No.709 人と人とのネットワーク

このコラムの読者からお便りやメールを頂くことが多い。その場合、反論や私を攻撃するもののほとんどが匿名である一方、私の考えに賛同してくれたり、激励してくださる方はほとんどが記名付きで送られてくる。私のコラムをインターネットで海外から読んで感想や本を送ってくれる人、またはさまざまな情報をメールでくれる人、私のコラムを基に意見交換をしてくれる人など、一人の発信が何乗にもなって伝播していることを痛切に感じる。

人と人とのネットワーク

特に最近は私が情報源とする海外のメディアや記事、米国の友人たちと行う意見交換とほぼ同じようなタイミングで、日本の読者からも似たような情報を頂く。これはインターネットによって国境や時差などの垣根がどんどん取り払われてきているということだろう。

それでも相変わらずテレビや大新聞は、政府や自分に都合のよい切り口でしか報道することはない。先月ブッシュ米大統領が日本を訪問して小泉首相と会談し、その後12月14日に派兵期限を迎えるイラクへの自衛隊派兵の期限を延長することを事実上表明した。イラク戦争はなぜ始まり、イラクが今どうなっているのか。日本のテレビも新聞もその現実を検証しないが、世界の多くの人はイラク攻撃は米国とその同盟国による侵略戦争で国際法に違反していることを知っている。

1990年イラクはクウェートを侵略し、その後イラクは持っている核兵器や生物化学兵器を廃棄することを約束して停戦が成立した。しかし米国は、イラクはその約束を破り国連の決議を無視し兵器を廃棄していない、イラクの大量破壊兵器は世界平和への脅威だと攻撃を開始したのである。イラクが安保理決議を無視したのは事実だが、しかし大量破壊兵器は見つかっていないし国連の決議を無視することにおいては、イスラエルの方がよほど多くの安保理決議に違反している。

小泉首相がイラクへの自衛隊派兵延長を表明した日、米CNNは「米軍がイラクで“白リン爆弾”を使用したことを認めた」と報道した。昨年11月のファルージャ大攻勢の際、高熱で人体を焼くことのできる白リン爆弾を武装勢力拠点に対し使ったというのである。

この始まりはイタリア国営放送がドキュメンタリー番組で米軍によるファルージャ大虐殺の映像を放映したことである。米国務省は当初、白リン爆弾を敵対勢力に使ったことはなく「照明弾」や煙幕として空中に放ったのみだとコメントしていた。これを訂正し、武装勢力に使用したことを認めたが、民間人への使用は否定し、またこの爆弾は化学兵器には当たらず使用は合法的であることを主張した。

CNNのニュースだけを読むと、白リン弾は使ったが特に問題はなく、見えにくい標的を浮き上がらせるために第二次大戦中沖縄の防空壕(ごう)の日本軍に対して使ったようなものだともとれる。そして小泉首相はこの米軍の行動には目をつぶり、日本国民の税金で自衛隊を派兵しイラク侵略を支援していこうという。また日本の主流メディアもこれらの事実を国民に広く知らせたくないようだ。

詐欺に遭わないためには、詐欺師の言うことではなくその行動を見ないといけない。米軍侵略の前と後で、イラクではより多くの国民が米軍のクラスター爆弾などで無差別に殺されている。フセインから「解放」されたかもしれないイラクは米国から民主主義だけでなく白リン爆弾も見舞わされている。

そして小泉首相は、非核三原則を堅持する日本としてイラクに恐ろしい兵器を即時廃棄することを求めていくことは、生物化学兵器に対して最も厳しい態度を取り続けているわが国として当然だといいながら、2008年に神奈川県の米海軍横須賀基地に初めて原子力空母を配備するという。唯一の被爆国が廃絶どころか核を配備するというのだ。

米国の、そして日本のリーダーの、言うことではなく行動をしっかりみていかないと、日本がイラクのような危険な目に遭わないとも限らない。そのためにも、政府が情報を統制しようというのならば、人と人とのネットワークにつながることが大切であろう。ネットワークにつながれば、私のところに情報が集まるように人々は知らないうちに情報を伝達する役目を果たすようになる。それがインターネットであっても草の根であっても、そのネットワークが広まれば日本から世界が変わることも決して不可能ではないと思うのだ。