No.605 エネルギーの無駄遣い

 10月21日に南カリフォルニアで発生した山火事は、ロサンゼルス北部からメキシコ国境までの4つの郡に広がり、死者24人、焼失家屋は4700戸以上という被害を出した後、11月になって降雨と降雪によってようやく鎮火に向かった。しかし火災で樹木が焼失した地域では、今後雨や雪による洪水および地すべりが起きる可能性があるという。

エネルギーの無駄遣い

 カリフォルニア史上最悪のものとなったこの山火事に対してアメリカ政府は被災地を大規模災害地域に指定し、低利融資の貸し付けなど300万ドル(約3億3千万円)の支援を約束した。アメリカのこの山火事と、今年3月にアメリカが開始し泥沼化しているイラク侵略とは密接な関係があると私は思う。

 アメリカでは人口が急増して都市部から農地、そして森林地帯にも人が住むようになった。そしてそこは以前から山火事が起きる場所だった。しかし山火事も干ばつも洪水も、また台風も竜巻も、さらに多くの日本人が心配している地震にしても、それらはすべて自然界の一部である。自然が人間に順応するのではなく、人間が自然に合わせて生きていかなければならないのは当然の理なのだ。そして大自然は時々、それを忘れた人間の前にその力を見せつける。

 アメリカで特に人口が急増したのは南カリフォルニアとテキサスとフロリダであった。日本の約25倍もの広さをもつアメリカの中で、これらの地域は人間が暮らすにはあまり適してはいない。南カリフォルニアはおもに砂漠で、テキサスもほぼ砂漠に近い。フロリダにいたっては湿気が多く蒸し暑い。もともとその土地に住んでいた人は別として、普通そのような場所は人々が好んで定住地として選ぶ場所ではなかったが、人口増加に伴いそれらの地域まで住宅地が広がっていった。もしほかに快適な場所があればそちらへ移っていたであろうが、アメリカはものすごい量のエネルギーを使って快適に生活できる環境を人工的に作り出したのである。

 私の住む京都は、夏は暑く冬は寒い。日本も最近はアメリカ並に石油を消費して夏も冬も快適さを追求するようになってはいるが、日本は長い伝統文化のなかで、蒸し暑い国土で人々が暮らすためにさまざまな工夫をしてきた。「衣替え」という言葉があるが日本では家の中の建具も夏用に、たとえばふすまや障子をはずしてすだれに替えるといった生活の知恵や、風通しをよくするために家の中ほどに庭をつくるといった数々の工夫がなされてきた。これらはすべて私が日本にきてすばらしいと思った伝統文化である。

 しかしごく最近砂漠で暮らすようになったアメリカにこのような文化はない。ひたすらエネルギーを使い、人工的な環境を作っていった。国民一人当たりのエネルギー消費量でみるとアメリカは石油換算で8.2トン/人であり、日本の4.1トン、中国の0.7トンと比べると圧倒的な量である(2000年)。世界人口のわずか5%にすぎないアメリカ人が、全世界の約25%のエネルギー資源を使って持続不可能な生活の基盤を築いてきた。南カリフォルニア、テキサス、フロリダなどではほとんどすべての住宅の、すべての部屋で1年中24時間エアコンが稼動している。砂漠の真ん中でも洗濯物は乾燥機を使い、ほとんどの自動車はエアコン付きで運転するときは必ずエアコンを作動させる。これらはどれもものすごい量のエネルギーを必要とする。世界でアメリカのような国はほかには見当たらないであろうし、他の国が同じことを行えば世界の石油資源はたちまち枯渇することは目に見えている。このようなエネルギーの浪費という誤った使い方をしているアメリカが、イラクのような国を占領する必要がでてくるのは当然のことである。またイラクに限らず他の石油産油国に対しても内政干渉をする必要がでてくる。

 またカリフォルニアではそこに住む人々に供給するための水が十分ではないためにアリゾナやコロラドといった近隣の州から水を運んでこなければならない。水を輸送するためにはまた多くのエネルギーを必要とする。さらに付け足せば、そのカリフォルニアでは農民がその砂漠で政府から助成金をもらいコメを作っている。そしてアメリカ政府はそのコメを輸入するよう日本政府に圧力をかけているというおまけまでつく。これらはすべて、市場中心の自由貿易という名のもとで行われている狂気の沙汰なのだ。

 カリフォルニアの山火事とアメリカのイラク侵略。これらはともにアメリカの貪欲さと、人類の環境を無視して途方もないエネルギーの無駄遣いをするという利己主義がもたらした結果なのである。