自民党圧勝で選挙が終わった。日本という国が、強い力によってある方向へ動かされていくような、そんな感覚を覚えた。
戦争の手伝いをする国へ
このコラムで小泉政権が主張する郵政民営化が意味するものを検証してきたが、主流メディアが違うことを論点としていたことを考えればこの結果も当然かもしれない。有権者が与えられた情報で意思決定をしていれば仕方のないことだし、洗脳といえば言葉は悪いが、今の米国の実情をみていながらそのやり方を模倣し、宗主国としてあがめているのだから洗脳以外の言葉は思い浮かばない。それでも多くの国民がそのような意思表示をしたのであるから、これからはますます小泉内閣懸案事項が実行に移され、改革が加速していくであろう。
基本的な話をすれば、小選挙区比例代表並立制という選挙制度は極めて大政党に有利なものである。小政党の場合、比例代表区なら自分たちの政党に票を集めることに力を集中させられるが、小選挙区では大政党を打ち負かして議席を獲得することは難しい。今回の選挙でもそれが如実に表れた。
毎日新聞によると、小選挙区の有効投票総数のうち自民党候補の得票の占める比率は47.8%、民主党候補は36.4%であったにもかかわらず、自民党は定数300のうち7割以上に当たる209議席で、民主党はわずか52議席であったという。
さらに当選者が一人の小選挙区制度では残りの候補者に投じられた票は死票となるため、日本共産党は小選挙区の得票率約7.3%だが議席はゼロであった。こう考えると自民圧倒とはいっても個々人をみれば全国で48.5%が死票、つまり有権者の半分近くは改革を支持したわけではなかったことが分かる。しかし言い換えると、半分の有権者は小泉内閣を支持した。
でこれから日本はどのような道をたどるのか。それはおそらく日本が手本としている米英を見るとよいだろう。米国はロナルド・レーガン、英国はマーガレット・サッチャーの時代から両国はともに社会を破壊し、それを“市場”に変えた。つまり、すべてが金銭取引されるもの、あらゆるものが売りに出された。それがグローバリゼーション、規制緩和、民営化の行き着くところだ。それはすべて富や権力を持つ人々を利するためのものである。米国でも英国でも富裕層の税金や法人税が減税され、小さい政府が標榜され、そして一般国民の税負担は増大した。
その理屈は単純である。政府が提供してきたさまざまなサービスを負担してきたのは自分たちである、負担もせずに税金を使って行われる政府のサービスを利用している貧しい人々のために、これ以上自分たちは税金を払いたくはない、ということだ。
富裕層は社会にあるさまざまな規制も緩和したい。なぜなら、ほとんどの規制とは自分たちよりも弱い人々、貧しい人々を搾取することができないようにさせるために作られたものだからである。民営化も同様である。
民営化とは公共の財産を私物化することである。民営化されるとその資産を買うことができる。国家によって、つまり国民の税金によって何十年間もかけて構築されたさまざまな資産を買い取り、それから利益を得られるようになる。その公共の資産を利用していた一般の人々にそれを買い取る力はない。私物化できる力を持っているのは大企業や大資本家などの富裕層に限られる。
選挙にますますお金が必要になった理由はそのためである。選挙資金を必要とする政治家は、再選されるために多額の資金が必要である。それを提供できるのは一般の国民ではなく大企業だけなのである。そしてこの米英と同じ姿が見られたのが9月の衆議院選挙であった。
時間は戻すことはできない。小泉首相は米英のファシズムを現代の日本に取り戻すことに成功した。すでにアジア近隣諸国では日本政府の改憲の動きを懸念する声が出ている。日米両政府はテロ対応や国際貢献のため2006年度に陸上自衛隊内に新設する「中央即応集団」の司令部を、神奈川県にある米軍基地「キャンプ座間」の敷地内に置く方向で調整に入ったという。キャンプ座間は米軍再編により米本土にある米陸軍第一軍団司令部が移転される構想がある場所である。米国のテロ対応を両手を挙げて手伝おうというのだろう。
日本国民の貯金を米国に差し上げ、世界中のテロとの戦いという米国の戦争の手伝いをする国になることが改革、それが日本社会の向かう姿なのである。