冬になると程度の差はあれインフルエンザが流行する。私は予防注射をしたことはないが、お年寄りや幼児のいる家庭では予防注射を含めてさまざまな対策を検討していることだろう。小泉政権は必要なワクチンを供給できる体制作りをするためにワクチンメーカーなどに緊急研究費1億円を交付して、ワクチン原液の試作品製造などを進めるという。また厚生労働省はインフルエンザの治療薬タミフルなどについて買い占めなどが起きないよう卸売業者や医療機関への指導を求める通知を都道府県に出したという。
法律は弱者抑圧のツール
通常のインフルエンザに加えて近年はSARSや鳥インフルエンザと、さまざまなことを心配しなければならない時代になった。いや、正確には国民に対するプロパガンダが以前にもまして広範囲に、強力になってきているといえる。
プロパガンダとは、一般大衆を目標とした宣伝手法の一つで、主に政治的な目的を達成するために用いられる。プロパガンダが最も流されたのは冷戦時代で攻撃対象のネガティブなイメージを押し付け、一方で自分の主張に実体以上に価値を植え付ける。また都合のよい事象を強調し、悪い事実は隠ぺいされた。現在も同じプロパガンダが権力者によって行われていることは明らかだ。
小泉政権はワクチンの研究費を提供するというが、私有化されている企業において開発されたワクチンの特許はその企業のものとなるだろうし、生命にかかわるといっても政府がすることといえば買い占めしないように指導をするくらいだ。企業としては病気が広まらなければ薬を過剰に生産することで在庫の心配もしなければならないし、副作用による訴訟問題も考えておかなければならないだろう。
特に米国では鳥インフルエンザにも有効とされるタミフルを開発した企業(製造権はスイスの医薬大手ロシュに供与)はラムズフェルド国防長官が長官就任までの五年間会長を務めた医療会社であり、その薬を米政府が備蓄として71億ドル分(約8300億円)購入するということから米ウォール街では「政治銘柄」と呼ばれている。政府がタミフルを購入することで同社の株主であるラムズフェルドの資産は増えるが、彼が米国民の健康など気に掛けていないことは明らかだ。なぜなら日本のような国民皆保険制度のない米国の医療保険未加入率は15.7%で約4580万人が全く医療保険に入っていないからである。
もし国家の指導者が自分や製薬会社の利益のためでなく、真に鳥インフルエンザを脅威だとするなら戦時中のように動員をすればよい。戦時は武器や食料、鉄鋼、燃料などさまざまなものが動員された。粗利や在庫を心配することなく飛行機や弾薬が作られ、戦争を勝利に導くために国民にさまざまな忍耐が求められた。もちろん、こんなことを書けば過激だと批判されるかもしれないが、インフルエンザやワクチンのプロパガンダを聞くたびにその裏にある理由を考えずにはいられない。
私は自由主義を標ぼうする人々が宣伝するほど、自由がわれわれを幸福にしたかどうか大きな疑問を持っている。特に最近の政府と大企業が「自由に」一般国民を搾取できるような体制を目の当たりにするとなおさらである。戦時において動員という社会主義体制がとられたのも、国家が団結して何かに当たるとき、自由を優先した社会では無駄が多く非効率的であることを指導者たちが認識していたからにほかならない。
世界で最も自由だとされる米国をみるといい。冷戦後、アメリカは政府の機能を縮小して市場原理に委ねることで経済成長を持続させてきた。米国において経済的、政治的な自由を制限することは悪であり、この自由主義を自国だけでなく世界中に拡大させてきた。今米国は日本を含む世界のさまざま国に軍事基地を置き、侵略、爆撃を続けている。
自由主義における企業の自由とは、自分の利益を最大限にすることであり、国民を健康にするための薬を提供することではなくもうけることだ。だからこそ製薬会社はバイアグラのような薬を開発する。テロの恐怖と同じように鳥インフルエンザの恐怖を国民に広めることで政治家の保有する株価がさらに上がるという仕組みはまったく合法的に行われる。法律とは権力者が弱者を抑圧するためのツールであり、富や権力を持つ人々を何ら抑圧するものではないのである。歴史を振り返ると米国が敵対視する共産主義は多くの人命を奪った。しかし、いずれ同じ視点から米国が提唱する資本主義や自由主義について精査するときが必ずくるだろう。