No.638 自然の法則、身土不二

 日本の空は、日米地位協定によって航空法を守る義務のない米軍機を、民間機が避けながら飛んでいるという危険な状態であるため、大好きな北海道になかなか行くチャンスがない。しかしこの6月、トワイライト寝台で久しぶりに北海道を訪れ、そこでは仕事以外にとても興味深い出会いがあった。

自然の法則、身土不二

 その人は私の会社の社員からぜひ会って欲しいといわれて紹介された元大学教授の石沢文規さんという人である。石沢さんは現在札幌で国産、無(低)農薬、有機栽培の食材を使った「食べ処身土不二(しんどふじ)」という食堂を経営している。石沢さんが、以前私が書いた著書を読んでくれていたことや、食堂のファンである私の会社の社員がそのホームページの制作を手伝ったということもあってお会いすることになったのだが、私たちはすぐに「身土不二」のテーマで意気投合した。

 身土不二とは人間の身体は住んでいる土地と一体であって、そこでとれるものを食べることが身体にもっともよいものだという自然の法則である。食材だけでなく、伝統食や郷土料理など、何百年もの長い時間をかけてその土地にふさわしいものとして受け継がれてきた食べ物は、経験に裏打ちされた合理性や科学性に基づく信頼に足るものなのである。

 しかし今の日本の食生活がどうなっているかといえば、食料自給率はカロリー換算で40%まで低下し、日本人が食べている食糧の60%は海外に依存している。世界的な気象異常による凶作などで輸入が止まればたちまち食べる物がなくなる。また肥料や輸送手段のために農業は石油に大きく依存している。そのためエネルギー自給率の低さをあわせると日本人は生命を外国に完全に依存しているのが現状だ。

 とくに私はファーストフード反対派である。ハンバーガーだけでなくコンビニなどで売られている大量製造された食べ物やアメリカでテレビディナーと呼ばれる電子レンジで温めて食べる機内食のような食事も嫌いである。それは身体の健康だけでなく、心の健康にもよい影響を与えないだろう。

 特にファーストフードが身体に有害であることは実証済みである。アメリカでは「スーパーサイズ・ミー」という映画が公開されたが、アメリカ食文化の象徴であるマクドナルドの商品だけを1日3回、1カ月間食べ続け、医師の診察のもと健康チェックをするのだが、体重やコレステロール値が急上昇し、ファーストフードに頼る食生活がどのような影響を体に与えるかが克明に描かれている。

 この映画を制作し1カ月間マクドナルドを食べ続けたモーガン・スプアロック氏のインタビュー記事によれば、始めてから22日目に医師から中止するよう言われたという。それほど有害だということなのである。豆腐や野菜を多用する伝統食のある沖縄でも、近年は洋食や外食が増えた結果、生活習慣病が増え、このままでは長寿沖縄に黄信号が懸念されるという記事をみたが、身土不二に反することがいかに健康に良くないかを示す例はこの他にもいくつも見つけられるだろう。

 ファーストフード業界は体に害があろうとなかろうと、とにかく安い食材を調達し、しかも日本の場合ほとんどが海外からの輸入食材で、それを薄利多売することで利益を上げることが命題である。健康に害があると知りつつ多額の広告宣伝費を使い意図的に不健康な食べ物を売る。ファーストフード企業の経営者の多くは食の専門家ではなくマーケティングや財務の専門家なのだ。食について少しでも知識があれば、ジャンクを売りつけることはできないはずである。

 人間の身体や心によい食べ物は国家にとってもよい物であるはずだ。つまりファーストフードチェーンのかわりに身土不二を普及し、国産の食材で日本の国民を養うことができる能力を取り戻すことが日本には必要なのである。その一つの方法として石沢さんは一日一度しか食事をしないとうかがった。つまり食べる量を減らすのである。確かに40%に満たない食料自給率でも人々が食べる量を今の3分の1にすればそれだけで食料自給率は100%になる。そればかりか不健康な食べ物を過剰に摂取することでもたらされている生活習慣病その他の病気も劇的に解消するだろう。

 飽食の日本人にそれは無理だとしても、食料自給率を高めるために国が農業に力を入れることはこれからの日本の取るべき道だ。農業ほど多くの人間を雇用してきた産業はなく、機械化などによりますます増える失業対策にもなる。

 海外からの食料輸入が減ることは世界の飢餓に苦しむ貧困国のためにもよい。貧困国においてはWTOやIMF、世界銀行が金持ち国のために農業をするように仕向けていることが貧困の一つの原因なのだ。つまり飢餓に苦しむ国民の口にはいる農産物を作るのではなく、金持ちの国が肉食をするために飼料となる農産物を作らせている。一部の人が富み、その分誰かが痛みを得るような構造を改め世界の国の人もいたわり合える仕組み作り、身土不二は健康だけでなく平和にも通ずる考え方なのである。

石沢氏身土不二ホームページ:http://www10.ocn.ne.jp/~gen-mai/