このレターを書いていると読者の方から記事や情報を送っていただくことも少なくないが、先日もイラクで人質になった今井紀明さんの『ぼくがイラクへ行った理由』という本を教えていただいた。今井さんは、劣化ウラン弾の絵本を作ろうと高校卒業後、イラクへ行かれたのだが、本にはそのいきさつや体験が書かれているという。私の日本語能力は、日本語の本を読んで完全に理解できるレベルにはないために残念ながら読んでいないが、最近「劣化ウラン弾」についての記事を多く目にするので今日はそのことを書く。
無差別殺人に手を貸す政府
劣化ウラン弾とは、天然ウランを濃縮処理する過程にできる核廃棄物の劣化ウランを利用した、きわめて強い破壊力をもつ弾丸である。米軍は1991年の湾岸戦争時にも大量に使用し、今回のイラク戦争でも数百トンが使用されたとみられているが、米政府は劣化ウラン弾の使用量を「非常にわずかな量」としている。
ブッシュ大統領においては劣化ウランの危険性をプロパガンダ(宣伝)だと言いきっており、ホワイトハウスのウェブサイトで、サダム・フセインは湾岸戦争で連合軍が使用した比較的害の少ない物資である劣化ウランが原因で、イラク人の間でガンや奇形児が急増していると、奇形児の写真を公開して非難しているが、それはうそであり、科学的証拠によればイラク人が使用した化学兵器が原因であると書いている。そしてWHOも国連環境プログラムもEUも、劣化ウランによる健康被害はまったくないとしているという明らかなうそを、ブッシュはそのホームページに掲載しているのには驚く。うそを言いつづければ、それが本当になるとブッシュ政権は信じているかのようだ。
今年4月、ニューヨークデイリーニュース紙は、サマワに駐留していた米部隊のうち4人が、砂煙に混じった劣化ウラン弾の残留物を吸い込んで被爆し、放射線障害に苦しんでいることが判明したという記事を掲載した。サマワといえば日本の自衛隊が駐留している場所だ。
昨年末の北海道新聞によると、陸上自衛隊はイラク派遣要員の家族に対する説明会で「放射線を測定するために計器を全員に携帯させ、危険値が出た場所では活動しない」と言っているが、イラクへ派兵された米兵が自分の軍が使用した劣化ウラン弾で被爆していることについて、日本政府はどう説明しているのであろうか(注‥自衛隊が携帯するというこの計器では劣化ウランは測定できないという報道があることも追記したい)。
劣化ウランはさく裂すると放射性の細かい粉煙が作られ、これは何十億年もの間、放射性を持ち続け、人間が吸い込むと体内に蓄積されていく。その粒子が風でイラクの大地に散らばり、イラクの民間人、米兵、おそらくは日本の自衛隊員にも区別なく散布され、時間をかけて肉体にさまざまな症状を及ぼしていく。繰り返すが、米軍はこの危険な無差別殺人兵器を90年の湾岸戦争で、ユーゴスラビアで、アフガニスタンで、そしてイラクで使用した。
ブッシュはイラク人のガンの発症率増加をプロパガンダだというが、湾岸戦争から帰った兵士がさまざまな症状に悩まされていることは、もはや隠すことはできない数にのぼる。1ヶ月の攻撃で終わった湾岸戦争で多くの人々が苦しんでいるのだから、長期化したイラク戦争で放射能汚染がどれほど広がっているかは想像に難くない。
劣化ウランを危険ではないというブッシュの言葉がうそである証拠はインターネットの世界ではいくつも公開されている。ボスニアで米英軍が劣化ウラン弾を使用し、帰還兵士に健康障害が多発したため、九六年に国連人権小委員会は劣化ウラン弾の使用禁止を決議したが、米国の反対で立ち消えた。欧州議会も劣化ウラン弾が有害な影響を与えるとして使用を禁じる決議を2003年にしている。これらを否定し続けているのが米国政府であり、口をつぐんだまま国民の税金でアメリカが劣化ウラン弾をまき散らすことを手伝っているのが日本政府だ(産経新聞によれば防衛庁はサマワへの自衛隊派遣枠を千人規模に増員する方向で検討に入ったという)。
劣化ウランによって汚染された土地や水は浄化することもできないし、治療法もない。大量破壊兵器があるからと侵略し、劣化ウランという大量破壊兵器を使っているのがアメリカによるイラク戦争だ。
被爆国が、原爆を使用した加害者である国が他国に対して無差別殺人を行っているのを助けている。その愚かで皮肉な行動を隠すために、イラクで今井さんたちが人質になった時、政府やメディアはひどく彼らを中傷して、彼らの意見に国民が耳を傾けないようにしたのだ。国民にうそをついてでもアメリカの戦争に協力する。ブッシュと同じく、うそをつき続ければそれが本当になると、小泉首相も信じているのかもしれない。10月30日、人質となっていた香田さんの遺体が「星条旗」で包んで遺棄された。そして同日、小泉首相は「引き続き自衛隊による人道復興支援を行う」との声明を発表した。妄信的にアメリカの言うなりになっている小泉政権のために、日本という国が、イスラム世界を失望させている。