日本政府が、イラクに派兵している自衛隊の派遣期間を延長する方向で検討に入ったという報道がなされる一方で、ニュージーランドは部隊全員を9月中に帰国、今後は派兵する意志がないことをヘレン・クラーク首相が発表した。ニュージーランド人を送りこむことは民間人の支援団体などを含めて、あまりにも危険だとする、イラクからの完全撤退の表明である。
イラク攻撃こそ米のテロ
ここ数週間、悪化するイラク情勢の中で、派遣されていたニュージーランド人技術者たちはバスラの基地から一歩も外へでることができなかったという。日本の自衛隊は基地から一歩も外にでることなく、または万が一、危険を冒して基地の外にでているとしたら、いったいどのような「人道支援」を行っているのだろうと思う。
先日は、国連のアナン事務総長もアメリカのイラク攻撃は国連憲章に反する違反行為だったと述べた。小泉首相は、憲法を無視してまで自衛隊を派遣したことを「国際協調」と「日米同盟」の重要性から日本国民に言い訳するが、結局はアメリカの顔色しかうかがっていないことは明白であり、小泉首相にクラーク首相ほどの国民を思う気持ちがあれば、即座に撤退を発表するはずだ。なぜならイラクは戦場以外のなにものでもない、危険な場所だからだ。
昨年5月、ブッシュ大統領は空母の上で自由の大義と世界平和のために戦い、敵を圧倒したと終結宣言を行った。そしてイラクに秩序をもたらし、隠された生物化学兵器を探し出し、イラクの民主化を行うと宣言した。また、イラク戦争は9月11日に始まった「テロとの戦い」の勝利の一つだとも言った。しかし私からみて米軍によるイラク攻撃こそ、アメリカ政府によるテロ攻撃だと思う。
9月になってから米軍はファルージャへの攻撃も強めている。日本の報道の多くはイラク人武装勢力の“拠点”を米軍が攻撃したなどと言っているが、実際には多くの一般市民のいる場所に、米軍が一方的に爆撃を行っている。米国人が人質となり殺害された際に、ブッシュ大統領は「テロには屈しない」と言ったが、相手の行為だけをテロと呼ぶ、そのアメリカ自身が行う行為こそ国家テロにほかならないのである。
世界のどこよりも多く殺人兵器を所有し、世界中に軍事基地を作り、国連憲章も無視し、衝撃と畏怖と名付けてイラクへクラスター爆弾や劣化ウラン弾を投下するアメリカ。しかしイラク統治は思惑通りにはいっていない。大統領選挙を前に、ケリー候補はブッシュの戦後計画がなかったと非難したが、実際はその計画が予期せぬ方向にいっているのだ。
イラクの民主化を大義に掲げたアメリカのもくろみの一つは、イラクをアメリカのような自由経済市場にすることだった。そのため、昨年5月に着任したアメリカのブレマー文民行政官がまず行ったのは、イラクの数十万人の公務員をクビにすることだった。多くは兵士だが、医師や看護婦、教師などもいた。フセイン政権の支配政党バース党員を追放するという名目だったが、多くの労働者がこうして職を失った。そして経済復興のために効率の悪い国営企業をすべて民営化すると発表した。さらにイラク国境を開放し、輸入品が審査も関税もなくイラクに流入できるようにした。
2003年9月には、海外投資家を呼び込むためにとんでもない法律を作った。イラクの法人税を一律15%に下げ、外資系企業は天然資源分野以外であればイラクの資産(企業)を100%保有することができ、利益は100%無税で国外に持ち出せるというもので、サダム・フセイン時代と変わらないのは労働組合や集団交渉を禁じることくらいだった。こうしてイラクを多国籍企業にとってさく取し放題の国にすることが、米政府の戦後計画だった。
今、民営化も進まず、多国籍企業のビジネスマンも次々と撤退している。なぜならビジネスどころか、軍隊が撤退するくらいイラクは危険な場所なのだ。それも当然である。占領下のイラクで、例えばイラク国営のセメント会社は復興の契約から除外され、米企業が高い価格で再建プロジェクトを受注した。セメントはトルコから輸入された。70%近い失業率にもかわらず輸入製品や外国人労働者がイラクに流入したのだ。結局、アメリカの占領政策が、その犠牲となったイラク人のレジスタンスをより強力にし、レイオフされた労働者がカラシニコフを手にして米兵に抵抗しているのである。
こうして今年6月末、ブレマーは逃げるようにイラクを出国した。日本政府が自衛隊のイラク派遣の期間延長を検討する理由は「日米関係を考えた場合、日本が率先して撤退はできない」(外務省幹部)というのだが、おそらく米国に追随していれば、日本企業が利権のおこぼれを獲得できるというのが本音だろう。生命よりもお金が大切な人にとって、戦争はやはり素晴らしいビジネスなのである。