7月7日の朝ロンドン市内で地下鉄、バスで連続爆発が起こり多数の死傷者が出た。イギリスのブレア首相はすぐにこれを「テロ」の犯行と言明した。翌日(8日)には、小泉首相がコメントを発表し「テロ行為は断じて許されるものではなく、強い憤りを覚える」と非難したという記事が掲載された。
犯罪行為を行えば必ず反動
朝の通勤時間帯、無差別に民間人を対象にしたこの事件はひどい犯罪であり、被害に遭った人々やそのご家族には心より哀悼の意をささげる。それと同時に私は、米国とそれに追従するイギリスの軍隊によって(そしてそれを後方支援する日本の自衛隊によって)日々爆撃を受け、恐怖の中で傷つき殺されている多くのアフガニスタンやイラクの人々に対して、同じように哀悼の意をささげたい。
ロンドンの報道で感じることは、メディアは権力のある金持ちの国で少数の人々が殺されると大きく取り上げるが、貧しく弱い国で民間人が何百人、何千人、何万人殺されても無視するか、またはほんのわずかしか報道することはないという事実だ。さらにこれは偽善的なダブルスタンダードだといわざるをえない。
「テロとの戦い」は2001年9月11日の同時多発テロ事件から何度も繰り返されてきたフレーズである。冷戦時代にソ連を悪の帝国と呼んだように、9月11日以降、米国は「テロ」という仮想敵国を作りあげて世界に恐怖心をあおってきた。このテロへの宣戦布告によって、世界は安全になるどころかますます危険な場所になったのである。
戦時体制下の米国は「アルカイダに味方するものは、すべてアルカイダとみなす」という方針を掲げアフガニスタンを攻撃した。しかし実際はアルカイダなる組織も、またアルカイダと「9・11」との関連性も不明瞭なままである。そしてその後イラクを先制攻撃し、アルカイダと関係があるテロリスト国家だとして攻撃を続けている。今回のロンドンの事件もアルカイダと結び付けたいようだが、明確にしておかなければならないことは米国の「9・11」も、またその後のスペイン・マドリードの列車爆撃も、アルカイダとどのような関係があったのかは明らかにされていないということだ。
過去の記事を検索すると、その時々に支配者が政策を押し通すために国民を欺くうそをメディアを通して流してきたことは一目瞭然である。そして今回のロンドンの爆破が新聞の一面に掲載され、その残虐さについてコメントする記事が報道される一方で、イギリス軍が米軍とともにナパーム弾や化学兵器を使って罪のないイラク市民を数多く虐殺してきたことはほとんどの日本国民に知らされてはいない。
2003年2月、ロンドンではイラク攻撃反対のデモに100万人以上が参加した。イギリス中から集まったとはいえロンドンの人口約700万人を考えると、多くのイギリス人がイラク攻撃に反対していることが分かる。今回爆破で死傷された人の中にも、イラクやアフガニスタンでブレア政権のとっている帝国主義政策への反対者がいたことはまちがいない。
ロンドンが爆破された時、その北に位置する保養地で厳重な警備のもとG8サミットが行われていた。数千人の警察や警備員に守られる中でG8のリーダーたちが世界中で抑圧されている人々からの攻撃にいかに自分たちの身を守るかを話し合っている間に、抑圧されるイラクやアフガニスタンの人々と同じように、犠牲となったのは身を守るすべもない一般のロンドン市民だった。
「9・11」も、そして今回のロンドンの爆破も、誰がそのような残虐な犯罪を犯したのか真実は分からない。しかし私たちは、ドイツのドレスデンや東京をはじめとする六十もの日本の都市に、爆撃を落として多くの民間人を殺傷したのが誰であるかを知っている。広島と長崎に原爆を落としたのが誰かを知っている。ベトナムで300万人、カンボジアでは200万人を殺し、グアテマラで10万人、エルサルバドルで7万5千人を殺したのが誰かも知っている。そして湾岸戦争とその後の経済制裁で一般のイラク人を苦しめ、アフガニスタン、現在イラクで行われている大虐殺を誰が行い支援しているのか、私たちは知っている。
ロンドンで起きた爆破事件にこだわって、米国やそれに追随するイギリスが行っている犯罪行為を見逃したり、支援すべきではないということを私は一人でも多くの日本の人々に訴えたい。他者に対して犯罪行為を行えば、または属国としてその行為に加担すれば、いつかその反動が自分にも降りかかってくるということをわれわれは覚悟しておかなければいけないのだ。