No.645 真実を見つける努力を

 小泉首相が下降気味の支持率を上げるためにイラク訪問実現を目指しているという(産経新聞8月19日)。さらに、イラクから経済大国日本に対して雇用拡大の期待が大きいため、それに応えるためにも現在自衛隊がイラク復旧作業で雇用しているイラク人を増やすことを検討しているという。

真実を見つける努力を

 「イラクの人々のために人道支援する」。小泉首相は口を開けば“人道支援”という言葉を繰り返す。自分のメルマガで小泉首相は、サミットの時にイラク暫定政府のヤーウェル大統領から「サマーワの自衛隊の活動はすばらしい」「イラクでは皆歓迎し、感謝している。これからも是非、日本の自衛隊の支援活動を続けてほしい」と感謝されたと誇らしげに書いた。だがイラクでの戦闘は激しさを増している。

 米ホワイトハウスのマクレラン報道官は、イラク駐留米軍関係者の死者数が昨年3月の攻撃開始以来1000人に達したと発表し、「自由を守るために究極の犠牲を払った人々に名誉と哀悼をささげる」と述べたというが、民間イラク人の死者は1万人をとうに超え、さらに増え続けている。(アメリカはイラク人の死傷者は数えていないので、この数字は米英の研究者たちがイラク戦争での民間人の死者数を集計するプロジェクト「イラク・ボディ・カウント」による。)

 小泉首相がそれほどまでに「イラク人のための人道支援」をしたいのであれば、何よりもすべきことはイラク人を殺傷し、イラクの国土を破壊している爆撃を米英軍に止めさせることだ。しかし小泉首相の頭にはどうやらそれはまったくないらしい。

 ブッシュ、ブレア、そして小泉首相がイラク戦争を正当化させるために挙げていたイラクを先制攻撃するための理由はひとつずつ崩されてきた。イラクには大量破壊兵器などなかったし、アルカイダに協力もしてなかった。フセイン独裁政権を倒して虐待されてきたイラク人を解放するというアメリカの大義は、アブグレイブ刑務所でイラク人に対してごう問や性的虐待を加える米英軍の兵士の写真で欺まんが明らかにされた。

 先月、イラク暫定政府は死刑を復活するという発表をした。日本やアメリカにさえ死刑があるのだからしかたがないことかもしれないが、今の状況でイラクに死刑が復活すればイラク政府が歓迎しないあらゆる政治活動に対して、国家安全保障を危険にさらすという理由で死刑が執行される可能性がある。

 またイラク暫定政府はカタールの衛星テレビ、アルジャジーラがそのイラク報道が偏っていると非難しバグダッド支局を1カ月間閉鎖することを命じた。私はインターネットでアルジャジーラの記事をよく読むが、報道は完璧ではないかもしれないがアラブ世界にもっとも近い、独立した放送局だと思っている。それをイラクから追い出すのだからイラクが民主化や言論の自由からほど遠い場所にあることは言うまでもない。

 なぜアルジャジーラを締め出すか、その理由を考えるとアメリカが以前からその報道を「アラブ寄り」と批判していたことを忘れてはならないと思う。パウエル米国務長官の「ニュースをゆがめている」という言葉を考えるとイラク政権が米政府の意向を尊重して行ったと言っても過言ではないだろう。

 結局、イラクはイラク国民が選んだ人物によって統治されているのではなく、アラウィ首相やその他大臣の目線は国民よりイラクに駐留する16万人の外国兵士やアメリカにある。だからこそイラク各地でイラク国民が武装勢力やテロリストと呼ばれ、占領者に殺され続けている。

 しかしどんなに情報を操作してもほころびは目立ち始めている。私は主にインターネットで自分が信頼するジャーナリストの記事を検索している。たとえば英インディペンデント紙のロバート・フィスク記者は、これまで独裁者でさえ簡単に統治できなかったイラク人に今あるのは外国の侵略者への憎しみだと記している。そんな占領がイラクに平和や民主化をもたらせるはずはない。

 インターネットが使えなければ、書店にはイラクの現状を伝える本も出ている。例えば“平和をめざす翻訳者たち”が監修した『世界は変えられる-TUPが伝えるイラク戦争の「真実」と「非戦」』(七つ森書館)にはインターネットの世界を駆け巡ったイラク戦争開始前から今までの戦争と平和の問題を考える人々が発表した論説が集められている。つまり政府や主流メディアが事実を隠そうとするのであれば、私たちにできることはそれを探す努力をすることだ。

 ブッシュ政権を批判したマイケル・ムーア監督の映画「華氏911」が日本でも公開された。記者団から見に行く予定は、と聞かれた小泉首相は「政治的な立場が偏った映画はあんまり見たいとは思わないね」と不快感を示したという。見ていない映画を「偏った」と判断する小泉首相はイラクで起きていることも見ようとはしないだろう。そんな指導者によって日本が戦争への道を踏み出さないためにも、政府が伝えないことを私たちは見つける努力を怠ってはならない。