豊富な安い石油に支えられている時代は終わりに近づいているという警鐘を鳴らし続けている私は、いま自宅の庭を菜園にするべく自然農法を勉強中である。福岡正信氏の『One Straw Revolution』(わら一本の革命)を読んだことがきっかけだったが、これまでの生き方や価値観までも揺るがされるほど、私にとっては衝撃であった。
石油依存減らす施策を
福岡氏は農業試験場勤務を経て自然農法一筋に生きた人である。著書が英語で出版されているのも、フィリピンのマグサイサイ賞やインドの最高栄誉賞などを受賞していることから日本だけでなく海外でもその名を知る人が多いためである。
私のようにインターネットで世界中から情報を取り寄せ、地球とそこで生きる人間の向かうべき方向性を考えつつ、コンピューターソフトウエア業界に身を置いてビジネスを行うという生き方とは違い、福岡氏はその哲学通りすべて自然とともに生きることを実践している。私は人にはそれぞれに役割があり、できる範囲の中でその使命を全うすることが人生であると信じているが、環境問題に興味を持ち始めた私が福岡氏の哲学を知ったことも決して偶然ではないだろう。
農業は私にとって重要な問題であるということは理解しつつも、食料自給率と人口のバランスや、そこで使われる石油資源という視点からそれをとらえていた。しかし福岡氏の著書を読んで、このまま効率や経済性にばかりとらわれた生き方を人間が続けていくことで、自分もその一部である「自然」を破壊することで、すべてのバランスが崩れていくことをあらためて痛感したのである。
科学技術は万能である、従ってその進歩によって現在人類が直面する問題は食料、エネルギー、環境問題も必ず解決するだろうと多くの人々は信じようとしている。しかし現実を直視すれば、近代農法とは化学肥料や農薬で土を痛めつけ、雨が降ればその表土は流され、さらにそのやせた土に化学肥料を入れることで生態系のバランスを壊すという悪循環を続けているにすぎない。そしてそれを絶つためには、文明の在り方を変えるという、つまり生き方や価値観を見直すという岐路に、先進国に住むわれわれは立たされている。
しかし日々の生活で自分に何ができるかを考えたときに、現代の経済、社会体制から大きな利益を得るお金や力を持つ支配者層による強いマインドコントロールによって、結局は自分一人の力では何もできないと思ってしまうのだ。石油の減耗についても私が最初に調べ始めた一年前より、英語の世界ではますます多くの情報が提供されているが、日本語での情報量はほとんど増えてはいない。石油製品市況の動向が発表され十年ぶりの高値水準といった情報が流されても、その原因はイラク戦争だとか中国やインドの石油消費の急増と片付けている。多くの石油産出国でその生産がピークになったことが原因であると、なぜ日本政府も財界も発表しないのだろうか。
英語の情報では米ゴールドマンサックスなども原油価格が急騰する時代に入ったという情報を顧客に提供している。原油が上がればガソリンや重油などの燃料だけでなく、石油を原料とする五十万種類ものあらゆる製品に大きな影響がでるということであり、ゴールドマンサックスがそれを顧客に知らせるということは、同社と強い関係を持つブッシュ政権がなぜイラク、そしてイランを支配下に置こうとしているのかという筋書きがあらためて明確になる。エネルギー資源をめぐる争いで、アフガニスタンに次いで中東でも多くの民間人が殺されているが、これから石油の減耗がより明らかになれば世界のあちこちが同じような戦場となる可能性がある。
小泉首相は米国に追随して自衛隊をイラクへ派兵しているが、希少になったエネルギーを米国がいつまでも日本に分け与えてくれるはずはない。資源のない日本が今しなければならないことは、石油供給が急激に減少する前に、日本人の知恵を絞って、生態系を破壊することのない持続可能な社会に向かうための活動を始めることだ。そしてそのためには石油への依存をなるべく減らす施策を個人として、国家としてとることだ。
コンピューターソフトの会社を経営する私は自宅の菜園から着手したが、いずれ会社としても生態系を壊すことのない方法で農作物を作り、それを社員に供給するような仕組みが作れたらと考えている。夢のような話に聞こえるかもしれないが、世界的な視点から考えたら企業経営者としてこれは決して間違ってはいないと信じている。