No.555 迫るテロの危険

新しい年が始まったものの、イスラエル、イラク、そして北朝鮮と、混沌とした世界情勢に依然と明るさは見られない。国連の承認なくアメリカがイラク攻撃に踏み切った場合、「ロシアは合法かつ正当とみなさない」と述べてイラク攻撃を準備しているアメリカを強くけん制するロシア(イワノフ国防相)と対照的に、日本政府はイラク攻撃に踏み切った場合に日本が後方支援できる新法の検討を開始したという。それが何を意味するのか。小泉首相はいったいどこまで日本を「従米」国家にすれば気が済むのであろうか。

迫るテロの危険

 海上自衛隊のイージス艦「きりしま」が、12月16日、インド洋で米軍を支援するために横須賀基地を出港した。テロ対策特別措置法に基づき、米軍への支援を拡充することを狙いとしてインド洋で米軍の艦艇に対して洋上での燃料補給活動の護衛に当たるという。

 世界の超大国アメリカが2001年9月11日以降始めた「テロとの戦い」に、日本は本格的に参戦したわけである。テロ対策特別措置法に基づくというものの、9月11日の「テロ」の犯人とされるアルカイダとイラクの関係を示す証拠は何も提示されていない。しかしこれは明らかにアメリカのイラク攻撃のためのものである。

イージス派遣の意味

 政府は防衛白書に次のように記している。

 「ブッシュ大統領は(9月11日の)同時多発テロを単なるテロ以上の“戦争行為”と規定した。アルカイダによるものと特定し、これをかくまうタリバーンに対してアルカイダの指導者の引き渡しなどを要求した。また、米国は各国に対し、テロとの戦いに協力を求めるとともに、国土防衛の強化とアフガニスタンにおける軍事作戦の準備を進めた。
(中略)米軍は空爆及び地上作戦を行い、北部同盟を支援し、タリバーンを弱体化させていった。アルカイダは世界60カ国以上にネットワークを有するともいわれ、依然として世界中でテロを行う能力を有している非常に危険な存在である。米国は、テロとの戦いはアフガニスタンでは終わらず、すべての国際テロ・ネットワークを打破するまで長期にわたって続くとしている。米国によるテロとの戦いは、いわば“第二段階”に入った」

 アメリカはテロとの戦いはアフガン攻撃で終わらせず、証拠があろうとなかろうと、テロ国家であると狙いを定めた国と長期的に戦争を行うと表明した。そして日本政府は、たとえアメリカが国連憲章違反である先制攻撃をイラクに行おうとも、アメリカ側に立っていることを世界に示したのである。

 これまで何度も述べてきたが、イラク攻撃の目的は中東の石油を確保することと、兵器産業を富ませることにある。それを「テロの根絶」と銘打ってアメリカは核兵器の使用すらも検討している。先のアフガン戦争ではデージーカッターと呼ばれる、核兵器に次ぐ殺傷能力のある特殊大型爆弾も使用した。

政治目的の武力行為

 ソ連の軍事介入と内戦に長年悩まされた貧しいアフガニスタンに超大国がそのような大量破壊兵器を使用することは、戦争というより一方的な殺りくである。アメリカはイラクが大量破壊兵器を保有していることを問題にするが、それを使用しているのはほかならぬアメリカ自身なのだ。

 そして日本はいま、先の湾岸戦争で多国籍軍によって多数の国民が殺され、投下された劣化ウラン弾の影響で発病したがんや白血病に苦しみつつも経済制裁のために治療も受けられない多くの人々の住むイラクを、アメリカと一緒になって再び攻撃するという。イラクは、アメリカ本土に対して一度たりとも攻撃は行っていない。

 「一般市民に向けて、計画的に、政治目的のために行う武力行為」。これがアメリカが定義するテロ行為である。しかし、これこそまさにアメリカがとっている行動であり、実際、世界で最も多くのテロ行為を行っている国はアメリカなのである。

 どんなに強力な兵器を用いて一部のテロリストを殺したとしても、多くの民間人犠牲者を出し、広範にわたって共同体が破壊され、より多くの貧困がもたらされれば、それがさらなるテロリストをつくりだす。強大な経済力と軍事力を持つ先進国が一方的な殺りくを行えば、殺りくされる側は現状に甘んじるか、テロに走るしかないからだ。

 日本のメディアが正しい報道をしていれば、米空母を守るために購入し、収集した情報はそのまま米軍に渡される仕組みになっているコンピューター・システムを搭載したイージス艦の派遣が、日本にどのような危険をもたらすかを国民に知らせていただろう。そして国家の防衛、つまり自分たちの安寧に日本人が無関心でなければ、多くの人が派遣に反対したはずである。

“日米不平等条約”

 日本ほど自国の防衛に無関心な国はない。日米安保条約を読んでいればアメリカが日本を守るという約束はどこにも書かれてはいないことがわかるはずだ。安保第五条は、日本が侵略されたら、アメリカは、アメリカの判断で動く、とそれだけだ。

 第六条では一方的に米軍の占領を認めている。これは十九世紀から続く不平等条約なのである。しかし、日本政府はこの事実を国民に知らせない。そればかりかアメリカの御用聞きとしてイージス艦を派遣し、アメリカと共に戦う体制に入ってしまった。

 もはや日本は、いつテロの対象となってもおかしくない。テロの標的になりそうな所へ行くことは避けた方がいいし、飛行機にも乗らない方がよいかもしれない。卑劣で残忍なテロが日本の現実的な脅威となったのである。