No.705 米自動車メーカーの危機

1950年代に米国を象徴する大企業であったゼネラル・モーターズ(GM)の経営がいま危ぶまれている。10月初めにはGMから分離・独立した自動車部品メーカー、デルファイが会社更生手続きを申請し、米自動車関連業界では史上最大規模の破たんとなった。残るフォード社も同じような状況で、北米の売り上げ不振による業績悪化のため大規模な米国工場の閉鎖と大量解雇を発表するという。

米自動車メーカーの危機

石油が安く豊富だった時代、GMもフォードも優良企業として米国に、そして世界に君臨した。その会社が経営危機に至った理由はいくつかあるが、その復活がいかに難しいか、ここに検証したい。

まず最近米国で販売された自動車の半分以上はSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)という多目的車である。これは大量のガソリンを必要とし、従って環境汚染も大きいことで知られている。しかし高価で利益率が高かったため、両社はそのもうかる車を製造し販売することに熱中した。ガソリンの高騰により、もっと安価で利益率の低い車にシフトすることは彼らにとって容易ではない。今後ガソリンの高騰が続けば、消費者のSUV離れは加速し、市場は縮小していくだろう。

それだけではない。昨年、米国での消費の七割、または過去10年間の米国の消費の3分の1は借金によるものであり収入を使っての買い物ではない。厳密には、米国人は住宅を担保にお金を借り消費を続けているのである。

これを可能にしているのは米国の住宅バブルであり、その原因はFRBの低金利政策と日本と中国からの巨額な貸し付けである。低金利はより高価な住宅への需要を刺激する。住宅の需要が増えると価格が上がり、それによってホームオーナーはそれを担保により多くのお金を借りることができる。

しかし、この住宅バブルも終えんにあると多くのアナリストや企業経営者は見ている。バブルがはじければ住宅価格は暴落し、担保よりも借金が上回り、借り手は銀行が抵当を流すことがないよう返済を急がなければならないため消費の減退は避けられない。これはGMやフォードのような自動車メーカーだけでなく、米国を市場として頼っている日本企業にも大きな打撃となる。さらに米国の消費者ローンは、当初は固定金利でも途中から変動金利に変わるもの多い。このため金利上昇によってさらに消費を切り詰めなければならない状況になることは必至である。

GMやフォードの経営は両社に限っての特別な手法ではない。米国企業が業績悪化に直面し最初に行うことは、従業員の解雇と、解雇できない従業員に対しては賃金や手当の削減である。GMはそれに加えて同社の退職者向け医療費債務のうち150億ドル(約1兆7千億円)、つまり長年GMで働き、退職した労働者に約束した保険料や医療費も削減する。GMやフォードがデルファイのように連邦破産法の適用を受ければ、従業員に対するさまざまな手当をさらに削減することが可能になる。結局、これによって米国全体の景気は後退し、自動車市場もますます縮小するという悪循環となるだろう。もちろん、破産法の適用を受けた会社から車を買う人も多くないだろう。

米国においてエネルギーコストの高騰は、効率の悪い自動車や航空業界だけでなく、より効率のよい鉄道などの大量輸送システムにも影響を及ぼし始めている。石油文明ともいえる現代では、あらゆることに化石燃料が使われているため、いかなる行動もこれまで通りというわけにはいかなくなるだろう。

危機にひんするGMやフォードをみても明らかなように、米国において民間企業の第一の目的は、利益の最大化と、株主のために株価を最大にすることである。これが米国原理主義者のイデオロギーなのだ。経費が発生すると最初にすることはその他の経費を削減することであり、それはたいてい労働者の賃金や手当のカット、または価格に上乗せし消費者に転嫁される。それは株主(そして経営者)を富ませるために唯一搾取できるものが、従業員と消費者だからである。

米国を象徴する自動車メーカーの危機は、その経営手法を取り入れた日本企業、日本の消費者と呼ばれる国民にとっても深い意味を持つ。エネルギーの減耗と米国が日本に押し付けようとしている原理主義が日本国民の生活にどのような影響をもたらすか、時間を追って明らかになってくるだろう。