このOur Worldというメモを始めたのは1995年、当時は電子メールか郵送で、限られた人にのみ意見を発信していたが、いまではこのWebサイトを通して多くの方の目に触れることが可能になった。
当初より私が興味をもった話題を多くの方々にも考えていただきたいという思いからデータを収集し、それについての自分の考えを述べるという形をとってきたが、しかし物事はたいていそんなに単純ではなく、さまざまな見方がある。そればかりか強い影響力を持つグループが自分たちに都合のよい解釈を広め、それがすでに世間に常識として浸透していることも少なくない。
安保条約と日本の平和
その一例が、日米安保条約である。安保条約第5条には「自国の憲法の規定及び手続に従って、共通の危険に対処するように行動する」とあるだけで、アメリカが日本を守ってくれるということは一言も書いてない。反対に第六条には、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と、はっきりと軍事占領をすることが明記されている。
この条文によって日本政府は在日米軍基地を維持するために年間5千億円、在日米軍兵士一人当たり1400万円も負担しており、日本国民一人当たりの社会保障関係費が約13万円であることを考えると、実に100倍以上の費用を米軍兵士一人に対して支払っていることになるのだが、これをいくら私が主張しても日本政府の要人が、戦後50年間日本が平和のうちに繁栄を築くことができたのは安保条約にもとづく日米同盟関係があったからであり、この体制を堅持していくことが日本の平和と安全を守る唯一の道だと国民に広く宣伝していれば私のような意見は異端とされる。
2001年5月、小泉首相は構造改革の過程を明らかにし、その理解と問題意識を共有していくことを目的として「小泉内閣メールマガジン」を創刊した。内閣府によるとメールマガジンを始めるために政府はシステム構築に9300万円、運用費用が10カ月で8300万円と、2001年度に1億8400万円もかけたという。これに対抗するのは至難の業であることはいうまでもない。
また、今月からアメリカ追従を英語圏の人々にまで告知したいのか英語版のメールマガジンも発行し始めたことは興味深い。自衛隊のイラク派遣についてあらゆるメディアを挙げて「イラク復興支援」を前面に押し出そうとする政府の前に、私が違法性を主張したところで説得力がないのは仕方のないことかもしれないと思ったりもする。
Webになってからは、よくメールで質問をいただく。先日も自衛隊派遣に関連して国外では日本国民を保護するべきではないと書いたことに対し、その理由をたずねられた。
国外に自衛隊を派遣すべきでない理由は、国際紛争を解決する手段として武力による威嚇または武力の行使は行わないという憲法第9条そのものにある。日本国外で保護が必要になるのは国際紛争に巻き込まれた場合だ。もしそこで、その政府が自衛隊派遣を要請すれば別だが、そうでない場合にそこへ自衛隊を派遣することは治外法権にあたる。もっとも分かりやすいのはアメリカや中国、ロシアといった大国で紛争が発生した時に、それらの国の許可なく日本が自衛隊をその国に派遣することがありうるかを考えればよい。そして大国には派遣しない自衛隊を弱い国に対しては派遣してもよいとする二重基準こそ、国家としてとってはならない卑怯(ひきょう)な行為だと私は考える。
政府は今、日本が再び武器輸出国になれるよう必死に宣伝をしている。1976年、三木内閣は武器輸出を全面禁じた。それを冷戦時代の一国平和主義だとし、また欧米各国もやっているのに日本はその国際標準からはずれている、だから武器輸出三原則を見直せ、というのである。しかし日本の安全保障のために武器輸出を解禁というのは私には矛盾語法にしか思えない。
日本が安全保障のためになすべきことは、正直で誠実で相互に利益のある関係を近隣諸国と築くことである。日本一国で核兵器保有国から国を守ることは不可能だ。そして日本への核攻撃をアメリカが防ぐことはできない(アメリカこそが核兵器で日本を攻撃した唯一の国なのだ)。
日本が生き残る唯一のチャンスは平和である。それには北朝鮮または江戸時代の日本のような鎖国に戻るか、または近隣諸国と正直で誠実な関係を築くために明治、大正、昭和時代の軍国主義には戻らないことを誓い、実行に移すしかない。遠い国からの脅威が問題になればそれは日本だけでなく近隣諸国にとっても同じである。いずれにしても近隣諸国は互いに協力して相互共同部隊を築くしかない。または全く無力か、アメリカの手先としてしか機能していない国連を、強力だが世界平和のための民主的な機関に変える努力をすることもできるだろう。そしてそれを可能にする第一歩は、日本政府がアメリカ追従を止めることなのである。