政府が2月に発表した昨年10-12月期の国内総生産(GDP)速報によると、実質GDPは年率換算で7%増で、竹中経済財政相は「緩やかにしっかり回復しているという実感を持っている」と評価したという。経済紙は輸出増による国内生産拡大で設備投資増という好循環が生み出され、年内は景気の拡大が続く公算が大きいと報じている。これらは日本国民を大きく欺く報道だと私は思う。少なくとも私が日頃読んでいるイギリスやアメリカの英字新聞や雑誌のほうが、日本政府のとっている行動について、真実をより正確に記している記事が多い。
借金国日本の危険な道筋
今年になってからこのOur Worldで日本政府が為替介入のためのドル買いを通じて昨年1年間に21兆円分もの米国債を購入したことを指摘した。現在政府保有の米国債残高は79兆円に上り、これは日本が79兆円をアメリカ政府に貸していることである。一つの国が他の国に79兆円もの大金を貸すということ自体がまず異常なのだが、そのうえ日本はこの79兆円を借り手の通貨であるドル建てで貸している。これはドルが暴落すれば日本に戻ってくる金額が大幅に減少することを意味する。
日本政府がドル買い介入を行う理由は輸出企業を助けるためだという。円安にするためにドル買いを行っているというが、日本のGDP約500兆円のうち輸出総額は57兆円にすぎず、そのために1年間に21兆円ものドルを買うというのは理屈にあわない。さらに今年1月だけで日本は7兆円もドルを買い、そればかりか政府は2004年に総額140兆円までドル買いができるように予算枠を増額した。日本の一般会計予算の税収は42兆円しかない。81.7兆円という日本国の一般会計歳入のうち、その他の収入を除くと36.5兆円が借金だ。国家予算の半分近くを借金している政府がアメリカには79兆円も貸し出しているのだ。
国の借金688兆円
日本国内の状況をみてほしい。竹中経済財政相が実感している景気回復とは裏腹に、働き盛りの現役世代には2004四年、厚生年金の保険料率の引き上げや配偶者特別控除の原則廃止をはじめ税負担増が待っている。簡単に試算しても年収500万円の標準的な世帯は税金と保険料で5万円以上の負担増となる。地方自治体の財源不足を補う地方交付税交付金も9千億円減り、障害者や母子家庭への福祉金制度が見直され、保育所や幼稚園の保育料を引き上げる自治体も出ている。日本は国と地方を合わせて688兆円もの長期債務残高、つまり借金がある。自分が借金をしている国がなぜアメリカに79兆円も貸せるのだろうか。
日本政府がお金をどこから調達しているかといえば、日銀がお金を作っている。つまり円を印刷してドルを買うという異常な金融政策をとっている。英フィナンシャルタイムズ紙によると、この政策はアメリカ連邦準備委員会のエコノミストが昨年公開した文書に“経済を刺激するために必要なら印刷したばかりの紙幣をヘリコプターからばらまくという古典的な政策をとることもできる”と記している、そのやり方だという。違いは、アメリカの上空で紙幣をばらまいているのが日本のヘリコプターだということだ。同紙は「しかしそれを操縦しているのは誰か」と結んでいるが、それが誰であれ、もはや日本にもたらされる影響は避けることはできないだろう。重債務国でありながらグローバル経済を支配するアメリカは、日本をはじめ世界の国々の金融を自由化させ、自国の赤字を埋めさせてきた。それでも足りなければ、日本政府は、足りない分は印刷をしてでもアメリカの赤字を支えている。
18世紀、スコットランド出身のジョン・ローというエコノミストでギャンブラーが破綻寸前のフランス王室に提案した金融政策は、銀行を設立して金と兌換できる銀行券を発行することだった。この銀行券は急速に金貨を駆逐し、信用を背景とする取引が主流となった。ジョン・ローはさらに北米植民地の経営を行う会社を設立し、それらの負債処理のために株を発行し投機をあおった。金利は低下し、インフレは沈静化したが、資産価格が高騰しバブルが発生した。はじけないバブルはない。借金まみれの王室、そして北米植民地会社が実態のないものであることが暴露されると株価は暴落した。人々は銀行券を金に変えようと銀行に殺到し、銀行は支払い不能に陥り、フランス経済は深刻な恐慌に陥った。この恐慌から脱するためにブルボン王朝がとった手段は公共投資としての戦争だった。
今、借金まみれの日本政府が行っていることはこれと同じである。このままいけば、1930年に日本のエリートたちが日本を太平洋戦争へ導いたのと同じ道筋を再びたどらないとも限らないだろう。