偽メール事件で忘れ去られた感があるが、郵政民営化法案に反対した亀井氏への“刺客”として、自民党からの支援を受けてライブドアの堀江氏が立候補したとき、小泉首相は時代の変革期だと激励し、自民党幹事長の武部氏とともに選挙応援をした竹中平蔵大臣は「小泉改革は小泉、ホリエモン、竹中の三人でやる」とまで言ったことを有権者の方はまだ覚えているだろうか。
マネー資本主義の植民地
粉飾決算をしながら政治家を目指した堀江氏は、合法と違法すれすれの「錬金術」を行い、さらには首相や大臣からお墨付きをもらったお金がお金を生み出す「マネー資本主義」に走った末、自分が司法の手で裁かれる身になるなどとは微塵も思わなかったのであろう。
米国にカーク・カーコリアンという億万長者がいる。ラスベガスへのチャーター機ビジネスから身を興し、ラスベガスのカジノやホテルを買収してはまた売却するというビジネスで巨額の富を築き上げた人物だ。同氏が経営する投資会社トラシンダは、保有していたゼネラル・モーターズ(GM)社の株を昨年12月に売却し、今年1月になって再び同じ数の株を買い戻した。
なぜ12月に株を売却したかといえば、それは会計年度に資本売却損を計上できるからである。税法によって損失計上した納税者が同じ株を買い戻すことができないという規定にある30日を過ぎたのでまた買い戻したにすぎず、節税指南を行う会計事務所が推奨するまったく合法の節税方法なのである。経済紙によれば、こうして改めてGMの大株主となったカーコリアン氏はこれからGM経営陣に対して、レイオフなどさらなるリストラを要求していくだろうという。
カーコリアン氏や、一時は時価総額1兆円以上に膨張したライブドアの経営陣にとってビジネスはゲーム、それも中毒性のあるギャンブルだったのだろう。GMで働く社員や顧客は、彼らにとってリアルな存在ではないのである。それを可能にしたのも労働者や社会のための仕組みや決まりがどんどん外されたからで、それが規制緩和、民営化の行き着くところなのだ。
ライブドアの企業買収でも外資ファンドが大きな役割を果たしていたが、改革を進めたいとする小泉首相、そして米国に住民票を移して徴税を逃れていた竹中大臣はグローバリゼーションが金融的な植民地主義以外の何ものでもないことをもちろん理解しているはずである。グローバリゼーションとは大資本が入って労働力を搾取し、国の資源(日本の場合は預金)を取り尽くすことだ。利益を手にするのはその道筋を付けた政治家や財界のトップだけだろう。
これを止めることは決して難しくはないが、実行に移されたためしはないし、国民が真剣に奮起するまではおそらくこれからもないだろう。例えば、政治家はいかなる場合でも金品、接待を受け取ってはならない、また1円の単位まで政治家が行った投資の詳細を報告することを義務付けるようにすればよい。錬金術を駆使できる立場にいる人々は国民が選挙で選んだ人である。自分が信頼を寄せている人が、本当に信じるに値するのかを証明するようなシステムを作ることは決して悪いことではないはずだ。
ライブドア事件でも、耐震偽装マンションの事件についても、あまりにも政治家と民間企業との緊密な関係とその行動の不可解さは、たとえ大新聞やテレビが報道しなくても国民の多くは感じている。今回たとえ政治家の腐敗が明るみになっても、のど元過ぎればまた再び同じことが起きるはずだ。これまでもずっとそうだったし、日本国民が無関心を装うことをやめない限りそれは続くだろう。
羊のようにおとなしい、懐柔しやすい民だと指導者がたかをくくっている限り、一般国民への搾取はますます強まるに違いない。そして国民が判断すべきことはその政治家が誠実で正直であるかであり、属している政党や掲げるイデオロギーよりもそれはむしろ重要なことなのだ。改革という名のもとに、日本を米国流のマネー資本主義の植民地に変えようとしている政治支配の行く末は、ごく一部の支配者層が国家の大部分の富と国民を支配することである。そしてそれを止めることができるのは日本国民だけであり、もし無関心を続けて貧しい第三世界のような国に成り果てたとしたら、それこそ自己責任としかいいようがない。