No.644 小さな行動が大きな変化に

 このOur Worldでは、体制に対する批判を含めてさまざまな私見を述べさせていただいているが、個人の力で現実を変えられないことは十分承知している。そんな中、微々たることではあるが日常生活において私がこだわっていることがいくつかある。

小さな行動が大きな変化に

 一つは可能な限り国産の食料品を購入することだ。また食べ物に限らず、なるべく日本製品を使うようにしている。輸入製品は輸送において多くのエネルギー資源を消費し、それが地球の環境汚染をもたらしている。また日本国内の出張には鉄道を使い、飛行機は絶対に乗らない。市内の移動には可能な限り電車や地下鉄を利用し、よほどの悪天候か急いでいなければタクシーは使わずに徒歩で移動する。駅ではエスカレーターではなく階段を使う。もちろん自家用車は持っていないし、在日35年のうち日本で車を運転したのは3回で、代わる交通手段がなかった北海道においてである。

 これまでにも主張してきたが、環境とエネルギー資源の問題はきわめて深刻な危機に直面している。今さらいうまでもないが地球温暖化の原因は人間の活動に伴う温室効果ガス、主に二酸化炭素である。温暖化によって気候変動が起こり、砂漠が増える一方で、極端に降水量が増える地域が生じ、水不足に苦しむ人々がいるかと思えば別の地域では大水害が発生している。また温暖化で寒冷地の氷が融解すれば、海面の上昇は避けられない。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、地球の平均海面水位は20世紀中に10~20センチ上昇しており、21世紀末までに最大約90センチ上昇すると予測されている。日本は国土の7割以上が山地だが、人口の大部分や経済活動の主要な部分は海沿いの平地部に集中していて海面上昇の影響はそのままはんらんの危険性につながることを意味する。

 この地球温暖化の原因の一つが、人間や物資の輸送手段で多くのエネルギーが使われていることにある。そのために私は自分自身が利用する輸送機関を選び、または回りの人々にもそれを奨励することによってエネルギーや地球の生態系を守ることにわずかでも貢献したいと思っている。そんなことをしてどれほどの効果があるのかと言う人は必ずいるだろう。しかし私はそうした小さな行動が大きな変化につながると信じている。

 先日、米CNN創設者であり国連に私財十億ドルを寄付するなど熱心なフィランソロピスト(慈善事業家)であるテッド・ターナー氏が、他の慈善事業家に寄付の優先順位を考えるべきだという種の発言をしたという。フィランソロピーというと日本では企業がボランティア的なことを行うような位置付けにあるが、アメリカでは芸術家の支援や科学技術の振興に資金援助をするなど積極的に行われている。ターナー氏は、地球は最後の危機に近づいているため芸術への援助よりも人口増加や環境悪化を阻止する行動をとることが先決だという警鐘を鳴らしたのである。

 私たちはいつも物ごとに優先順位をつけ、何かを選びながら日々暮らしている。誰でも1日は24時間で、使えるお金は限られている。だからこそ何を選択するかが大切なのだ。今私たちがあらゆることに利用している石油などの化石燃料は、数億年かけて生物が大地の中で生まれ変わったものである。

 約200年前、人類はこれまでの風力や水力、動物や人間の力からこの化石燃料をエネルギー源やプラスチックなどの物質資源として用いるようになった。その数億年かけて作られた化石燃料を私たちはあと四十年ほどで使い果たしてしまう。化石燃料で動かしている乗り物も化学繊維でできている洋服も作れなくなり、電気もとどこおるようになるだろう。そしてよいニュースは、それとともに地球温暖化はストップするということだ。

 地球の環境収容力がどれくらいなのかわからないが、先進国が今の生活を続け、化石燃料を燃やして二酸化炭素を排出し続ける限り、環境収容力が限界に達することは時間の問題である。しかしよいニュースはほかにもある。人間は考える能力がある動物だということだ。したがって意志と適切な訓練によって、われわれは生き方を変えることは可能である。物質に囲まれた便利で快適な現代人の生活を、江戸時代のレベルに退行させるなんてばかげていると、多くの人は言う。しかし人類の長い歴史の中で地球の資源をあたかも無限にあるかのようにさく取し、過剰な生産と消費を奨励する資本主義ができてからまだ150年足らずしかたっていない。人間を含め生物は一定の大きさになると成長が止まる。成長し続けなければならない利益やGDPを指標とする資本主義経済は、この点においても不自然である。

 資本主義に代わるものが見つからない今、子供たちやその子供たちを危機にさらす地球温暖化を考えると、たとえ小さなことでもできることを私はしていきたいと思う。