5月の記者会見で、竹中平蔵経済財政・金融担当大臣は主要銀行の3月期決算を受け、政府が掲げた2005年3月期末の主要行の不良債権比率4%台の目標は、半年前倒しの九月中間期末にも達成することが可能との見方を示し、景気は回復が続いていると認識していると述べたという。今回はこれについてコメントしたい。
景気回復は国内投資で
まず銀行について考えると、その役割の一つは預金という形でお金を預かり、安全に保管することにある。銀行の貸し金庫に同じ理由で現金を預ければ保管料を払わなければならないが、預金をすると銀行は手数料(利子)まで支払ってくれる。預金の保管料をとらない銀行は運営経費をどう捻出しているかというと、お金を必要とする個人や企業、国・地方公共団体に預金を貸し出して利息をとるか、または自分で投資して収益を得ることで利子や銀行員の給料、オフィス家賃、広告費等々のさまざまな費用をカバーしている。
長い経験から、銀行はすべての預金者が同時に預金の大部分をおろすことはほぼありえないとして、集めた預金のすべてかそれ以上を貸し出したり投資したりしている。本来は預金準備率が決められていて何%かの支払い準備金を用意していなければならないが、現実には百万円を預かったら、その数倍のお金を貸し出している。
お金は企業から個人、個人から企業へと人間の体を血液が循環するように流れて、経済社会に活力を与える。商品やサービスを手に入れるためにお金が動き、銀行が集めた預金以上のお金を貸し出していることで、日本国内には実際のお金よりも多くの購買力が生まれる。つまり、銀行がお金を貸し出すことによって預金額以上に作り出された購買力(信用創造)によって、日本経済はこれまで成長してきたと言えるのである。
1998年、日本政府はアメリカの圧力に屈してビッグバンと呼ばれる金融規制緩和を行った。これによって外貨取引や海外への投資が自由になり、企業の資金調達市場も広がるというふれこみだった。それにあわせて日本の銀行は1998年から国内の貸し出しを縮小し始めた。その結果国内貸出残高は1998年から今年4月までに27%、142兆円も減少した。同時期、預金残高は13%、57兆円も増加している。また、1998年以前の銀行による貸し出しは預金残高の120%近くあったものが徐々に減り、現在は預金残高の77%以下しかない。これはすべて日銀が発表したデータに基づいている。
つまりビッグバン以降、銀行は国内向けの貸し出しを減らし、それによって日本国内の購買力が弱まり、日本の長引く不況の原因となっているのである。したがって銀行が国内への貸し出しを増やさない限り日本経済の回復はありえないと私は見ている。
では国内貸出残高減少分の142兆円、および預金残高減少分の57兆円、合わせて199兆円はいったいどこへいったのだろうか。先に述べたように、銀行は事業経費をカバーするためにお金を貸し出すか、投資して収益を出さなければならない。過去十年以上、国内の土地や株価が下落していることをみると、銀行がそれらに投資しているとは思えない。そうなると、199兆円の行方はビッグバンが可能にした外貨や海外、それも大部分はアメリカへの投資以外に考えられないのである。
金融ビッグバンはアメリカ政府の圧力による。日本の預金をアメリカへ流出させることで米国内の預金不足を補てんし、米国の産業や株式市場を活性化させる、金持ちへの減税と増大する軍事予算によってもたらされた米財政赤字をカバーする、そしてジャパンマネー流出で日本を弱体化させ、アメリカの日本への覇権を強めるためにそれは行われたのである。
日本の銀行がアメリカに貸し出すか投資したお金の大部分は、アメリカの巨額の貿易赤字と財政赤字でドルが下落し、その価値は必ずや下がる。古い不良債権を処理するために公的資金を投入しても、預金がアメリカへ流出すれば、世界最大の貿易赤字国の通貨が最大の貿易黒字国の通貨に対して通貨価値が減少するのと同じ確率と速さで、新たな不良債権が作られる。竹中大臣の言うように不良債権がなくなることはあり得ないと私は考える。
景気が回復しないことについても、私の友人であり「円の支配者」の著者であるリチャード・ヴェルナー氏が指摘するように、日本の不況の原因はビッグバン以降、銀行の国内貸し出しの減少によって購買力(信用創造)が減少したためで、それにより雇用や労働者の所得が減少し、その結果、消費と生産の縮小、倒産の増加、銀行の不良債権の増加、銀行の貸し渋り…という悪循環になっていることにある。
ゼロ金利政策でも借り手ははるかに高い金利を払わなければならず、日本経済の大部分を占める中小企業にとってはビッグバンが可能にした海外からの資金調達など関係ない。ビッグバンのような改革が日本の経済をゆがめ、今日の弱くて意気地のないアメリカの植民地にした。景気回復はアメリカが日本政府に強制したビッグバンを撤回しない限りあり得ないのだ。