飛行機に乗らないと宣言してから、北海道や九州へは寝台列車で移動するため日帰り出張は不可能になり、秘書は私の予定のやりくりに苦労しているようである。国内線に乗らない理由は日本の上空で、民間機は米軍機とのニアミスを避けるように飛ぶことを余儀なくされているという記事を知ったためである。
原油高騰続けば飛行機終焉も
日米地位協定によって守られた米軍パイロットは日本の航空法を順守する義務もなく、民間機がその米軍機を避けながら飛んでいる。沖縄県宜野湾市の沖縄国際大に米軍ヘリコプターが墜落してから一年以上たつが、墜落の危険性に加えて日々の騒音に悩まされている沖縄県の人々にとっては、飛行機に乗らないだけでは何も解決にならないことも事実である。
しかし最近になって、世界の空を飛ぶ飛行機の危険性をあらためて考えさせる事故が続いている。ギリシャではキプロスのヘリオス航空が墜落、乗客乗員121人全員が死亡した。高度1万メートル、マイナス50度で飛行機の温度調節が不能になったため収容された遺体は墜落前に凍死していたという。ベネズエラではコロンビアのウエスト・カリビアン航空が墜落、原因はエンジントラブルとみられ、こちらも全員が死亡した。また死者は出なかったが、日本でも福岡空港を発ったJALウェイズが製造後二十五年を経過したエンジンから出火、部品の金属片を落として引き返すという事故があった。
事故ではないが、8月にロンドンで英国航空の職員が機内食業者の職員が解雇されたことに同情してストライキを実施、また米ノースウエスト航空の整備士や地上職員らが加入する労働組合は、人件費削減計画の受け入れを拒否しストライキに突入している。飛行機事故に合わせてこれら一連の出来事はみな関連していると私は考える。つまりこの背景にあるのは航空会社にとって最も大きなコストを占める石油価格の急騰である。
飛行機で人間や物資を輸送することが一般的になったのは20世紀半ばごろであり、それを可能にしたのは1バレル2ドル以下という安い値段で豊富に供給されていた石油である。航空機の開発や航空業界に対して政府が多額の補助金を提供しなければ発展することはなかったという事実は別として、安くて豊富な石油なしには航空輸送が経済的な手段として普及することはなかった。その石油が1バレル60ドル以上に高騰し、さらに希少になれば飛行機は経済的な輸送手段だとはいえなくなる。現実に、すでに非経済的な輸送手段となってしまった。
世界の中で利益を出している航空会社があるだろうか。言い換えると、政府から補助金を受けることなしに経費をカバーできている航空会社はあるのかということだ。私の知る限りではおそらくそのような会社はない。利益を出せない企業が存続するために何をするかといえば、民営化された鉄道会社が利益を優先して安全への投資を怠った例を出すまでもなく、ひたすら経費を削減するしかない。機体をより長期間にわたって繰り返し使用したり、整備や保守のプロセスを簡略化したり、少ない燃料を積んで飛んだり、社員の教育訓練を減らしたりして石油価格の高騰に対処しつつビジネスを続けるのである。その結果、最初に述べたような飛行機事故が多発する状況がもたらされたと私は見ている。
石油生産がピークを迎え原油価格が高騰することで工業社会において多くの企業が影響を受けていることは間違いない。しかしそれが事故という形で起きたために目立っているのが航空業界である。多くの人々がこの業界に依存しているため、航空会社が自発的に営業をやめることはまずないだろう。したがって可能なかぎりコスト削減が行われ、その一方で空の旅はより危険になっていく。日本政府やメディアが、コスト削減によって古い機体を使い続けること、整備や乗務員の訓練を怠ることがもたらす危険性を国民に正直に伝えないのであれば、私のように乗るのを止めるという選択をとることはばかげていると思われるかもしれない。
しかし考えてみると2003年、イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機・コンコルドは最後の飛行を終えた。1976年から定期運航を開始したマッハ2の超音速で巡航するコンコルドは、その経済性と25年という同機の老朽化による危険性の増大から永久に空を飛ぶことはなくなった。石油バブルとともに最初に終焉を迎えたビジネスがコンコルドであった。原油高騰が続けば、時間の経過とともに飛行機が同じ運命をたどると考えるほうが自然である。
<9月14日、米国航空業界3位のデルタ航空、同4位のノースウエスト航空はそれぞれニューヨーク州の連邦破産裁判所に米連邦破産法11条の適用を申請し、会社更生手続きに入った。米航空業界では大手7社のうちすでにユナイテッド航空、USエアウェイズも破産法の下で運航を続けている。>