回転ドア」である。
天下りは官僚から民間への一方通行だが、回転ドアは双方向でスノー氏もフォード政権時代に運輸省次官補を務め、今回再びウォール街からワシントンへ戻ってきて米経済の再生に当たる、というものだ。しかし元長官のオニール氏も米アルミ最大手のアルコア社のCEOであったし、米国は基本的には何も変わらないだろう。
個人消費には限界
翻って日本では、十月の完全失業率が過去最悪と並ぶ5・5%を記録し、働く人の四人に一人が「今後一年以内に失業するのではないか」という不安を抱えているという調査結果を連合のシンクタンクが発表した。現在与党政府が取っている政策をみれば無理もない。
日本が抱える経済問題はデフレ、失業、国の借金、銀行の不良債権の四つである。デフレは供給される製品やサービスに需要が満たないために起こる。
人工的なエネルギーによって、もはや人類は好きなだけ生産を増やすことが可能になった。そして企業は、少しでも多く利益を上げるために人々が消費できる量を大幅に超えた製品を供給している。
しかし個人消費には限界があり、デフレを回避するには個人消費の不足分を補う社会消費を政府が行う必要がある。言い換えると、個人消費が頭打ちになった今、社会消費が足りない国はデフレになる。
失業はデフレがもたらす当然の帰結である。過剰生産能力を持つ国なら、生産を減らすには労働者の解雇が最も簡単な方法だからだ。国の借金が増えるのは、政府が歳入を超えて支出するためである。銀行の不良債権が増えるのは、銀行が安全に投資または貸し付けができる金額以上に預金が集まるからだ。
これらの問題を世界的な見地からみるために、私はOECD諸国と比較することとし、特に各国のGDP(国内総生産)における消費や税金の割合に注目した。なぜならGDPは国民総所得、つまり国民が年間に稼いだお金の総額と等しいからである。
公務員を2倍に
日本の社会消費はGDPのわずか10%だが、EUは平均20%、日本を除くOECD諸国は平均でGDPの19%を社会消費に充てている。日本は十年以上デフレに悩まされているが、もし政府が社会消費をほかの先進国並み、つまり現在の二倍に増やせば、日本の消費は五十兆円も増えてデフレは即座に解消するだろう。
政府で働く人、いわゆる公務員の数も日本は労働者人口のわずか6%だが、OECD平均はその三倍、18%である。「日本の政府は大きすぎる」というスローガンは偽りであり、日本の政府はむしろ小さすぎるのだ。政府が公務員を12%、七百二十万人に倍増すれば、日本の失業問題はたちまち解決し、それでもまだ政府の規模はOECD平均の三分の二にとどまるのである。
しかし政府が公務員を増やしたり、社会消費を増やすにはより多くの歳入が必要になる。日本の借金はすでに先進国の中で突出しているため、税収を増やすしかない。増税は反対、という声が今にも聞こえるが数字を見てほしい。日本の税収はGDPの28%だが、EU諸国は41%、日本を除くOECDは37%なのである。
つまり日本はほかの先進国と比べると所得の割合からして大幅に税金が安いのである。税収が足りないから、国の借金が増える。もし日本がほかの先進国並みにGDPの10%分を増税し、それを政府が社会消費に充てればデフレは解消するし、失業も解消するだろう。
増税分は国民に還元
税金が安いことは不良債権の原因でもある。日本人も日本企業も、消費したいと思う以上の所得を得ている。当然、残りは銀行に預金する。しかし銀行の貸し出し先となる企業も消費が頭打ちのため設備投資もできない。
結果、銀行は安全な貸し手が見付からず、その預金を株や不動産、外貨、デリバティブといった投機で稼ぐ人々に貸し出し、または自分でも投機を行う。しかしギャンブルはゼロサムゲームであり、銀行の預金が増えるのと同じ割合で不良債権は膨れ上がった。
もし政府が個人所得税と法人税をほかの先進国並みに徴税すれば、個人も企業も余剰の所得を預金に回すことなく、従って銀行が過剰の預金で悩むこともなくなる。それが投機に回ることもなく、不良債権が増えることもない。この増税分を、日本政府は日本人を雇用したり、社会消費に充てればよい。
もちろん、これまでのようにゼネコン業界を潤すだけの公共投資を続ければ、この増税も意味がないし、憲法第9条を改正して税金で武器や軍艦を購入し、米国に追随して参戦をすることも決してしてはならない。
増税分は、あくまでもヨーロッパの社会民主主義国家でみられるように、環境の保全や国民の生活水準、福祉の向上に充て、国民が不安なく暮らせるために使う。
日本が取るべき道はこれしかない。そして政府にこの道を取らせるかどうかは、国民一人一人にかかっている。民主主義は結局、国民の行動なしには機能することはないからだ。