No.696 国政無関心の罰は大きい

郵政民営化法案が参議院で否決されたことを受けて、小泉首相は衆議院解散を断行し総選挙という事態になった。小泉首相がそれほどまでにこだわる郵政民営化について、再度検証したい。

国政無関心の罰は大きい

財政投融資の改革から始まり、それが「民間でできるものは民間に」と民営化そのものが目的となったこの郵政民営化は、本をただせば米国からの圧力だということはいまさら繰り返すこともない。

米国政府が主導する国際通貨基金(IMF)は7月29日にまとめた報告書で郵政三事業の民営化を「歓迎する」とし、小泉首相の構造改革を積極的に支持するとしたのだから、参議院の否決や衆議院解散には驚いていることだろう。

この報告書は、「日本最大の貯蓄機関である郵便局の民営化は、民間金融機関との公正な競争条件をもたらす」と評価しているし、また米国政府のスポンサーである米生命保険協会は「郵貯・簡保の民営化は国際公約だ」と引き続き郵政民営化を求める声明を出している。IMFの焦点は小泉首相が繰り返していた地方の郵便局がなくなることではない。

自民党政府がなぜ米国の言いなりかということについては、以前にも書いたが、日本を太平洋戦争に導いた政府から米国政府の手によって現在の自民党が作られたという経緯があり、その目的は米国の植民地として統治することであったために、米国に忠実でない「総督」は排除されてきた。民営化を押し通そうとする小泉首相、竹中大臣は米国にとって忠実なしもべであろう。

しかし衆議院選挙となったいま、ハンドルを握るのは日本国民である。

米国政府のスポンサーである米大手金融機関が民営化させたいのは、米国のソーシャルセキュリティー(年金)と日本の郵便貯金である。なぜなら民営化によって、その資金にアクセスできるようになる。

米国民が年金資金に、日本国民が郵便貯金に望むのは将来のための安全性、つまりそのお金がばくちや投機に使われて目減りするものでは困るというのが当然の要望である。その郵貯を、小泉首相、竹中大臣は民営化し、それによって金融海賊がこれまでシステムに守られてきた資金にアクセスして、それで投機ができるようさせようとしているのがこの民営化である。

銀行は預金者から預かったお金で株式や債券、国際通貨、デリバティブなどの売買を行っている。もちろん預金者はそれを知らされず、利益が出ればそれは銀行のものだし損失が膨らめば不良債権とよばれる。膨らめば国民の税金が投入される。バブル崩壊後の状況を思い出せばいい。

証券会社は顧客から預かったお金で投機をするのではなく、むしろ顧客に投機(株の売買)をするように説得する。それもできる限り多く。なぜならその取引によって利益が上がる仕組みになっているからであり、証券会社にとっては顧客がもうかっても損しても関係はない。

米国のソーシャルセキュリティーや日本の郵貯が民営化されるということは、そのお金が銀行や株式市場に入ってくることを意味する。銀行はそれを使って投機ができるし、証券会社はそれによってコミッションを増やすことができる。いずれにしても、もうけを手にするのは金融機関で一般国民(預金者)ではない。

例えば東京証券取引所の昨年の1日の平均取引額は1兆3940億円だった。つまりこの1兆3940億円の何パーセントかがコミッションとして報酬となる。

2005年7月の郵貯残高は約209兆円であった。1兆3940億円は郵貯残高の0.67%である。郵貯民営化によって、郵貯残高のわずか0.67%の金額が株に流れただけでも取引は倍に、つまりコミッションも倍になる。昨年の高額納税者第1位は、納税額37億円、投資顧問会社の株の運用部長だったことは記憶に新しいと思う。受け取った報酬額は100億円にもなるだろうか。このような納税者が増えることは本当に健全な社会なのだろうか。

今回の衆議院選挙の結果は郵政民営化賛成派だけでなく、米国の金融機関もかたずをのんで見守っている。しかしイラク人がどのような目に遭っても気にならない人々は、自分の貯金がどうなっても同じように気にならないのかもしれない。そして国民が国政に無関心であればあるほど、日米政府は金融海賊のやりたい放題の政策を簡単に日本に導入することができる。無関心であることの罰は大きい。