No.612 一石二鳥のドル買い介入

 前回のOWで2003年に政府・日銀が21兆円という巨額の円売り・ドル買いを外国為替市場で行ったことを取り上げた。これは「外国為替資金特別会計」という一般会計とは異なる政府の別の財布があり、その資金を使って行われる。買ったドル札はそのまま政府の金庫に保管されるのではなく、昨年12月末における外貨準備高6735億2900万ドルのうち、5259億6700万ドルを証券で保持しているという(財務省)。そしてそのほとんどを日本政府は米国債という形で保有している。さらに今月、ドル買い介入の借金予算79兆円枠を使い果たした政府は、保有する米国債のうち5兆円を日銀に売却してさらなる介入原資を調達した。

一石二鳥のドル買い介入
 
 アジア各国の外貨準備高がこの2年間で急増し世界全体の60%も占め、その大半は米国債で運用されている。その理由は輸出企業の競争力維持のためにドル買い介入を続けているためだというが、これはつまりアメリカの財政赤字をアジアの政府資金が支えているということになる。中でも日本が最大の支援国だ。ドル安傾向は止まりそうもないが、アメリカはアジア諸国と同様に輸出企業のためにそれを歓迎している。輸出企業のためとはいえ、日本では2000年~2002年には年間約3~4兆円だった介入額がなぜ2003年に突然21兆円にも膨れ上がったのか。それにはもちろん理由がある。

 2003年1月、ブッシュ大統領が行った一般教書演説にはすでにイラク攻撃を行うことがはっきり示されていた。“フセインは大量破壊兵器、炭疸菌、ボツリヌス菌を保有し、500トンのサリン、マスタードガス、VXガスを作る材料を持っている。”“フセインはアルカイダも含めたテロリストを援助し保護している。”“フセインが武装解除しないなら、米国が武装解除に乗り出す”。

 そして3月、イラクへの先制攻撃に向けた最後通告をアメリカが行うと、小泉首相はすぐに「米国が武力行使に踏み切った場合は、これを支持するのが妥当」と武力行使を支持した。当然アメリカは、1月以前からイラク攻撃の準備を始め、同時にその戦費をどのように調達するかも考えていたであろう。なぜなら巨額の財政赤字を抱えるアメリカは自分で戦費を調達することはできないからだ。たとえ少数のアメリカ人がイラク攻撃を支持しても、もしそのために増税を行うといえば大多数は反対する。さらにその時点でドイツやフランスはイラク攻撃に反対していた。

 日本でも政府は別として、一般国民は父ブッシュ大統領時代に湾岸戦争で日本が1兆3000億円もの戦費を負担したことをよく思っていなかった。そこで両国政府は、イラク攻撃の戦費を日本が「密かに」負担する手段を熟考したのであろう。

 2003年に日本政府が21兆円ものドル買いをしたにもかかわらず、ドルは119円から107円に下落した。1999年は1ドル=102円(12月末)と今よりも円高だったがそれでも政府の介入総額は年間7兆6400億円だった。

 ドル下落で日本政府が保有するドルの価値の目減り額は単純計算で2003年1年間で1兆2000億円になる。この金額が父ブッシュ大統領時代に負担した1兆3000億円の戦費とほぼ等しいのは偶然だろうか。私はこれが小泉からブッシュへの、日本政府から米政府への秘密の贈り物だったと見ている。

 さらにこのドル買い介入は政府が短期国債を発行して、つまり借金をして行っていることも忘れてはならない。政府はその借金予算枠79兆円をすべて使い果たした。もちろん借金をすれば利子をつけて返さなければならない。介入のために政府が発行する「政府短期証券」を買うのは金融機関である。つまり金融機関は政府の3カ月の短期国債を買って利子を手にしている。これはまさに宗主国アメリカと自民党の選挙資金のスポンサーともいえる金融機関、この二つを満足させる「一石二鳥」の政策ではないか。

 政府が成立させようとしている2004年度税制改正では、法人税が減税される一方、年金課税強化や個人住民税の引き上げ等で個人の税負担は5千億円規模も増加するうえ、消費税増税も示唆されている。

 国民が政治や国のあり方を考えたり語り合うことがないよう、企業は人々に玩具を与え、メディアは今日もスポーツやお笑い番組、ハリウッド映画や音楽をたれ流す。そして日本政府は国民を犠牲にして財界やアメリカに仕える政策をとり続けている。今年は申年だが、猿回しの猿のようにアメリカのいいなりになっている首相と、「見ザル・言わザル・聞かザル」の国民では、日本は今年も大変な一年になるだろう。