No.694 国民に投資する正直な政府

ロンドン市内でテロリストが起こしたとされる爆発事件があったせいか、同時期に開催された主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)についての報道はあまりなされなかったように思う。

国民に投資する正直な政府

 主要“帝国主義”8カ国の首脳が集うサミットは、いうなればグローバルな搾取体系をさらに発達させるために、多国籍企業の利害を代表する首脳が、法的に認められていないにもかかわらず世界に大きな影響を及ぼす決定を行っているとして、抗議行動が盛んに行われたのは2001年のジェノバサミットがピークだった。ジェノバのサミット会場は約20万人の抗議デモに包囲され、デモ参加者一人が警官に射殺される事態になったほどである。

 それから4年、今年のサミットでは大きなトラブルの代わりに非政府団体が台本を作り、過激な暴徒の代わりに舞台に立ったのはロック歌手だった。サミットの直前にロンドンなどで参加国の首脳にアフリカの貧困撲滅を訴える世界同時コンサート「ライブエイト」が行われたのである。途上国支援を倍増すること、債務を帳消しにすること、そして公正な貿易をアフリカにもたらすように、そしてサミットは何百万もの人々の将来を変える可能性がある、とそのイベントの主催者ボブ・ゲルドフは訴えた。

 G8諸国は2010年までにアフリカ支援額を250億ドル増やし、日本政府についていえばアフリカ向け以外も含めODAを今後5年間で計百億ドル増額すると表明している。

 アフリカをはじめとする貧しい世界では、過去30年間、先進国から財政援助を受ける代償として国の経済を多国籍企業に明け渡してきた。しかし構造調整が失敗に終わっているのはアフリカの現状を見れば明らかである。貧しい国が借金を返すために経済状況を改善して外貨を得て、その上で債務返済期間を延ばして返済する。これが構造調整だが強大な先進国に対して、どうやってアフリカが経済状況を改善すればよいというのだろう。

 返済のために国家予算が圧迫され、まず国民に必要な医療や教育の予算が削られる。そして財政援助は独裁者や政府高官の手にわたり、進出した多国籍企業に国家の貴重な資源の採掘権が奪われ、貧困は悪化して少数の金持ちと大多数の貧しい国民に分断されるというのがそのシナリオなのだ。

 シアトルで開催されたWTO閣僚会議やジェノバ・サミットでは、長年にわたり何も変わらない貧困世界の痛みに対して立ち上がった人々が抗議デモという形で憤りを表してきたが、今回はその憤りを察知するかのように有名人のコンサートを始まりに、G8のリーダーたちは自らアフリカを救うことをテーマに定め、これまでと何も変わらない方向性を打ち出した。

 小泉首相や欧米諸国のリーダーが支援額を倍増し、その代わりにアフリカ諸国に真剣に問題に取り組むよう要求することは間違ってはいない。豊富な天然資源、多くの労働力を持つ国に欠けているのは、国民の安寧を考える正直で有能な国家指導者なのである。

 ニジェール、アンゴラ、スーダンその他の国の惨状をみれば、まずはその国の指導者が国民のことを考えなければ何も変わらないのが現実だ。例えばニジェールの食糧危機も、政府がその開発政策により国民から生活に必要な資源を奪ったからであり、援助供与国が適切に食糧保障制度を管理できていないためなのである。

 私が言いたいのはアフリカを救うのはその国の国民しかないということだ。原因の一端が先進国にあったとしても、内紛によって同じ国の中で民族同士が殺し合いをしている人々を部外者は救うことはできない。今のアフリカに何億ドルもの資金援助を注ぐことは、乾いたアフリカの砂漠をかんがいするためにバケツで水をまくようなものかもしれない。

 アフリカにまん延するエイズには教育が必要だが、先進国が本当にアフリカのことを思うのであればまずアフリカへの武器輸出を禁止することだ。国民への満足な教育も、また飲料水や下水道も整備できず、食糧も医療も満足に提供できない国が兵器やタンクにお金を使っているのがアフリカの現実なのである。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、2004四年の世界の軍事費は1兆350億ドルを記録したと発表した(このうちの47%は米国によるものだがそれはまた別の問題である)。

 アフリカの、そして貧困の問題の解決策を考えるとき、お金や食糧を援助をすることは真の問題解決を考えるよりも簡単だ。しかしアフリカ自身がまず、部族同士殺し合う状況のままでは部外者は何も変えることはできない。武器にお金を使うのをやめ、食糧生産のために農業を改革し、国民に投資をしようとする正直な政府が必要なのは日本だけではないのである。